師匠ライト
「そろそろ時間か……」
と、森林が見えるフィールドの岩場の岩に座り呟くライトはメニュー画面の現在日本時刻を見た。
時刻は十七時。
海老名病院の夜ご飯前の二時間でライトはこの二人に特訓をつけるようだ。
数日以内に始まる邪竜復活阻止の戦いにおいて活躍するにはもう時間は無く、ここでライトと共に成長するしかない。
「まさか俺が他人の成長を手助けするなんてな。色々と人間は変わるもんだな……来たか」
すると、サグオにログインをしてきたアークとレイはライトに渡されたマーキングテレポートを使い、ライトを辿ってこの岩場まで来た。
背中に二刀を背負う、歌舞伎騎士。黒髪の歌舞伎役者のようなアバターで調子がいい感じのソードナイト・アーク。白い髪に病的に白い肌のセーラー服のマジシャン・レイ。
この二人は全身の力をみなぎらせていた。
「うっし、二人共気合い充分だな。突発的に体調が悪くならねぇならやれるはずだぜ。お前達が楽しいと思う事をやれよ」
『……はい!』
アークとレイを背にし、ライトは森の奥にある洞窟のムラサキダンジョンへ足を踏み入れた。
※
棍棒と盾を持つゴブリン系でも肉食なホブゴブリンが現れた。
ムヘヘ……と汚い歯を剥き出しにして笑うホブゴブリンの群れ十体は新しい獲物の肉を求め動き出す。
ちょうどいい相手だなと思うライトは呟く。
「ホブゴブリンは防御主体のカウンタータイプ。防御力自体も高いから戦闘は長引くかな。レイの魔法で上手く突破するのが最善策の一つだろ。それをこの戦闘という緊張感の中でアークが気付きサポートし、レイが必殺魔法を叩き込めるかどうかだ」
一瞬でホブゴブリンの群れの中に移動したライトは一匹を見せしめのように倒した。動揺を隠せないホブゴブリン達は棍棒を落とし、おろおろとしながら拾う。倒したホブゴブリンの盾を拾うライトは言う。
「盾か……これで遊んでるか」
ライトは左腕にホブゴブリンの盾を装備し、シュシュ! と攻撃してくる相手を想定して動く。
「俺は遊んでるから早く後九体倒せよ」
急かされるように言われたアークとレイは答える。
「わ、わかってるぜ!」
「わかってますわ!」
黒と白の二人の戦いが始まる――。
アークとレイのチグハグなコンビネーションにボブゴブリン達の攻撃が面白いように決まる。
アークは前に前に出ようとし、レイは後退しつつ魔法を使う為に互いに距離が生まれ孤立して戦っている状態が続いていた。
「ウォータープルーフ!」
バシャ! とレイは水流魔法を使う。
しかし、足元が水浸しになるだけでホブゴブリン達はダメージが無い。
電撃魔法の方が得意であるレイは自分の得意分野さえ忘れているようだ。
前衛のアークも両手に持つソードの一本を弾き飛ばされ、ガーン! と叫んでいた。
戦う二人を見ながらライトは呟く。
「まだ動きが固いな。それにアークの奴は二刀流は無理だな。左右の一撃にまるで重さが無い」
そして、ライトはレイが倒したホブゴブリンの盾を投げる。
「おいアーク! これを使え!」
「!?」
受け取るアークはその盾でホブゴブリンの攻撃をガードした。
そして、慌てるレイにも助言する。
「レイ! お前の得意魔法は何だ? そしてこの足場で後衛として何が出来る?」
「……!」
水で濡れる足場を見たレイは、一瞬にして持ち前の冷静さを取り戻した。
「この濡れた足場なら――アーク! 下がって!」
「え? わ、わかった!」
やけにハッキリ命令するレイにドキリ! とするアークは言われた通り後退する。
下段の電撃魔法の詠唱を始めた。
「地を這い獲物を捉えよ! スネークサンダーボルト!」
地を這う電撃の蛇がホブゴブリンに群れをなして迫る。
しかし、その蛇が到達する前にホブゴブリン三体は倒れた。
床の水を伝い、スネークサンダーボルトの電撃が炸裂したのである。
残るボブゴブリンには回避され残数は四体。
ライトから渡されたホブゴブリンの盾でアークは攻撃を受けて耐える。
ひたすら攻撃を受けるだけの現状に苛立つアークはゴブリンの盾を捨て、回転斬りをかました。
そしてそのまま飛び上がり空中で歌舞伎役者のように歌舞いた!
「やいやいやい! このアーク様の姿が目に入らねぇか!」
『……!』
アークの新たに生まれたスキル〈啖呵を切る〉が発動した。
これにはマヒの効果があり、ボブゴブリン達の動きは一瞬停止する。
それを見たライトは口元を笑わせ言う。
「いいプレッシャーだ。成長すれば弱い敵なら気絶するかもな」
そしてレイの電撃魔法が炸裂し、アークの魔法剣が最後のホブゴブリンを切り裂いた。
「初心者が魔法剣か……こいつらいいコンビになりそうだな」
ライトは自分の弟子の未知なる才能に驚いた。
「さて、この盾いらねぇから捨てよ」
「おいライト! 置いてくぞ! つか案外盾も使えるな。二刀流に比べてダセーけど」
「まーそうだな……って。ちょ、何? この盾はずれねぇよ? うわ! 最悪!」
そんなライトを笑いながら二人の戦士見習いはムラサキダンジョンの先へ進んで行く。