天才開発者・シュウヤとの出会い シナリオ分岐1
サイバーグランゾーンオンラインというVRMMOはヘッドギアタイプのアクセサリーをつけゲーム内部に没入する新感覚の未来型広域対戦格闘ゲームである。
プレイヤーが武器を持ち戦うゲームなのにライトというプレイヤーのみは武器を持たず、ひたすら自分のテクニックのみで数多の課金ユーザーや強敵を撃破していた。そう、このサイバーグランゾーンオンラインというゲームは他のゲームと同じく課金ユーザーが有利になる設定であるが、その有利ささえライトというプレイヤーのテクニックの前にはなすすべも無かった。
現実にて交通事故にあい死亡し、霊体となる天才開発者・鳴海修也ことシュウヤはそこに惹かれた。
そしてシュウヤはライトをマップウェポンに見せかけたスタースキルで自分専用の異空間に転移させ、ライトの前に現れ自分の全てを語った。
「……事故に合っても残念ながら異世界転生とはいかなかったな」
「そんな事で異世界転生出来るなら俺はもう自殺しているよ。俺は死ぬんなら自分からデスゲームに巻き込まれてでもゲーム世界で死にたいからな」
「君は強気なのか弱きなのかよくわからないね。この世界は気に入ってるようだけど」
「俺が最強の世界こそが俺の求める世界だ。その世界はこのサグオにある」
まるでライトは自分という存在は現実では無能で、ゲーム世界でしか己が生き様を世界に刻めないという思いで話している。霊体となるシュウヤの状況を知るライトは自分は鬼瓦学園中等部二年生という事を答えた。今は不登校児で、バイト代を稼ぐ為にこのサイバーグランゾーンオンラインで勝利し続け、レアアイテムを他人に売る事で生活しているらしい。
元は天才大学生であったシュウヤはライトの若さと、デスゲームを望む強い覚悟に生きている人間の熱さを感じた。そして、ライトは自分の生きた身体を与える代わりに、永遠にゲーム内部へいられる権利を所望した。
「等価交換だ」
その烈火の如き熱い瞳にシュウヤは答える。
「何故デスゲームにこだわる? 最近のアニメの流行り? それとも自殺願望? 何にせよ、死にに行く理由を僕の生み出したゲームにされても困るな」
「お前は現世を生きる身体が欲しいんだろ? なら契約は成立するはずだぜ?」
「欲しいさ。それを手に入れたら僕はどんな手段を使ってでも離さないだろう。矛盾するが君の意見もすんなり呑むね……」
「なら……」
「だけど、まだ若い君をデスゲーム世界に一人にさせるわけにはいかないよ。僕だってまだ正気は保っているつもりだ」
色々とあれやこれやと話すが中々折れそうにないシュウヤにライトは自分の心の内を話す。
未来を想像してもそこに自分の楽しめる空間や輝く場所が無い絶望を――。
「俺は……このゲームしか興味が持てない。好きな事しかしたくないんだ。興味の無いつまらん仕事をして休みにゲームをして彼女とデートして、家族を作り年を取って行く……そんな未来がまるで興味を持てないし描けない。どうせ生きているなら……生きている実感! その激情のままに生きて死にたい! それこそが俺がこのサイバーグランゾーンオンラインでデスゲームをやる理由だ!」
このライトの熱意は、がむしゃらにプログラムを組みアバターを描き、モンスターを生み出していた少年時代の自分を見ているようでもあった。そんな似ている存在だからこそ、こんな奇跡的な出会いをしたのかもしれない。そしてシュウヤは手をパチパチと叩き微笑む。
「気に入った。やはり君はこのゲームを素手で戦うだけの異端児だけは会ったよだね。僕は何を君に与えればいいのかな? モテるビジュアルのアバター? それともハーレム王国を作れる……」
「二度とこのサイバーグランゾーンオンラインに関わるな。それが条件だ」
ほう? とライトの覚悟に感銘を受けるシュウヤは即答する。
「では管理コードを渡そう。そして、この僕のサイバーグランゾーンオンラインでの記憶を消す新生ライトニングのアバターだよ」
シュパアァァァ! とライトの黒服の初期アバターが黄色い学ランに変化しいわゆるヤンキースタイルの服装に変化する。そして新しい黒い革靴とグローブの感触を確かめ言う。
「……どうしてこのアバターを?」
「君はスピードと体術タイプ。それを生かすならヤンキースタイルが一番だろう」
「現実の俺はヤンキーじゃないからな。気が変わらない内にお前の記憶を消して現実の俺の身体に転成させておこう」
「ちょ、君はせっかちだ。チャオ! にはまだ早い――」
「何がチャオ! だ――」
ズバッ! と放たれた拳をシュウヤは紙一重で回避する。
自分の身体がこの新アバターライトニングで変化した事を実感するライトは中々いいプレゼントだ……と黄色い学ランを第一ボタンまで外し、笑った。そしてシュウヤは無造作に整えられる茶髪をいじり言う。
「君が苦戦するプレゼントとして少しシステムを壊しておいてあげるよ。君の最強伝説は一度終わった方がいい。苦戦し、敗北する君の姿を見てみたいねぇ……チャオ!」
「チャオ? だからそんな言葉は天才しか使わんだろう――が!」
「知ってる、知ってる! この僕は天才――ぐはっ!」
消える寸前でシュウヤはライトに殴られ、このサイバーグランゾーンオンラインでの記憶が全て消えて現実のライトの身体に魂が憑依した。新たなアバター・ライトニングの動きにライトは満足し、
「せっかちで結構。俺は閃速のライトニングだからな」
そして、シュウヤルームからサイバーグランゾーンオンライン内部に改めてログインし、緑の大地が広がりライトの金髪が風に揺れる。そして黄色い学ランの衣装の着心地を確認し、黒い革靴で地面を踏みしめた。地面の硬い土は現実と大差は無く、緑の青さも空の透明感も身体と心に溶け込むように気持ちいい。この金髪の少年はサグオの感覚にしばらく身をゆだねる。
「まずは各大陸のボスを倒しに行くか。新生ライトの力をサグオ中に思い知らせてやるぜ。俺が最強だ!」
瞳を閉じ、改めて新しい能力や技。武器も生み出せて自由度が高いこの世界の風を感じた。
「……いい風だ。閃速で行くぜ!」
このサーバーは人が存在する限り無限に存在する。
けれども運営がサービスを終了し、人間がログイン出来なくなればその時点でライトの楽しい人生の大半も終わる。
いずれこのゲームをする人間もいなくなり、忘れられた荒野となる世界にて人間・雪村京雅を捨てたライトの新しい人生は始まった。