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三章十七話目

 レインに怒鳴る。

「ええ?」

 まさかそんなことで怒られるとも思っていなかったレインは慌てる。

「で、でも、あれは、その。理由があって」

 オルグとリャンの前でしどろもどろになる。

 イヴン先生はレインの腕をつかむ。

「ちょっと来い。言い訳はあっちで聞こう」

 レインの腕をつかんで生徒たちの間を引っ張っていく。

「あ、あの、あれは違うんです。僕は二人乗りがいけないなんて、全然知らなくて。そもそも空船に乗るのも初めてで」

 イヴン先生に訴えるも、相手は聞く耳を持たなかった。

 強い力で広場の隅まで引っ張っていく。

 生徒たちの喧騒から離れた建物の影で立ち止まる。

 そこでようやくレインの腕を放す。

「まったく、無暗に目立つような行動は慎めとあれほど言ってあるのに」

 イヴン先生は不機嫌そうにぼやく。

「生徒たちに何かあったら、どうしてくれるんだ」

 それはレイン個人に向けてのことではなく、別の誰かに向けて言っているようだった。

「す、すみません、イヴン先生」

 レインは頭を下げる。

「で、でも、学校の集合時間に間に合わないと思ったから、あの人に送ってもらったんです。こんなことなら、時間に遅れてもいいから馬車で戻ってくれば良かったですね」

 そこでイヴン先生は不思議そうな顔をする。

「何がだ? 別にレイン・アマナギのことを責めている訳ではない。確かに学校の校則で二人乗りのは禁止しているが、生徒たちの二人乗りはしょっちゅうだからな。今更そのことに目くじらを立てても仕方のないことだ。そういったことは生徒指導に任せとけばいい」

 レインは青い目をしばたたせる。

 そこで初めてイヴン先生がレインをわざとあの場から連れ出すために、二人乗りのことを口実にしたのだと気付いた。

 イヴン先生はばつの悪そうな顔をする。

「周囲には、あまり聞かれたくない話だったのでな。それに、お前にはあの時のことをしっかりと謝っておく必要があったからな」

「イヴン先生が、僕に謝る?」

 ますますもって意味がわからない。

 イヴン先生に謝られることなんてあっただろうか。

 レインは考えを巡らせる。

 イヴン先生の担当の法術実技の授業を思い出すが、特に心当たりは見当たらない。

 イヴン先生は苦笑いを浮かべる。

「お前は覚えていないだろう。いや、おそらくはあの時のことは記憶を消されているだろうが、お前がオリヴィエ先生の所へ反省文を出しに行った朝、お前は立ち入り禁止の温室へ行っただろう? そこでお前と出くわしたのは、私と視察団の連中だ」

 レインは首を捻る。

 その時のことはよく思い出せない。

 オリヴィエ先生の机に反省文を出しに行った時のことは覚えているのだが。

「お前と出くわした私は、お前を隣国のスパイだと勘違いした。そのためにあんな手荒な方法を取ってしまった。そのことに関してはすまないと思っている」

 イヴン先生は胸に拳を当て、頭を下げる。

 その動作は、聖職者が目上の者に対してする礼だと本で読んだことがある。

 レインはぶんぶんと頭を振る。

「そ、そんな、イヴン先生に謝ってもらうことなどありませんよ。その時のことはよく覚えていないけれど、僕はこうして無事でしたし、視察の人達だって死んだ人はいなかったみたいですし」

 イヴン先生はレインの言葉を聞いて、渋い顔をする。

「そうだな。確かに命を落とした者はいなかったが」

 言いにくそうに口ごもる。

「しかし、その時にやられた神経毒のせいで、彼らは今も後遺症に苦しんでいる」

「神経毒?」

 レインは声が裏返る。

 イヴン先生は淡々と話し続ける。

「そうだ。恐らくは隣国のイラソ国のスパイだと思われる。お前と勘違いした相手は、そいつだ。そいつは今も生徒の中に身をひそめている。お前をここに連れ出した理由は、一つにはそれだ。そいつに今回の話を聞かれたくなかったんだ」

 隣国のイラソ国は、北に位置する国で、聖イストア皇国およびライヘンバッハ諸国と北ソッホ地方連合の元々三つだった国が集まった、ラスティエ教国に次ぐ大国だった。

 最近は聖イストア皇国の皇帝が権力を持ち、他の二つの地域を武力で持って押さえつけ、独裁政権を樹立しつつあると毎日の新聞で報じられている。

 レインは言葉を失う。

 スパイだなんて、物語の中の話だとばかり思っていた。

隣国の話と言っても、どこか遠い世界の話だとばかり思っていた。

「で、でも、どうして? どうして、神学校にスパイなんて」

 イヴン先生は重々しくうなずく。

「それは、お前の持つリタ・ミラの種が関係している」


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