アークとレイ シナリオ分岐3
邪竜復活阻止作戦――。
それは邪竜の眠るドラゴンエッグを争奪する戦いであった。
邪竜復活の卵であるドラゴンエッグ。
百年前に封印されたという邪竜が祭られるドラゴンの祠に行き、そのドラゴンエッグを手にし破壊するのが目的となる。
そのイベントに参加し、イベントで手に入るドラゴンキラーをキキョウの為に手に入れる算段を立てていたライトはギルド・エビナメディカルに加入しその騎士団最強の三人であるドラゴンライダーと戦っていた。模擬戦ではあるが、南大陸の王であるエビナの力を図る上でも重要な戦いであった。
光の粒子を散らすライトは竜を駆る三人に向けてスタースキルを発動させ突っ込んだ。
「うらぁ! ライトニングドーン!」
『ドラゴンスチームハリケーン!』
ガガガガガッ! と閃光と嵐が激突し、周囲の見守るギルドメンバー達は目を細めて見守る。
クルクルッと回転しながら地面に着地するライトは強敵に興奮した。
「ドラゴンを乗り物とするドラゴンライダー。相手にとって不足無し。第二ラウンドと行くぜ!」
ガッ! と拳を叩きライトは突っ込んだ。
そして、ドラゴンライダーとの戦いが終わり、エビナメディカルの面々にサグオ最強の存在を知らしめたライトはドラゴンライダー達と談笑する。空を自由に移動する強敵に空中戦の重要さを感じるが、医療王であるエビナは空を駆る竜には乗らないらしく、ライトは特別に空中戦に対する対策を立てなかった。
空を飛べるモンスターに乗ろうとも永遠に飛翔する事は出来ず、地表に降り立つ事はあるというのがサグオの基本システムだからである。
ライトはこのエビナメディカルのギルドに参加する理由は王を倒すだけではない事を説明していた。
「……てなわけで、俺は相棒の為にドラゴンキラーを頂くぜ」
「アバターは美少女だが、案外キキョウはブスだろう」
「残念ながらあいつはアバターとほぼ同じ顔……らしいぜ?」
現実の顔を知っているライトは他人行儀に言う。
「ははっ! サグオ最強の男も案外夢見がちな男だな」
そして、ドラゴンライダー達はその場を去った
※
邪竜復活阻止作戦イベントが開始されるまでの期間、ライトはエビナメディカルの一員として仕事を任されれば働かなければならない。あーあ……とアクビをするライトは早くイベント始めろよシュウヤのいないクソ運営がと思いながらメディカルキャッスルの周辺を散策していた。
しかし、その足はギルドメンバーが多く集まる修練場に向かっている。
「……」
多くの人間が訓練する訓練場の隅に若い男女の戦士が演習をしていた。
黒髪の歌舞伎役者のようなアバターの剣士と、白い髪の純白のセーラー服の魔法使い。
明らかにサグオ初心者であるのが動きの遅さからありありとわかる。
その一人である歌舞伎役者のような黒髪の少年はあっ! という顔で叫んだ。
「あっ! あいつ噂のライトだ!」
「ちょっとアーク君! いきなり話かけたらまずいわよ!」
「気にすんなよレイ。他人と関わり合わなきゃ俺達の人生はなんだかわからず終わるぜ」
そして、ライトはサグオ初心者のアークとレイと会話をする。
話の中で、この二人のリアルまで知ってしまった。
「……お前達、海老名病院の人間なのか。やっぱ入院患者もサグオをやってるのは本当らしいな」
この二人は内臓疾患がある入院患者だった。
アーク、レイは病人であり難病患者でもある。
若い二人は病院の鬱屈した環境を嫌い、大人達がはまるサグオに目をつけプレイを開始したのであった。長時間のログインは身体が弱い二人には負担が大きい為に、二時間以上のプレイを避けているようだ。アークとレイには師匠のような存在がいるらしく、その人間の指示でサグオのアカウント取得や細かい事もやってくれて助かっている話であった。その人物についてアークとレイは語る。
「紫式部って呼ばれてる美少女が病院にいるんだ。髪は紫でいつも冷たい印象だな」
「そうそう。影のある美人で微妙にツインテールが似合ってないような感じの……」
ふと、ライトは思考が止まる。
「……紫式部? 紫式部って、マジかよ。その病院で紫式部……まさか?」
はっ! とライトは紫色の毛先の跳ねたツインテールの少女を思い浮かべる
しかし、アークとレイには告げずに話を続ける。
世話になっている割には毒舌に言うそのレイに対しライトは、
「レイ、その事は本人には言うなよ? 誰しも言っていい事と悪い事があるからな? いいか! 約束だぞ!」
顔を近ずけて言うライトにレイは不審な顔をしつつ頷いた。
そしてアークは唐突に言った。
「ライト。俺達に特訓をつけてくれ」
「……いいぜ」
そして、ライトは自身でも気付かないシナリオ分岐になる選択をした。
まさか自分が他人を育てるなんて予想もしなかったが、そう悪い気分でもなかった。
邪竜復活阻止作戦に参加したいアークにライトは言う。
「知らないかもしれんが、イベントじゃコンテニューは出来ねぇ」
「だから通常戦闘でコンテニューしつつレベルアップするよ」
「そんな甘い考えで本当に強くなれると思うなよ」
そのライトの言葉にアークは怒りを感じるが、何か特別な感情を込めて言われた事にイベントは楽しいだけのものだと感じていた自分の甘さを感じた。
そしてレイの話から医療王であるエビナが現実でも有名な医者というのを知る。
「あの医院長はリアルじゃかなりやり手なんだな」
「サグオでも南大陸の覇者なんだからやり手でしょ? ライトさんもあの人には勝てないかもよ」
「このイベント終わったら俺が倒すからそうでもなくなるぜ」
二人と別れるライトはエビナメディカルの寮に入り、メニュー画面からメールを書いて誰かに送信してから就寝についた。
※
そして翌日――。
エビナメディカルの寮から出て食堂に行くと、見覚えのある緑色の髪の少年がエプロンをしながらこちらを見据えていた。その手にあるおたまがカツーン……という渇いた音を立てて床に転がる。
「ライト!? 何故貴様がこの次世代の中央都市候補であるエビナメディカルの制服を!?」
「エピオン……」
突如現れたエピオンにライトは地面に尻もちをつく相手ほど驚きはしない。
「お前は何してんだ?」
「俺様がここにいるのは当然だ。何故ならこのエビナメディカルは父の病院てもあるんだからな」
「は?」
そう、南大陸を支配する医療王エビナの息子はエピオンであった。
これはリアルではそういう話であるが、このサグオ内部でも親子の関係性は変わらない。
マジかよ……と思いつつライトは倒れたままのエピオンに言う。
「今は仲間だ。どっちがドラゴンエッグを先に獲得するか競争だな」
ライトはそうエピオンを煽り、ドラゴンの祠での無駄な戦闘を避けようとした。
それに乗せられたエピオンはライトより早くドラゴンエッグを探し出そうと躍起になる。
「イベントが開始したら俺様がドラゴンエッグを破壊する! 次世代の王は俺様だ!」
「ん? そうか?」
アクビをしながらライトは食堂のおばちゃんCPUにカツカレーを頼んだ。
エピオンの怒りは増加していく。