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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
ブラックマトリクス編
22/51

天才開発者・鳴海修也との決戦4

「うおおおおーーーーーーーーーーっ!」


 その叫びと共にライトの身体は新しい力を得る。

 黄色い学ランは長ランに変形し、首の詰襟は長くなり足元は革靴からエンジニアブーツへと変化した。そして背中には〈閃速〉の二文字が映える――。

 完全なるクラスチェンジが成り、新しいアバターが展開する。

 《オーバーライトニング》のオンリーアバターに変身したライトは閃速で全てを消し去る為に動き出す。


「このアバターはオーバーライトニング。制約の無い無限の閃速を誇る俺専用のアバターだ」


「お、オーバーライトニングだと? そんなものこの僕はプログラムしてないぞ……?」


 シュウヤはこのサイバーグランゾーンオンラインにおいて、そんなアバターは存在していない事を告げる。しかし、今のライトはこのゲーム世界の住人であり、形式上は管理者でもある。


「お前がこのゲームシステムを多少破壊した事と、形だけの管理者コードが発動した事で得た力だ。俺は俺の成長によって進化するアバターを生み出せる力を持ったようだぜ」


「馬鹿な……ただのプレイヤー風情がこの開発者の僕より強いなんてあり得ない」


「そう思うなら試してみろよ。俺の力をな」


 手に持つ虹色の剣・ジャッジメントソードをライトはシュウヤに投げ渡す。

 受け取るシュウヤは醜悪な顔で叫んだ。


「電子の海の塵になれ! この社会不適合者があぁぁぁ!」


「ライトニング――カウンター!」


 シュパァ! と圧倒的な光の閃光が閃速で駆け抜け、ジャッジメントソードが折れシュウヤは倒れた――が、ルシェルのパワーがそれを許さず何とか立ち止まる。しかし、すでに背後に現れるライトの拳はすでにシュウヤを攻撃していた。バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! と虹色の粒子を放つ闇のアバターの青年は空中を殴られ右往左往する。閃速の拳を受けた先にすでに待ち受けている金髪の少年の無限に渡る攻撃にシュウヤはどうにもならない。システムの上限を超える閃速に天才開発者は敗北する。


「――終われっ! ライトニングドーン!」


 閃速によるスペシャルコンボが終了し、ライトニングドーンが叩き込まれた。

 一ヶ月間という短い期間、ライトの肉体である雪村京雅ゆきむらきょうがの身体で生きたシュウヤの魂は消滅していく。最後の断末魔を叫ぶように開発者の男は叫んだ。


「確かにこのゲームは進化するようだ。それはいつかその閃速でさえ超える奴が現れるという事。お前が敗北する時はいずれ必ず来るぞ……シナリオ選びに失敗すれば地獄のバッドエンドになるよう仕組んでやるさ。それを地獄で見ていてやるよ!」


「……」


「フハハハハッ! 最後にシステムを変えてやる! 苦しみ、もがき、発狂し、死んでいけ! お前が生み出したお前自身が最強とする理想に潰されろ! この僕がお前に地獄を見せてやるよおぉぉぉっ!」


 ライトは哀れむように消えゆくシュウヤを見つめていた。

 半泣きになりながらタッチパネルをいじり最後の足掻きをするシュウヤの邪魔をする事も無く、ただシステムをいじる開発者の必死な姿は小物でしかなく、ラスボスには相応しくない存在だった。


「……だが、それでいい。新しいボスが俺を待っている」


 このサグオにログアウト不能のデスゲームを実行させてくれた事をライトは感謝している為に、シュウヤの最後の改悪を楽しみにした。

 晴れやかな笑顔をシュウヤに見せ、ライトは言った。


「あばよシュウヤ。お前が手にした現実の俺の身体は寝たきりになるだろうが、もう俺とはほとんど関係無いから問題ないだろ。余計な欲が出なければお前はまたリアルで新しい事をしたかもな……でも、もう終わりだぜ」


「ハハハ……変えてやる……全てを変えてやる……」


「自分が行くのが地獄とはちゃんと自分が悪と理解してたんだな。案外まともだったかシュウヤ」


 そのライトの冷たい一言に、シュウヤは最後の激怒を見せた。


「この! この! このド畜生があああああああーーーーーーーーっ!」


 スウウッ……とその叫びと共にシュウヤは完全消滅した。

 パリンッ! というガラスが砕けた音と共に聖堂協会ステージが崩壊し、元の草原エリアに戻った。


「……」


 そして、ライトはオーバーライトニングのアバターが解除され通常のライトニングのアバターに戻る。流れる風に金髪をかきあげ、ライトは言う。


「シュウヤを倒した事により、呪いから解放されたか……これでキキョウの記憶も完全に戻るだろ」


 そこには白い着物に赤い袴の黒髪ポニーテールの少女であるキキョウの姿があった。


「最強の座を自分で勝ち取ったんだから、現実でも自分の場所を勝ち取ればいいのよ。……多少なら私も手伝ってやるわよ? 年上のお姉さんとして」


「あぁ。ありがとう。とりあえず、このデスゲームを楽しみつつ元の身体に戻るかどうかを考えるさ。ま、手がかりが無ければそれまでだかな」


「あるわよ。きっとある。だから昏睡状態の貴方の身体は私が大事に保管しとくわ」


 そしてキキョウはログアウトした。


「俺は……まだまだこの世界で戦いたいし、現実になんて戻らずにキキョウやサクヤとサグオで戦いたい。でも、でも……」


 瞬間、ライトの瞳から涙が流れた。

 こんなに自分を思う人間がいたのかと思い、ライトは人生で初めて感情を抑えられずに立ち尽くす。


「現実にも、いい事はあるのかもしれない……」


 そして涙が流れたままガッ! と両拳を叩くライトは戦士の顔で叫ぶ。


「ははははははっ! こんなに楽しいのに現実になど戻れるか! これだけ新しい刺激があるなら、そう簡単にこの世界から離れる事なんて出来ない。このゲームを始めた時のような刺激的な日々は何物にも勝る事の無い俺の現実なんだ。サイバーグランゾーンオンラインの世界が存在する限り、俺は戦い抜くぞ。ここが俺の世界だ!」


 嬉しくも、悲しくも、様々な感情がせめぎ合いライトの涙は電子の風に散る。


「さて、過去の呪縛は断ち切った。やっとこのサイバーグランゾーンオンラインの始まりだ。閃速で駆け抜けてやるぜ!」


 ガッ! ともう一度両拳を叩き合わせ、光の少年はサイバーグランゾーンオンラインの大地を駆け出した。その後ろ姿を、黒い死神の少女が見つめていた。



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