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一章二十話目

 ひたすら頭を下げて尋ねる。

『いいだろう、と言いたいところだが。どうやら、そんな時間もないらしい』

「ええっ?」

 レインは慌てて地面から立ち上がり、青い瞳で油断なく温室の中を見回す。

『さっき取り逃がした一人だな。温室の周りに法術で結界を張っている』

 レインは何とかして法術の気配を感じようとしたが、あまり感知能力に優れていないので、よくわからない。

「ううん?」

 首をひねる。

『わからないか? ならば、これならどうだ』

 レインの目の前が急に真っ暗になった。

 先ほどまで聞こえていた物音も、見えていた光も、草や土の匂いさえも何も感じなくなった。

 ――な、何だ?

 言葉さえ口にできなくなった。指先ひとつ動かすことができない。

 まるで自分の体が木にでもなってしまったかのようだった。

 微動だにせず、レインは温室の中に立ち尽くしている。

 ――り、リタ・ミラ様、これは何ですか?

 頭ばかり混乱するレインは、リタ・ミラに問いかける。

『大したことはない。私と感覚を共有しただけだ。しかし驚いたな。鈴牙人といえど、まさか未だに私と共感できる人間がいるとは』

 褒められているのか、けなされているのかわからない彼女の物言いに、レインはあえて何も言わなかった。

 ――そ、そうですか。

 本当ならば苦笑いの一つも浮かべているところだが、生憎今のレインには表情さえ変えることができない。

『私と感覚を共有しているお前ならば見えるだろう? ほら、あそこに人が立っているだろう?』

 彼女の声の示す方に、レインは意識を集中する。

 すると暗闇の中に、わずかに白い光のようなものが見えた気がした。

『あいつは法術を使おうとしている。白い光は力が集まっているせいで、そう見えるんだ』

 ――はあ。

 レインは釈然としないながらも、返事をする。

 確かにようく意識してみると、その白い光のそばに、ぼんやりと人のような輪郭が感じられる。

『さて、あいつの術式が完成する前に、早く子どもをどこかに隠さなければ。レイン、少し体を借りるぞ』

 ――へ?

 すると、レインの体が自分の意志とは関係なく、勝手に動き出した。

 レインの口から習ったこともない祈りの言葉が紡がれる。

『術は術本来の姿に戻るがいい

 祈りは人の言の葉の中に

 祈りを届けるのは神ではなく

 祈りを捧げる人間へと

 紡がれた口へと戻るがいい』

 それはレインの口から出た言葉だったが、聞いたこともないような古い、今は失われてしまった言葉のようだった。

 ただその音色は、父親が時々話している故郷の言葉によく似ていた。

 ばちん、と空気が爆ぜたような音がした。

 枯れ木の周りに青白い光がほとばしり、掛けられ結界の術式が浮かび上がる。

 ――ひええ。

 レインは授業で習った知識を総動員してその術式を読み解いてみたが、少なくとも五つ以上の術式が組み合わされた複雑な文様になっていた。

 知らずにレインが結界に触れていたら、恐らく大怪我するどころではすまなかっただろう。

 レインの口はさらに言葉を紡ぎ続ける。

『火の竜、インチェンディオ

 水の竜、アルヴィオーネ

 風の竜、ティフォーネ

 土の竜、テレモート

 天の竜、ヴァランガ

 どうか、我が子を守ってやってほしい

 私の命はもうすぐ尽きる

 新しい芽生えを見守ってほしい』

 それは彼女の祈りの言葉であったのかもしれない。

 結界を形作っていた術式はほどけ、五つの光の筋になって広がっていく。

 赤、青、緑、黄、白の五つ光が広がり、祈りに呼応するかのように光の筋となって空へ昇っていく。

 ――り、リタ・ミラ様? リタ・ミラ様の命が尽きるって。

 その言葉の意味をレインは問おうと思ったが、上手く言葉にならなかった。

 光の奔流に飲み込まれ、レインは立っていることさえままならない。

 目もくらむほどの眩い光に、レインは意識を保っていることさえ出来ず、ふっと暗闇の中に落ち込んでいった。


先週の更新はお休みしました。待っていた方すみません。(そんな奇特な方いらっしゃるのかしら?)

とりあえず一章もこれで終了です。

リタ・ミラ様もこれにて退場です。ヒロインにしようかとも思ったのですが、それでは主人公が余りにかわいそうなのでやめにしました。(人妻?だし、子持ちだし、そもそも人間じゃないし)

二章ではちゃんと人間のヒロインが登場する予定です。

初あとがきなのですが、これでいいのでしょうか?

ではまた来週。

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