二章十八話目
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
――すごいな。
レインは素直に感心してしまう。
その様子は、さながら風に舞う花びらのようだった。
レインは全身で風を切りながら、黙ってその様子を眺めている。
まだ遠い距離にいるレインには、黒い船はどうやら気付いていないらしい。
二つの大きさの違いは、亀とアリが一緒に並んだほどもある。
――しかし、どうやって助けるか。
レインは考える。
すぐに黒い船を追い越し、白い竜に近付く。
白い竜に近付くことは、黒い空族の船に目をつけられ、危険に巻き込まれるのと同じ意味だったが、ここまで来てしまった以上、今更見捨てることもできなかった。
レインは白い竜と十分な距離を取り、並ぶ。
大声を張り上げる。
「すみません!」
白い竜の背に乗っていたのは、全身防寒服に身を包んだ人物だった。
頭に帽子をかぶり、手袋をはめ、目にはゴーグルをかけている。
竜の手綱をつかみ、レインに気が付くと、驚いたようにこちらを振り向く。
「君は、誰だい? どうして、こんなところに?」
その口から発せられたのは、野太い男の声だった。
確かによく見ると、女性の体格とは明らかに違い、その体つきはがっちりとしている。
――リシェンじゃ、ないのか。
レインは少し落ち込む。
――いや、でも。リシェンのお父さんを、助けないと。リシェンと約束したし。
夢の中の出来事を思い出し、気持ちを奮い立たせる。
レインは背後にある黒い船を気にしながら、話す。
いつ黒い船に撃たれても、不思議のない距離だった。
「ぼ、僕は、怪しい者ではありません。ラスティエ教国の、ジョゼ神学校に通う、二年生です。あなたは、リシェンのお父さんではありませんか?」
白い竜の背に乗る男は、やや面食らったようだった。
竜の手綱を握りしめ、黙り込む。
「君は、何者だ?」
低い声でうめく。
レインはその返答を肯定と受け取った。
しかしはっきりとはそうは口にしない。
――やっぱり。
レインは喜ぶ。
やはりあれは夢ではなかったのだ。
リタ・ミラ様の御子を宿したことや、あの大樹の下でリシェンと出会ったことは、夢ではなかったのだ。
レインは心の中で小躍りする。
――夢じゃなかったんだーー。
目の前の現実も忘れて、有頂天になる。
男はレインに対して、まだ疑いを解いていないようだった。
「それで、ジョゼ神学校の生徒である君が、おれに何の用だい?」
不審な様子でレインを見ている。
じろじろと見回す。
「そんな高度な飛行法術まで使って、おれにわざわざその娘のことを聞きに来たのかい?」
まさか、その通りです、とは言えなかった。
レインは気まずくなって視線を逸らす。
「い、いえ、それは。娘さんが、あなたを心配している、と言伝を頼まれて」
レインは口ごもる。
その顔には苦渋の表情が浮かんでいる。
ややあって息を吐き出し、自分の後ろを指さす。
「君も、いつまでもそんな高度な飛行法術を使いっぱなしだと、疲れるだろう? 後ろに乗らないかい?」
手袋をはめた手で、白い竜の背中をぽんぽんと叩く。
「どうやらこいつも、君には警戒していないみたいだしね」
レインは男と白い竜とを見比べる。
「し、失礼します」
そろそろと白い竜に近付く。
竜の背に座る。
レインが竜の背中にまたがると同時に、背後にいた黒い船の砲台が光る。
「しっかり、つかまっていてくれよ」
前に座る男が、竜の手綱を握りしめる。
空に轟音が響く。
レインは男の腰にしがみつく。
ぎゅっと目を閉じる。
白い竜が旋回して、風切り音と共に飛んできた砲弾をかわす。
すぐに体勢を立て直す。
レインの頭に声が響く。
『あのふねうるさい。おとしていい?』
その声は、随分と物騒なことを言っている。