天才開発者・鳴海修也との決戦3
光の少年と闇の青年の激突が繰り返される。
ズズズ……とシュウヤの頭には赤いツノが二本生え、まるでドラゴンのような威圧感を生み出していた。
ズガガガガッ! と聖堂協会のあちこちで衝撃が走り、戦いが本当の終局に向かっているのを二人の戦士は感じ始めている。システムを超える進化を始めるライトに対抗するシュウヤに倒れるサクヤは注目した。
「……あの虹色の粒子は?」
シュウヤの身体からは虹の粒子が散っていて何かの力を使っているのかもしれないとサクヤは気付く。
闇の最高位にあるアバターの力に虹のパワーが加わった事で明らかにシュウヤは最後の賭けに出ようとしてるのに焦りの色を浮かべるサクヤは呟く。
「あの女侍から渡されたの剣を使うしかないわね。ライトは武器を使うのは気にいらないかもしれないけど、今は勝つ事が最優先」
パパパッとサクヤはメニュー画面を開きアイテム欄から一つの剣を取り出し投げた。
ライトとシュウヤの拳が激突し、二人は協会の机に背中をぶつける。
その清らかな白い剣の方向にライトは視線を向けた。
「キキョウから渡された剣よ! 使って!」
パシッ! とライトはその退魔の剣を受け取る。
フッと笑いライトは初めてキキョウと魔人と戦い、相棒として選んだ日の事を思い出し感謝する。
「こいつなら闇のアバターのシュウヤには絶大な効果がある。武器を使うのはどうかと思うが、仲間の思いを無下には出来ないな」
ブンブンッ! とソードスキルの無いはずのライトは随分と手慣れた感じで退魔の剣を扱う。
それを見るシュウヤは余計な武器を与えたな……と思いつつもベータテスター時代のライトを思い出し言った。ソードマスタークラスのレベルにあった閃光のダークナイトと恐れられたライトの事を思い浮かべながら――。
「……まさかソードスキルを使うのかい? 友を裏切った君が?」
「使うさ。俺は俺の仲間の思いを無駄には出来ねぇんでな――覚悟! 鳴海修也!」
「――!」
閃光のような速さでライトは退魔の剣をシュウヤの胸元に突き刺した。
しかし、シュウヤは口元を笑わせたままライトを見据えている。
「残念だったねぇ。光属性の武器の一撃は全て弾くようにシステムプログラムしているのさ。僕に一撃を与えられる例外は君の拳だけだよ」
「……くっ!」
禍々しい闇を纏うシュウヤの手がライトの顔面に迫った。
瞬間、手に持つ退魔の剣からライトの心に誰かの思いが伝わってくる。
それは、ポニーテールの相棒である女侍からであった――。
『何を迷っていますの? 閃速の男ならば動き続けなさい。この一撃に勝てる答えは目の前の男が示していますわよ――』
「……センキュー。相棒――うおおおおおおおおおっ!」
更なる光を帯びる金髪の少年にシュウヤは驚く。
自分のシステムを超えられたショックから抜け出せずにいるシュウヤは反応が遅れる。
「なっ? こいつ――」
何かをアイテム欄から取り出そうとするが――キキョウから助言されたライトは退魔の剣をライトニングドーンで無理矢理押し出し、シュウヤの胸に突き刺した。
「がはっ……!? ライトニングドーンで無理矢理押し出しただと? この畜生が!」
金髪の少年と、茶髪の青年の動きが止まる。
「このまま終われシュウヤ! お前のブラックマトリクスはもう終わりだ!」
「ぐっ……僕のブラックマトリクスは現実世界をも支配してから終わるのさ。この鳴海修也という天才がゲーム世界だけで閉じこもっていては世界は次のレベルに行けなくなるんだよ」
「誰もお前の支配する世界なんざ望んじゃいねぇ!」
ふと、ライトはとどめの一撃のはずなのにシュウヤのHPゲージがレッドゾーンから減らない事に気付いた。クハハハッ! と笑うシュウヤはライトとサクヤ、そしてこの退魔の剣を渡したここにいないキキョウさえ嘲け笑うように言う。
「どうやら君が僕と初めてこの世界で会った時に取り損ねた赤竜の角の効果が効いたようだよ。今の属性は半分は竜のドラゴン系統になっているんだ。バカめ……とでも言っておこうか?」
「……ドラゴン属性だと? くそっ!」
「くそはお前だよライトーーーっ!」
ズガッ! と殴られたライトは吹き飛び、サクヤに支えられる。
「こんなオモチャで……僕が倒せると思うなよーーーっ!」
胸元に刺さる退魔の剣を引き抜き、シュウヤは笑いながらへし折った。
そして、途方もない虹色の粒子がシュウヤをブオオオオッ! と包み込んでいた。
シュウヤは切り札のハイパーモードである〈ルシェル〉を解放したのである。
「僕に切り札のルシェルを使わせた事は褒めてあげよう……だが、奇跡もここまでだよ!」
シュウヤサグオ最強の虹の力であるルシェルを使いライトに止めを刺そうとする。
パワーアップするスロウドロップの効果がライトのスピードを遅らせ、未来予知のスキルを使うまでもなくシュウヤは攻撃を繰り返す。閃光のような速さのシュウヤにライトは防戦一方になった。
(早く……もっと早く! こいつのスロードロップや未来予知なんか気にならないぐらいの圧倒的スピードを……ルシェルよりも早い閃光のような光の速さを――)
祈りのように念じるライトの心にはサクヤとキキョウが微笑んでいる。
今と昔の相棒の力が、ライトに更なる進化を生み出し始めた。
「ここで君は終わりだよ。ゲームシステムを無視し続けて来た報いを与えるのはやはりこの開発者であるこのシュウヤしかいないんだ!」
時間差地獄に陥るライトに最後の審判を下すシュウヤは、虹色の剣・ジャッジメントソードを大きく振りかぶる。その両手の拳に力が込められ、一気に振り下ろされた。
パッ! という光が発し、空間に静寂が満ちる。
そして、地面に突き刺さるジャッジメントソードはシュウヤの手には存在せず、首を飛ばされたライトは光の粒子のキラメキと共にシュウヤの背後に佇んでいた。驚くシュウヤは光の少年から距離を取る。
「……! どういう事だ? 何故今の攻撃を回避出来た!?」
ジャッジメントソードはライトの手にあった。
明らかに雰囲気が変化するライトは微笑む。
「……」
そのシュウヤより与えられしライトニングアバターの姿は光の粒子と共に変化する。