二人の魔王 邂逅
物語本編の開幕
世界を滅ぼした魔王は
哄笑を上げていた
人々に知られることの無かった
魔王の名はアラスゼン
咎人の狂気より生まれし魔王
そして、想造主の罪の象徴
アラスゼンは哄笑を上げながら
この場にいる第二者の存在に気づいた
燃え滅ぶ世界には己ただ一人のはず
【誰だ? そこにいるのは? まぁいい、我が闇の息吹にて無に散れ】
上げていた哄笑を止め
アラスゼンは息吹を吐き出すために
大気を吸い込む
そして、黒炎の中に揺らぐ
霧状の黒い人影めがけて
津波が押し寄せるがごとく大質量の息吹を吐き出した
黒い人影は片腕を前方に突き出し
魔力の結界を作り出して
眼前に迫ってくる
黒き息吹の津波を防ぎきった
【なんだと! これを結界だけで防ぎきるなど、人間ではあり得ぬ。貴様、何者だ!!】
「想造主の罪が
この程度の威力で
我を無に帰すだと?
欠伸が出るほど愚かしいな。
まぁいい、姿ぐらい
完全に現してやろう」
黒き人影は、アラスゼンを馬鹿にした口調で笑う
仮にも魔王であるアラスゼンの攻撃を
片腕でじゃれついてくる獣を
払うように防いだ、その力の持ち主は
己が身を霧状の闇で
不可視させるのを止めた
そして、闇が晴れ、彼は現れる
短身痩躯という言葉があるように
背丈の小ささが目立ち
黒いローブのようなコートを羽織り
同色のスラックスを穿いている
腰までストレートに伸びた長い黒髪に
横に尖った耳
顔立ちの整った王者の風貌
紅紫の瞳と左目を覆った髪色と同じ眼帯
手にした杖は黄金
先端には龍頭を模しており
龍頭にくわえられているのは拳大の紅玉
彼の名はサタン
別世界の魔王にして
想造主の初子である
そして、アラスゼンを討つ者
【ふん、人間のなりをしているが、我と同じ魔の者か。我のことを想造主の罪と言ったがどういうことだ?】
アラスゼンは自らのことを知らない
ただ生まれついた時から
破壊と殺戮をしてきた
それだけしかなく
それだけで充分だった
「自分の出自すら知らぬのか?
簡潔に言うなら、
貴様は我が言ったとおり
想造主の罪だ。
その罪が肥え太り、
貴様という形を取った。
そういうことだ。
理解したか?」
サタンは語る
アラスゼンの出自を
【ほう、我は罪なのか。
ならば、その罪という衝動に従い、
貴様を屠ってくれるわ】
アラスゼンは
己が出自を知ってなおも
魔王サタンを屠ろうとする
「我を屠ろうとするか。
まぁいい。
我も、貴様を滅ぼすつもりだったのでな。
手間が省けて助かる」
互いが互いを滅ぼし合うという結論
そして、二人の魔王は身構える
世界を滅ぼし尽くす者と
想造主の罪を滅ぼす者に
終焉の戦いは
今、開戦された