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サイバーグランゾーンオンライン  作者: 鬼京雅
ブラックマトリクス編
11/51

イベント・ブラックマトリクスの始まり

 そしてその夕方――。

 ジュリアの街にある宿屋にて仮眠を取っていたライトはふと目覚めた。

 基本的に睡眠という睡眠はこのゲーム内では必要ではない為、頭の疲れが癒える一時間ほどの休憩があればステータス関連も全て回復するようになっていた。しかし、ライトの肉体は生身の為に疲労感まではは消える事は無い。

 リンリンリンリン! とけたたましい音が直接的に耳に響き、起き上がるライトはメニュー画面を開き、新規イベントの開催メールを開いた。


「……」


 そこに描かれた文字を見てライトは絶句する。

 そこにはサイバーグランゾーンオンライン最強の戦士ライトを倒すイベントの開催が発表されていた。

 そのイベント名はブラックマトリクス――。

 太陽が消失したサグオの光を取り戻すにはライトを倒し、新たなる光を生み出さなければならない。

 ズズズ……と夕日が消滅し、月すらも出ていない暗黒が世界を満たした。


「おいおい……冗談きついぜ」


 真っ暗闇の世界になるサグオの世界は、東西南北中央のプレイヤー全体が太陽の光を取り戻す為のイベントを開始し出した。


「……」


 突如のイベント発生により、ライトは息を呑む。

 このままでは常時五百万ほどいるログインプレイヤーの全てが自分を狙って来る可能性がある。


「……どういう事だ? こんな事が許されるのか? これは合法的な殺人じゃないか……」


 真の敵は堂々とゲーム内のライトをプレイヤー全ての力を持ってして倒し、合法的にライトを殺害しようとしていた。一般のプレイヤーからすればサイバーグランゾーンオンライン最強のライトを倒せれば次の最強の称号を得る絶好の機会であり、このチャンスを逃すまいと必死にライトを探し始めた。


「ログアウト出来ない以上、休んでる場合じゃないな。寝る暇も無く戦い続けるのか……正にデスゲームだな」


 宿屋の外の嫌な気配にライトはゆっくりと口元を笑わせた。

 静寂が満ちる宿屋の外は、ライトを狙う暗殺者の群れが殺意の目を輝かせていた。





 四方八方からの攻撃にライトは流石に四苦八苦している。慣れない街の中での戦闘と、狭い路地や建物内部などの作りに翻弄されタイマンを張る事が出来ず、弓矢や魔法攻撃の格好の餌食になりそうになりながら街を駆け抜け、目の前に現れる雑兵の群れのような敵達をひたすらに倒し続ける。


「チィ! 増援部隊がわらわらとうっとおしい。まるで宇宙ステージに行く前のスタロボのテンプレじゃねーか」


 ありとあらゆる敵をなぎ倒しながらライトは街を駆け抜ける。せめてもう少し広い場所に出ないと予期せぬ場所から攻撃をされる可能性があり過ぎでどうにもならない。今の数多の敵に囲まれる状態では〈見切り〉〈無音〉〈鷹の目〉のスキルは役に立たない。


「どけコラァ!」


 街の家々の障壁がある中での乱戦をくぐり抜けようとするライトの感覚を、異様な青い影が刺激した。 チッ――と胸元を手でまさぐられたライトはメニュー画面が勝手に開き、アイテム欄が解放されそうになっている事に気付き敵の存在が誰かを悟る。


「お前シーフ? 青い盗賊と呼ばれるシーフのジンか!?」


「お前さんのヤバい瞬間を見かけて狙って見たが、やっぱ早いな。アイテムぶんどれなかったわ」


 そのジンと呼ばれた青いバンダナの少年はライトのアイテムをぶんどれなかった事を嘆き舌打ちする。 このジンのおかげで周囲の敵の動きが止まった為、ジンを倒して一気に街から離脱しようとした。


「消えろ! ライトニングドーン!」


「ヘブンズゲート」


 サックスブルーの皮ジャンを羽織るジンの両手から生み出された黒い異空間が拡がっていた。


 瞬時に不味い――と察するライトは左手を真横に出しライトニングドーンを使って無理矢理技の進行方向を変えた。変えなければ、ライトはジンのお宝の眠る異空間に閉じ込められる所だった。それがヘブンズゲートというシドのスタースキルだった。


「もう少しで俺のコレクションになったのによ。残念無念だぜ」


「アイテムも人間も一緒かお前は」


「ま、んな所だ。とりあえずここで引き上げだ。盗みに長居は無用でな」


 言うと、青いバンダナに手を当てるジンは屋根を伝い何処かへ消える。

 そして、そのまま逃げるように街を抜け出し谷底のある崖にまで押し込まれていた。

 スキルを使う余裕こそ生まれたが、ライトは群集に囲まれている現状に動けずにいた。


「……」


 スキル〈鷹の目〉で感じる一つの殺気が、ライトの身動きを止めているのである。

 ザッザッ……と草鞋を鳴らし、赤い袴を揺らす少女がライトを取り巻く群集を蹴散らすように威圧感で押し出し現れた。黒髪のポニーテールが若々しいキキョウは静かな怒りを溜めながら、


「奴は私が始末しますわ」


 そう言い、愛刀の虎徹こてつを抜くキキョウにまたもや顔を出す青いバンダナをするシーフのジンが言った。


「最近、ライトと組んでるって噂だが殺れるのか?」


「私があんな士道の欠片も無いヤンキーと? あり得ないですわね」


 相棒であるはずのキキョウに対し、ライトは身構えた。

 この状況ではキキョウにも手加減は出来ず倒すしかない。


「ライト、ここで倒れなさい。谷底に落ちて死ぬのも一興でしょう」


「谷底に落ちて滝に打たれて反省……か?」


「そう、反省よ」


 一瞬、普段のキキョウの顔に戻る変化をライトは見逃さなかった。そして容赦の無いキキョウの居合いがライトの胸を斬った。そのままライトは背後の谷底に落下し、キキョウは周囲の人間に凄まじい居合だと思われながら刀を納める。


「やりますわね。ライト」


 髪を束ねている赤い紐が弾け飛び、艶やかな黒髪が背中に流れた。そのままキキョウはその場を後にする。

 谷底を見つめるピンクの忍装束のニンジャにジンは言う。


「本当ならもっとライトは暴れてもいいはずだ。自分が全プレイヤーから狙われてるわけだからな。しかしそれをしない。おそらく、この異様なイベントを仕組んだ奴との因縁があるんだろうよ」


「因縁……」


 シーフの男はニンジャにそう言い、何処かへ消えた。そして、ニンジャの少女も何かを思ったのか動き出した。




「ふうっ……やっと一人になれた」


 谷底から這い上がり、びしょ濡れになる服を全て脱いで洞窟内部で火に当たるライトは呟く。

 キキョウの言動とアイコンタクトにより、わざと落下させて逃がす作戦に気付いたライトはカウンターを浴びせるフリをしてキキョウの一撃を受けた。そして谷底にライトニングドーンを叩きこんでいた為、落下スピードは帳消しされ全くダメージは存在しなかった。


「どうにか助かったか。キキョウの奴には感謝だな。とりあえず身を潜めてこの事件の真相を解き明かさないとな。じっちゃ……じゃなく、ライトニングの名にかけて」


 この事件の真相を究明する為、ライトは運営の背後にいる今の自分を生み出した闇に向けて目を光らせた。



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