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二章十六話目

 レインは混乱する。

 いても立ってもいられなくなる。

「ちょ、ちょっと、展望車に行ってくる」

「レイン?」

 オルグがレインを振り返る。

 レインは窓の外に釘付けになっている生徒達の座席の間を走る。

 最後尾の車両にある、四方の開けた展望車に向かう。

 そこならば壁がない分、もっと外の景色がよく見える。

 レインはそう思ったのだ。

 扉を開け、列車の廊下を走っていく。

 どの車両でも、乗客が窓の外を眺めている。

 レインが展望車の扉を開けると、そこには他の乗客の姿はなかった。

 ごうごうと風を切る音が耳元を通り過ぎていく。

 展望車の手すりに摑まる。

 開けた空を見上げる。

 黒い船は徐々に列車から遠ざかっていくものの、白い点との距離はさっきより縮まっている。

 このままではいつか追いつかれてしまう。

 見ていることしかできないレインは、手すりにつかまったまま雲の間を見上げている。

 ――まあ、僕に何かできる訳でもないけど。

 レインは溜息をつく。

 展望車まで夢中でやってきたものの、レインの出来ることは特にない。

 空を飛ぶ法術などの、基礎の術しか使えないレインにとっては、空船をどうこうするほどの力は持っていないのだ。

 ――リシェンか、リシェンのお父さんかわからないけど、僕には助けることもできないなんて。まあ、わかってたことだけど。

 がっくりとうなだれる。

 手すりにもたれかかる。

 レインがうなだれていると、どこからか声が聞こえる。

『れいん。あのりゅうを、たすけたいの?』

 レインは顔を上げる。

 辺りを見回す。

「だ、誰だ?」

 展望車には他に人の姿はない。

 白い雲が後方へ流れていく。

『れいんは、あのりゅうと人を、たすけたいんだよね。そうだよね?』

 頭に直接語りかけてくるような感覚。

 レインはこの感覚に覚えがある。

 ――確か、以前に。

 レインは思い出そうとしたが、上手く思い出せない。

 思い出そうとすると、まるで頭に白い霧がかかったようになる。

 頭に響いた声に、かろうじて返事をする。

「う、うん」

 大きく頷く。

 返事をすると、その言葉がすとんと胸の奥に落ちてくる。

 力強く声を発する。

「僕に出来ることがあるなら、白い竜とそれに乗った人を助けたい!」

『きまりだね』

 手すりをつかんでいたレインの体が急に軽くなる。

 宙に持ちあがる。

「へ?」

 レインの足が列車の床を離れ、その手は宙をかく。

「わ、わわっ」

 まるで空を飛ぶ法術の授業の時のようだ。

 レインの体がふわふわと浮き上がり、列車の手すりを越える。

 何もない雲の中に放りだされる。

『いくよ』

 弾丸のようにあの白い点目指して飛んで行く。

「ぎゃあああぁぁぁぁ!」

 レインは悲鳴を上げる。

 物凄い風が、レインの顔を叩きつける。

 今までかつて、授業であってもこんなに早く空を飛んだことがないのに。

 こう見えて、レインはあまり空を飛ぶのが上手くない。

 空を飛ぶ法術の授業でも、いつも居残り赤点だ。

 それがこんな風に猛スピードで空を飛ぶ羽目になるなんて。

 レインが瞬きしている間に、列車が見る見る遠ざかっていく。

 雲の頂が迫り、黒い船の船体が目の前に現れる。

 レインのスピードは落ちない。

 黒い船と並走するように飛んでいる。

 黒い船の砲台が光る。

 前方を飛ぶ白い竜目がけて砲弾が打ち出される。

 白い竜はひらりひらりとその砲弾をかわす。


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