聖水の海
身体の全てが自分の脳でもあるアンデッド・デッドのエピオンはその圧倒的パワーでライトと互角以上に渡り合う。
「ヒャッハーーー!」
「掛け声だけは威勢がいいな」
アンデッドソードをしゃがんで回避し、そのまま足首を蹴るライトは態勢を崩すエピオンに猛攻を加える。しかし、思わぬ反撃をライトはくらった。
「こいつ!」
エピオンは身体の痛みを消している為に、反応速度が必然的に上がっていた。
痛覚をゼロにすることでそんな事が出来るのかよ! と思うライトは更なる猛攻に出る。
だが、ダメージを受ければ事後硬直はある。
しかしエピオンはそれを限りなくゼロにしていた。
「最終決戦前の前座にしちゃやれじゃーねーか。認めてやるよ。俺に勝つためにここまでプライドを捨てるとは思ってなかったぜエピオン」
「フン。俺様は次世代の王。王になるまではプライドすら捨てる時はあるのさ」
「お前の反応速度はスゲーな。俺とこうもまともにやりあえる奴はお前が始めてかもしれねぇ」
「シュウヤの力を借りて死体系のスキルを極めて痛みを消したのさ。これでお前のカウンターに全て反応出来る反応速度と対応力を得た。勝つのは俺様だ!」
「そーかよ!」
シュパッ! とライトニングドーンが炸裂する。
しかし、アンデッド・デッドである生体兵器にはダメージというダメージは無く、一気に全身を消滅させるパワーが必要なようだ。
(チッ! このままライトニングエスカレーションで全身を消滅させるか? だが、体格が大きくなった奴の身体全てをかっ消すには厳しいな……)
そう思うライトは崩壊する上半身のエピオンが足の爪先をアンデッドソードにし、すくい上げるように斬りつけて来たので後方に飛び回避する。とにもかくにも一瞬で全てを決める技が必要だと確信するライトは再生を始める無敵の緑の怪物に言う。
「どうしたよ? お得意の魔法は使わないのか?」
「この身体にHPだけでなくスキルゲージが無いのはわかるな? つまり、俺様が魔法を使うには自分の身体を媒介にしなければいけない。魔法ばかり使ってたら身体の再生時間が無駄にかかるんだよ」
「へぇ。でも無敵のアンデッド・デッドのパワーなら魔法の多用も問題無いだろ?」
「それはそうだぁ!」
ズバババッ! と火炎魔法フレアボムを放つ。炎に包まれる聖堂教会の机や椅子は燃え上がった。右手を痛めながら魔法を使ったエピオンにライトは肉薄する。
「隙有りだぜ!このまま俺のスタースキルで全身を消してやる!」
「新技か? この青二才がぁ!」
焼けた右腕を見つめるエピオンは目の前に迫るライトに苦汁の顔をする――が、
「……なーんてな。俺様がフレアボム程度の魔法で苦しむわけがないだろ?」
「!?」
「死ね! マグマドラグーン!」
必殺の拳を繰り出そうとしていたライトは放たれた火炎竜の直撃を受けた――が、そのままマグマドラグーンをライトニングカウンターで弾き返す。
「どっ……せい!」
自分の魔法をくらうエピオンは炎に包まれた。
ヘッと笑うライトは呟く。
「新技なんてねぇし。これで消えてくれると楽なんだがなぁ」
淡い期待を抱きつつ炎の奥を見据えた。
案の定、緑の怪物は火傷まみれの姿を現した。
そこでライトは意外な姿を見る。
「メス……?」
無言のエピオンは医療用のメスを使ってマグマドラグーンによる火傷を治療していた。
それに疑惑と違和感を感じ、
「再生能力に頼らず、メスを使う? 一体お前はどんだけ能力があんだよ?」
「火傷の治療なら出来るのさ。俺様の親父は有名な医者だからな。いづれこのサグオでも有名になるさ」
少し遠い目をしたエピオンに哀しみが滲み出ているのを感じた。全てのものを武器にするような男であるエピオンがメスを武器として使わないのはそれ相応の理由があるのだろう
そして、二人の決戦は終幕を迎えていた――。
「俺様の親父もサグオを始めてすでに南大陸の王になっている。お前に勝てば俺様は親父に認められるんだ!」
「ならポーション飲めよ」
「!?」
不意打ちをくらわせるようにライトはアイテム欄から出したポーションをエピオンの口に突っ込んだ。スウウッ……と青白い液体がその体内に流れこんで行き、エピオンの体力は回復する――。
「? ぐはっ……!?」
飲み込んだポーションを吐き出しエピオンは苦しむ。
アンデッドには通常の回復アイテムがダメージになる。
これはアンデッドであるエピオンにとっては驚異になる設定である。
しかし――。
「そんな事は承知さ。たかだかポーション程度でこの俺様のHPをゼロに出来るとでも思ったかこの青二才が!」
瞬時にエピオンは極大魔法の詠唱に入る。
生体兵器である自分のアンデッドパワーと炎の極大魔法を掛け合わせたスタースキル・デッドマンズフレアードであった。それを完全に無視していたライトは今更ながら呟く。
「ん? 俺のアイテム欄は一万のポーションがあるぜ。てか、ポーションしかない」
「ふへ?」
ふと、魔法の詠唱を止めてしまうほどの話を聞いたエピオンは自分の視界を殺す銀色の缶の群れを見た。スバババババッ! とライトのアイテム欄から解き放たれたポーションの缶は全てプルタブが開け放たれ、青白い液体がエピオンの頭上から津波のように襲いかかる。それを狂喜の瞳で見つめるライトは至福の瞬間を味わう為にヒャッハー! な感じで叫んだ。
「ポーションビッグウェーブ!」
巨大な大津波に聖堂教会そのものが呑まれた。十秒ほどで青白いポーションの海が消え去り、そこには崩壊した教会内の机と椅子だけが残る。ヒビの入るステンドガラスの明かりを見つめるライトは濡れた髪をかきあげ、
「所詮は他人の力だ。お前の力じゃないものを使ってても各上には勝てないぜ」
「……確かにお前の言う通りかもな。だが次世代の王はこんな事では諦めない。お前がこの次に戦う悪魔に勝てたらまた殺しに行くぞ……」
そして、エピオンの身体はシュワァァァ……と消滅した。
自分の緑のHPゲージを見て、またエピオンの色だと思い吐き気がするライトはそこに存在する悪魔に言う。
「エピオンは死んだが、俺は全快したぜ。さて、決着の時だシュウヤ……鳴海修也!」
チャオ! と片手を上げて挨拶する瞳が笑っていないサイバーグランゾーンオンライン開発者。
そしてエクストラダンジョンのボスであり、ライトがサグオで人生を賭けた最初の強敵である鳴海修也が現れた。