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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
ブラックマトリクス編
16/51

闇の子宮の奥へ

 無造作に整えられる茶髪をクネクネといじるシュウヤは荒野になるソープの森を見渡しながら言う。


「百人の精鋭も君には勝てないか。やはり僕が直々に君に断罪を下す必要があるね。僕のアジトの場所は送信しておく。他のプレイヤー達に殺されないよう辿りついてごらん」


 すぐさまチャオ! と去ろうとするシュウヤにライトは言い返す。


「決戦の前にお前が黒いアバターの俺に化けてサグオでしでかしてた事を詫びてもらおうか?」


「黒いライトニングとはこのアバターの事かな?」


 ズワアァ……とシュウヤは黒いライトニングのアバターに変化した。

 クルリと一回転する黒いライトは笑う。


「こんなものはただの遊びさ。こんな遊びに惑わされているのがサグオ最強の男なら皆が失望するよ? 僕がこれから行う計画は現実と仮想世界を巻き込んだデスゲーム。ブラックマトリクスとはただのサグオのイベントじゃないんだよ」


 イベント・ブラックマトリクスとは現実の人類を仮想世界に巻き込むデスゲーム。

 ファンタジーの世界に人類を無理矢理巻き込み、国や経済などのシステムを根本的に変化させ人間の価値観を強制的に変化させシュウヤの思い通りの家畜を生み出すものであった。

 リアルをサグオにするシュウヤが神になる世界。

 それこそがこの男の計画――。


「これがブラックマトリクスだよ」


 ブラックマトリクスと呼ばれるものの全てをライトは知り、息を呑む。

 しかし金髪の少年はその鮮やかな髪を逆立たせるように反抗する。

 二度とサグオに関わるなと契約したのにも関わらず、このサグオだけでなく罪も無い現実の人間までいづれ支配しようという天才開発者にライトは叫ぶ。


「たとえお前がこのサグオと現実を一つにするような技術を手に入れてもな……俺が全部ブッ壊してやるよクルクル茶髪野郎!」


「……この髪型の設定がクセ毛だとよく気付いたね。そんな話はいい。本当に話が通じないな中学生。僕と関わり合いたくなくても、僕がいなきゃサイバーグランゾーンオンラインはオンラインゲームとして存在出来ないんだよ? もう少し考えてみな社会不適合者君」


「……!」


「このゲームに関与しなければ僕も現実では存在出来ない。ならば、君と関係を持った人間も巻き込んで君を楽しませ続けなくてはならないんだよ。それが僕の宿命のようだ」


 互いに契約を結んだ以上、ライトとシュウヤの関係は切っても切り離せない状態にあった。

 シュウヤの挑戦を受け続けなければ自分の住むゲーム世界も保てず、いずれ二人は現実とゲーム世界からも消え去る。しかし、このままでは永遠にサクヤは現実では目覚めず、いずれシュウヤはシステムを開発し新しい人間をログアウト不可のデスゲームへと陥れるだろう。このままこの天才開発者を見逃すわけにはいかない。

 一枚の木の葉を手に取るライトはその青々しい葉を見つめ言う。


「まだこの世界に来てから一月と間も無いが、こうも早くこんな事になるなんて思いもよらなかったぜ」


「お互い様にね。たがら楽しもう。僕がこのサイバーグランゾーンオンラインを人類を巻き込んだデスゲームにしてあげるよ」


「それは御免こうむる」


 間髪入れずライトは言った。


「俺はお前を道ずれに消える。それが俺の人間社会に対する贖罪だ」


「本当に話が通じないねぇ……」


 互いの視線の火花が熱く散り、金髪の少年は感謝の意味も込めて言う。


「決着をつけるぞ。シュウヤ」


 するとチャオ! と狂気の微笑みをしながらシュウヤは消え去った。

 そして、このソープの森での激戦を嗅ぎつけた一般プレイヤーがゾロゾロと現れた。

 木の陰に姿を隠すライトはすぐそばの敵など戦って勝てばいいだけの話ではあるが、この戦いで新しい敵をおびき寄せる結果になる為に簡単に戦闘は行えなかった。本当ならばサグオ全プレイヤーとの戦いを楽しみたい所ではあるが、今はシュウヤとの決着を最優先させる為に必死に高ぶる感情を我慢する。


(くっそーーー! 戦いてぇけど、ここで俺の姿を晒して戦いを楽しんでいたらシュウヤとの決戦に支障が出るぜ。ここは逃げ切るしか……)


 すると、ライトのスキル〈鷹の目〉が一人の人間の存在を感知した。

 その人物は白い着物に赤い袴のポニーテールの少女。

 一度戦闘で死亡した事により、ライトとの記憶が消えた女侍・キキョウであった。

 元々の関係は相棒ではなく敵である為に、この戦闘は避けられそうに無い。

 拳のグローブを手首に向かって伸ばし、避けられない相棒との戦いを覚悟する。


(……やるしかないか。すまねぇキキョウ……)


 バッ! とキキョウの前に姿を現すライトは拳を振りかぶり突き出した。

 しかし、その迷い無き拳は停止していた。

 キキョウの微笑がその覚悟を決めた拳を止めたのである。


「キキョウ……お前俺との記憶があるのか?」


「人の記憶はそう簡単には消えませんわよ。シュウヤは全知全能の神ではありませんもの」


 柔らかに微笑むキキョウはアバターチェンジし、黄色いフードマントを羽織る。

 そしてその腰に愛刀の虎徹は無い。


「ここは私が引き受けますわ。貴方はシュウヤを倒しなさい。契約を勝手に破棄するような奴に武士の情けは必要無し」


「素手で戦えるのか? お前はサムライである事が強さの証だろう?」


 フッ……と鼻で笑うキキョウは、


「サムライというアバターには無刀取りというスキルがありましてね。素手でもサムライは戦えるのですよ」


 相棒である少女の精神的強さにライトは感謝し、抱きしめた。


「ありがとよ。この借りは何かで返す」


 言葉が詰まるキキョウは黄色いライトを演じる為のフードの下で赤面していた。

 そして、ライトはサイバーグランゾーンオンライン開発者であるシュウヤが待つ聖堂協会へ向かった。


 ※



 聖堂協会。

 シュウヤからメールにて記された草原のポイントには聖堂協会などという建物は存在しなかった。

 指示された場所はただの爽やかな風が流れる草原だったのである。

 五分ほど待ってはいるがこの草原に変化が無い。


「まさか……俺を罠にはめるつもりか?」


 スキル〈鷹の目〉を使い索敵はしているが、特に敵の反応は無い。あるのは草原の草の揺れだけである。仕方なく草原に座り身を潜めていると、一人の人間の気配を感じた。

 そこには草原の風に吹かれる紫色のツインテールの死神少女がいた。


「どうしたサクヤ? 暇ならシュウヤの居場所を教えてくれよ」


「……これを」


「? そのワープカプセルが何だ?」


 そのサクヤの手にあるものは紛れもなく転移ゲートを開くワープカプセルである。

 苦痛に歪むサクヤは冷や汗を流しながら言う。


「私が正気な内にこれを渡しておくわ。これでシュウヤを倒しなさい。そうすればこの世界は貴方の自由を許す……!」


「サクヤ?」


 その背中に一本の苦無が刺さっていた。


「シュウヤを裏切るのはこのニャムが許せない」


 誰かの依頼によって動くピンクのニンジャであるニャムは個人的な意思でサクヤを始末しようとした。

 キレるライトは瞬時に動いた。


「俺の元相棒に手を出すんじゃねぇよ」


 シュパ! とライトニングドーンをニャムに叩き込んで倒した。

 すぐさま消えゆくサクヤに駆け寄り、


「今は現実でゆっくり休んでおけ。俺がシュウヤを倒して、サグオを誰もが自由であれる場所にしてやるよ」


「頼んだわよ……元相棒」


 サクヤが息を引き取ると同時にメニュー画面を開き、サイバーグランゾーンオンライン全プレイヤーに向けて拡声器メッセージと無差別ボイスメールを展開した。


「ここで宣言しといてやる!」


『――!?』


 世界に鳴動するかのようなライトの叫びにログイン中である全プレイヤーは反応する。


「聞いてるかサグオにいる全てのプレイヤー共! 俺はサグオ最強のライトだ! 俺はこのブラックマトリクスを攻略したら東西南北中央の各大陸の王をブッ倒しに行く! 今までは国を攻略してなかったが真の最強を目指すなら国単位で攻略をしねぇとな。今日でブラックマトリクスを終わらせてやるから各大陸の王達よ! 楽しみに待ってやがれ!」


 南の白衣の王は口元を歪め、東の法衣の少女は扇子で口元を隠し、西の金ピカの屈強な王は豪快に笑い、北の騎士の男はブドウを一粒食べ微笑む。


「……ふぅ。気分スッキリだぜ――!」


 ふと、背後を振り返ると協会の入口のような扉があった。

 それに手を触れるライトはそのまま強制的に協会内部に吸い込まれて行った。

 ライトの目の前には死を誘う広域殲滅兵器・マップウェポンの光が展開していた――。



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