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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
ブラックマトリクス編
15/51

ソープの森4

 穿たれた土の大穴に落ちているライト目掛けて死のシャワーを浴びせようと魔力を展開している数多の魔法使い達がここぞとばかりに暴れだそうとしていた。


「おいおい、こりゃどうにもならねぇぜ……うおおおっ!」


 マジシャン達の圧倒的魔力の総攻撃を受けてしまう寸前のライトは口を開けて叫んだ。

 目の前に現れたポニーテールの女侍に向かって――。




 シュウウ……と収束していく魔力の粒子がライトの頬を撫でる。

 総攻撃が終わったマジシャン達は一様に穴の底にいる少年とボロボロの少女を眺めていた。

 追撃をかけようにも穴の底にいる金髪の少年の威圧感に、全ての人間の行動は止まらざるを得ない状況にあった。それほどにサグオ最強の少年は生々しい感情を周囲に吐き出していた。


「……キキョウ! 何であんな危険な状況で飛び込んで来た!?」


「相棒だもの。当然の事でしょう?」


「だが――」


「もし逆の立場だったら貴方も同じ事をしたんじゃないかしら?」


 HPゲージが微妙に減り続け、もう確実に死に向かうキキョウにライトは最後の言葉をかける。それは今までの短い期間の相棒であった感謝の言葉だった。ライトの瞳にはかすかな光の雫が浮かんでいた。


「次に会ったら俺にかかる呪いのせいで俺との記憶が無いかもしれんが、俺はお前を忘れない。俺の相棒だからな」


 ぐっ……と力強くキキョウの手を握った。

 その手を相棒の少女はその思いのように強く握り返す。


わたくしは忘れません。それをコンテニューして証明してあげますわ。愛の……いや、相棒の絆は切れないという証明をね」


 そしてキキョウはこと切れた。

 ゲームオーバーになり相棒の消え行く身体を抱きしめ終わると、ライトは立ち上がる。

 冷たい殺気を夜の闇よりも深く、暗く、静かに立ち上がるのをライトを見つめる全ての人間は気付いていた。


「さて、マジでキレたぜ……かかって来いよ?」


 瞬間、キキョウを倒した魔法使い達は一瞬にして葬られた。

 そして次から次へとシュウヤの集めた精鋭は倒れて行き、一気に七十人以上を十分足らずで倒した。

残るはサグオのアイドル・マジックエスカレーション二人になった。

 暴走のような攻撃ラッシュで流石に疲労が溜まり、その二人の一撃を浴びた。


「……アイドルのクセに不意打ちか。やっぱお前等黒いぜ」


 フッと笑う赤い髪の炎のような衣装を纏う少女は言う。


「黒? 私は赤のナノカ。ナノカ姫よ!」


「姫とか言わなくていいわ。んんっ、そして私は青のヨウカ。ヨウカクイーンよ」


「って、あんたも言ってるじゃない!」


「私はいいのよ」


 サイバーグランゾーン推進アイドルユニット・マジックエスカレーション。

 赤の燃える美少女ナノカと青の冷静無比な美少女ヨウカ。

 現実でもアイドルとして人気のある二人で、サグオのプレイヤーを増やす為に運営から仕事を依頼されている二人だった。その二人の美少女アイドルは美しい笑顔に似合わぬ言葉を堂々と吐く。


『さて、そろそろ消えてもらうわよ。このサグオを盛り上げる為にね』


 赤い髪のナノカのボイスアタッカーを浴び、全身が一瞬マヒする。

 そして青のヨウカは自分でスカートをめくり青いレースの下着を見せた。


「うへぇ?」


 堂々たるパンチラでライトの意識はマヒの効果が二乗で現れ硬直する。

 それに青のヨウカは満足した。


「はい、いっちょ上がり。男は単純ね!」


「ぬああっ!?」


 ナノカの行動に破廉恥さを感じるナノカは更にボイスアタッカーを使い、三重のマヒで動きを止める。

 やけに慎重ね……と笑う青のヨウカは素早く口笛で音符爆弾を生み出し増殖させた。


「メドレードリーム!」


 爆弾音符が一斉射撃され、ライトは直撃を受ける。ズバババッ! と周囲に爆発の余波が駆け抜けた。

 ボイスアタッカーのマヒとメドレードリームの爆破攻撃のコンボを成功させたマジックエスカレーションの二人はどこかにあるカメラを意識するように、決めポーズを取った。

 そして、赤の髪をかきあげるナノカははしゃいで言う。


「ま、サグオ最強の男も私達アイドルエスカレーションには勝てないのよ。運営パワーがある私達こそが最強の二人だからねー! アハハッ!」


「そうね。所詮は地道にレベルを上げているプレイヤーと始めから強いアバターを与えられている私達とは違うのよ。ベータテスターとはいえ、所詮はただのプレイヤーよ」


「そうよねー! これで運営も私達の給料上げるはずよ! さーて、ログアウトしたら何を買おうかしらぁ……」


 瞳が金マークになるナノカはヨダレをたらしながら欲しいものをアレコレと想像する。しかし、ヨウカは冷や汗を流し煙が晴れる森の先を見つめていた。ん? と青い髪が顔にまで伝染しかかのように様子がおかしいのに気づく。


「どうしたのヨウカ? 早く運営に報告してログアウトを……」


「いえ……まだあの金髪は生きてるわ。ホラ……」


「なっ! 私のボイスアタッカーのマヒは完璧だったはずよ!?」


 焦るナノカの視線の先には金髪の少年が土で汚れる髪を整え口元の血を拭っていた。

 その周囲の地面は、デコボコとした穴が空いている。

 それを見たヨウカは青い髪をクシャ……と握り――。


「まさか……一発目をくらった後のマヒ解除から一気に残りのメドレードリームを拳で弾いたの? 何て男……」


 その通り、ライトは一撃目はボイスアタッカーのマヒにより直撃をくらわざるを得なかった。しかし、マヒが解除されてからの一瞬で全てのメドレードリームを拳で弾いたのである。この神業とも言える技は誰しもが出来る技では無かった。


『……』


 アイドルエスカレーションの二人は、サグオ最強の少年の戦いぶりに恐怖を感じ出していた。


「さて、終わらしてもらうぜ――」


 スキル〈閃速〉でライトは動いた。

 システム上最高速度のスピードにアイドルエスカレーションは反応出来ない。

 立ち止まるライトのガッ! と両拳を叩く音と共に、一陣の風が忘れたように少年の背中に遅れて吹き抜けた。倒れる二人の少女に振り返り言う。


「何度倒れようが、最後に立ってる奴が勝ちなんだよ」


「それはそうだ。そしてそれは俺様だよ」


 どこかに潜んでいた緑の髪の白スーツに身を包むエピオンが姿を現した。

 同時に、八十近く落ちている全ての袖章が輝き出した。

 それは明らかに共鳴していて、この一帯を吹き飛ばすように仕組まれているものだという事を〈見切り〉のスキルで暴いた。そしてライトは息のある瀕死のマジックエスカレーションの二人に叫ぶ。


「戦いは辞めだ! あの袖章爆発するぞ!」


 その言葉にマジックエスカレーション達は動揺した。

 そして――ライトは死ぬ間際に不可思議な行動に出た。


『きあぁぁぁぁ!』


 焦るライトは興奮しつつ、マジックエスカレーション達のおっぱいを死にもの狂いで揉む。

 そして、その袖章の全てはかつてないほどの大爆発を起こした。





 半径五キロを消し飛ばしたシュウヤの袖章はソープの森の大打撃を与える。

 これによりイベント任務を遂行する暗殺集団であるライトを始末するシュウヤの百の精鋭の全ては消えた。

 マジックエスカレーションの力を利用し、無理矢理強力な魔力をセクハラからの怒りによって目覚めさせ地面に穴を開けさせ土をかぶりクッションにして生きていた。爆発に次ぐ爆発で耳がやられ三半規管に影響が出て平衡感覚が乱れるライトはまだ手に残る柔らかい温もりを思い出しながら言う。


「ふうっ、なんとかやりすごしたぜ……って、すまん。二人共パイオツ揉み過ぎて意識を失ったか。とりあえず今は消えてくれ」


 二人の乳を指で弾きダメージを与え倒した。

 そして、ライトは鮮やかな金髪をポリポリとかき首を鳴らした。

 そして冷酷であるのに関わらず燃えるような激情を秘める二つの瞳はたった一つのシャボン玉を見据えていた。

 バチン! と割れるシャボン玉の中からこのサグオの世界を太陽無き闇の世界に堕とした張本人。

 イベント・ブラックマトリクスの実行者の男。

 天才科学者・シュウヤがさも当たり前のように薄笑いを浮かべ現れる。




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