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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
南大陸・メディカルキャッスル編
28/51

阿吽兄弟

(やっぱ阿吽兄弟はウゼーな……よりによってこんな場面で出てくるとはな。ほんと、誰がこいつらを刺客として呼んだ? ――くっ!)


 その二人の鮫のようなアバター・サメザーメの素早さにライトは翻弄され、水中でジタバタする。

 水に弱いライトは水中では身体能力を発揮する事が出来ず、防御と回避のみに専念せざるを得なかった。的確に敵の動きを読み回避する中、叫んだ。


「阿吽兄弟! こんな所でなにやってんだ!? ここにはパチ屋もキャバクラも無いぜ!?」


『我等は知っての通り阿吽兄弟。この付近の深海を捜索し、泡姫につられて来たのだ。本当はとある人物からの依頼だがな』


「それ言っていいのかよハゲ兄弟? それともうんこ兄弟?」


『剃ってるのだバカ者! うんこでもない!』


阿吽兄弟は正に阿吽の呼吸で言う。

 しかしライトは違う感覚に支配されていた。


「あ……ちょい漏らした」


『油断大敵』


 ヤベッ! とライトは大が漏れる事を自覚しつつケツを抑え言った。

 しかし、ガキンッ! ガキンッ! と息の合う阿吽兄弟のツメ攻撃に圧倒される。

 身体にまとわりつく水の重みに相変わらず苦戦しながら、


「前よりこの水中でやけに自在に動けるじゃねぇか。そのサメザーメも強化されてんのか?」


「当然だ。この鮫アバター・サメザーメは水中専用のアバター。貴様とてここでは紙屑のように始末されるのだ!」


「そう。貴様は地上では最強かも知れないが水中では弱い!」


 同じ顔のコウとソウはそう言い放ち、シュオオオッ! と更に加速し、水を切り裂くように迫るサメザーメは展開した両腕の先端の爪でライトに狙いを定める。コウの爪を左腕でガードするが、その隙をつきソウのサメザーメの爪が右腕を切る。痛みで絶叫するライトは深海に広がる血などは気にせず、やみくもに水で威力を消されるカウンターを打ち続ける。嘲笑うように阿吽兄弟は楽々とそれを回避し、ライトの周囲を旋回する。


「……やってられないぜ。水中はビート板が必要なんだよ。別にカナヅチじゃねーけど」


 大汗を流すライトは右腕を抑えながら充血させる目を見開く。

 痛みと、慣れない水中での戦いの緊張感が頭を真っ白にし、金髪の少年は叫ぶ。


「こんな道端で死ねないんだよ! お前達は絶対ブッ潰す!」


『我々、水中の鮫肌ブラザーズ・阿吽兄弟に勝てると思うな!』


「何が阿吽だ! あっ、うんこ漏らしたの間違いじゃないのか?」


『その言葉いつまでもつかな?』


 そのライトの挑発に乗らない阿吽兄弟は金髪の少年の周囲をグルグルと旋回し始めた。

 いつ、襲ってくるかわからない為、海中の泡に目をやりながら二人のサメザーメの動きを注視する。

 海流はだんだんと渦のようになっていき、ライトに海流の摩擦が微妙に生じるようになってきた。


(迂闊に動いたら、うんこ兄弟の思う壺だ……ライトニングカウンターを確実に叩き込んでやる)


 冷静になり意識を集中し左右の拳を引き、構えた。

 泡の兜の酸素も残り少なくなり、大きさが小さくなってしまっている。

 すると、ライトは自分の身体の自由がきかない事を感じた。


「う、動かない? まさかこの渦は――」


 阿吽兄弟の策にはまるライトはただ自分の周囲を旋回し、攻撃する隙を伺っててるんじゃない事に気付いた。激しい水流でこのライトの動きを封じて、一気に止めを刺す気だったのである。


「……くっ!」


 その渦に呑まれたライトはすでに身動きが出来ない状態にあった。

 阿吽兄弟の旋回はいつの間にか周囲に巨大な竜巻のような渦を作り、その渦の重みでライトの全身の骨はミシミシと悲鳴を上げ始めた。


「ヤバい所の問題じゃねぇ! このままだと渦で出来た水圧で身体が引きちぎられる! この渦を突破するしかない! うおおっ!?」


 ブオオオオッ! と竜巻のような渦に呑まれたライトは、全身を水の水圧で砕かれた。

 スゥー……と渦は勢いを無くし、ライトの全身に微細なヒビが入りながら水中を流れる。


「流石はサグオ最強の男。あの集団リンチのようなブラックマトリクスを生き残っただけはある。コウ、次で決めるぞ」


「そうだなソウ。奴からは異質な何かを感じる」


 阿吽兄弟は躍動し、また渦を作り出した。

 意識を取り戻しそれを見たライトは戦慄する。

 しかし、クククッ……と何かを悟るように笑うライトは前に起こる渦を見据える。


「もう逃げられないならあえて渦に呑まれるてやるぜ」


 背水之陣に出たライトは目の前の自分を殺す為に生み出される大いなる悪意に呑まれようとした。


「そうだ。うんこ兄弟だって渦の中では自由に動けない。チャンスはこの中にしかない。ショウ・クロカワならそうするはず」


 ライトが尊敬するスタロボの闇のヒーローを思い浮かべ、ゴクリ……と唾を飲み込み、息を大きく吐いた。瞳を輝かせるライトは左腕に意識を集中させ、構えた。




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