一章三話目
――やっぱり、僕が元々、法力が無くて、鈴牙人の血を引いているからかな。
レインは椅子にもたれ掛かり、天井を見上げる。
あまり高くない天井。部屋の中には二段ベッドが備え付けられ、オルグと共同のクローゼットを置いたら、ほとんど隙間のない広さだった。
部屋の中は頑丈なスミニア杉の木で作られており、法術耐性が強く、ちょっとやそっとでは傷が付かないようになっていた。
その狭い寮の二人部屋に同じクラスのオルグと一緒にレインは生活している。
一年生の頃は四人部屋だったのだから、二年生に上がって待遇は良くなった方だ。
しかも一年の頃は、明らかにレインを目の敵にしてくるミゲロとウルベールと同室だったのだ。二人は何かにつけてレインにいちゃもんをつけて、嫌がらせをしてきた。
それこそ今回のオリヴィア先生の比ではないほどに。
しかし二年に上がり、クラスが別れてからは二人ともほとんど顔を合わせなくなった。
現在はやや平和な毎日を過ごしている。
――まあ、仕方が無いよな。僕が法力が無くて、鈴牙人なのは事実だからな。
レインはのんびりと考える。
故郷の北方群島にいた頃も、そういった理由で差別を受けていたので、今更特には驚かなかった。
鈴牙人とは、ラスティエ教国と雲海をはさんで東側、華南やイラソ国の隣の小さな島国だった。
しかしその鈴牙国は、レインが生まれる前に無くなってしまった。
以来、国を失った鈴牙人は流民となって、ローラシア大陸の様々な土地に散り散りになっていった。
レインの父親の源太もその一人だった。
ラスティエ教国の北の端、北方群島までやってきた源太達一家は、辺境伯にその土地住むことを許され、そこに住むことになる。
だが鈴牙人を受け入れてくれる人などごく一部で、ラスティエ教を信じている人々の間には、鈴牙人は天空神に見捨てられた民という偏見が広がっていた。
レインは指で自分の黒い前髪をつまむ。
緑がかった見事な黒い髪は、鈴牙人の特徴の一つだった。
――せめてこの黒髪が、弟のコウのように茶色がかった髪だったら、まだ違ったのになあ。
レインは椅子の背もたれにもたれ、指でつまんだ黒髪を見つめる。
瞳は母の目の色を継いでいるのでまだ良かったが、この黒髪ではすぐに鈴牙人とばれてしまう。
――いっそ、髪の色を染めるべきかな。