一章四話目
レインの通う学校では、校則で髪の色を染めることは禁じられている。
しかし生徒達はこっそり影で髪を染め、先生達もそれを見てみないふりをしているところがある。
――でも、どうせ僕が鈴牙人だからと言う理由で、また何か言われるだろうな。
レインは溜息を付いて、指でつまんだ黒髪を離す。
机にもたれ掛かり、頬杖を付く。
机の上には何も書かれていない白い紙と、その隣に黒インクの瓶とガチョウの羽ペンが置いてある。
どちらもオリヴィエ先生にわざわざ渡されたものだった。
――僕って、よっぽど信用が無いのかなあ。先生から直々に紙を渡されるなんて。
最近は法術の力によって文字が消えるという紙もあるらしい。
レインがその紙を使って、反省文を免れようとすると思ったのだろうか。
まるでオリヴィエ先生に対する誓約書のようだ、とレインは思う。
それともあるいは、その通りなのかもしれない。
鈴牙人であるレインに反省を促し、二度と自分の授業でサボらないようにさせる。
そこまで嫌われているのかと、レインはがっくりと肩を落としたが、次の瞬間にはまあ仕方ないかと諦めていた。
「反省文、どうしようかなあ」
レインは白い紙を前に考える。
――まあ、適当に反省したようなことを書いて、オリヴィエ先生に見逃してもらうしかないか。
レインは椅子に座りなおし、机の上にある法火の明かりを手元に近づける。
青白い光の法火は、瞬きもせず、レインの手元を照らし続けている。
レインはガチョウの羽ペンを握り締め、その先を黒インクに浸す。
白い紙の上にさらさらと文字を書き綴った。
次の日の朝早く、オリヴィエ先生が出勤してくる前に反省文を提出し終えたレインは、特にやることも無かったので、薬草学の授業で使う温室へと向かった。
温室はレインの生活している学生寮から、グラウンドを横切った先、中庭の片隅の冬枯れの木立に隠れるようにしてある。
全面がガラス張りで、一クラスの生徒三十人がゆうに入れる程の広さがある。
温室の前に着くなり、レインは何となく後ろめたい気持ちになって、周りを見回す。