二章九話目
それを何も言わないということは、つまりそういうことなのだろう。
二人は全くの見ず知らずの人間なのだろう。
レインは思い切って聞いてみることにした。
――あ、あの、リシェンさん。このサライの他に、白い竜はいるのですか? 僕、七年前にも白い竜を見たことがあるような気がするのですが。
「七年前に、白い竜を?」
リシェンの形の良い眉が跳ね上がる。
難しい顔つきになる。
考え込む素振りをする。
「それは、どこで見たのですか?」
固い声音で尋ねてくる。
レインは何か変なことを聞いてしまったのかと、不安になる。
――え、ええと。
白い竜のサライと、リシェンとを見比べる。
――ほ、北方群島の辺りで。
口ごもる。
地理が苦手だと言ったリシェンの言葉を思い出し、身振り手振りで位置を説明する。
――鈴牙国が、東の果てだとすると。北方群島は、西の果てにあるんですよ。西の果ての多島雲海の中の島々で、辺境伯、というラスティエ教国の法皇に直々に任命された伯爵が、そこ一帯を治めているんです。
レインの説明に、リシェンは深緑の瞳を泳がせていた。
何のことかさっぱりわからないようだった。
「つ、つまり、西の果ての島々、ですね?」
リシェンはこれ以上、わからないことを説明されてはかなわないとばかりに、レインの方へ身を乗り出す。
――う、うん。
迫ってくるリシェンに、レインは背中を逸らす。
彼女の怒ったような顔が目の前に迫ってくる。
「それで、あなたは七年前のいつごろに、その白い竜に会ったのですか? その竜の背に、男の人が乗っていませんでしたか?」
リシェンはさらに詰め寄る。
鼻先が触れ合うほどの距離だった。
――ど、どうだったかな?
レインは気まずくなって、顔を背ける。
このままリシェンに押し倒されそうな勢いだった。
――もし、その白い竜の背に男の人が乗っていたとしたら、ど、どうなのかな?