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七章二十話目

 両親はそのことをあまり話したがらない。

 レインも近所の人の噂話で聞くだけだった。

「母さんのためにも、私はセイナを引き取ろうと思った。これから本当の娘として、お前の妹として育てて行こうと決心したんだ」

 父、源太の力強い言葉に、レインはわずかにうつむく。

「そっか。うん、そうだね」

 もちろんレイン自身には両親の意見に反対をするつもりはない。

 考えた末に育てる決心をしたのなら、それに従うつもりだ。

 そこでふと思い至る。

「でも父さん、もしもセイナの本当の両親が迎えに来たらどうするの? もしもセイナが成長して、本当のことを知ったら」

 レインは言いよどむ。

 ちらりと源太の様子を伺う。

 源太は目を閉じて、考え込んでいる様子だった。

「その時は、両親にセイナを手放さなければならなかった理由を話してもらう。その人となりを見て、話の内容を聞いて判断する」

「うん」

「その人となりが信用できる相手であるのなら、私は母さんを説得してセイナを元の両親の元に帰すようにするさ」

 レインの方からそう聞いたものの、どうしてなのかわからないが、もうそんなことにはならないような気がした。

 セイナの両親は遠いところに行ってしまって、引き取りに戻って来ないような気がしたのだ。

 レイン自身、どうしてそんな気がしたのかはわからない。

 ただ何となくそう思ったのだ。

 診療所の窓が風でがたがたと鳴っている。

 外にいる母のアンジェとセイナが強い風に吹かれて身を寄せ合っている。

 太陽に雲がかかり、辺りがわずかに暗くなる。

 レインは黙って窓の外を眺めている。

 目の前の源太が椅子から立ち上がる。

「さて、と。そろそろ外にいる母さんとセイナを呼んでくる。母さんもお前に色々と聞きたいことがあるらしいからな。今度は私たちの方がお前に質問する番だ」

 源太はつとめて淡々と言う。

 レインは驚いて青い目を丸くする。

「僕に?」

 レインの問いに、源太はうなずく。

「そうだ。病院内では誰が聞いているかわからなかったから聞けなかったが、ここでは知っている人ばかりだからな。安心して込み入った話が出来る。待ってろ、今母さんを呼んで来るから」

「え? えぇ、込み入った話?」

 源太はさっさと部屋から出て行ってしまう。

 後にはベッドにいるレイン一人が残される。

 言葉の意味を十分に考えて、レインは両親に何のことを聞かれるのかと急に不安になる。

(そ、そもそも、父さんと母さんはある程度の事情を聞いているんじゃなかったのか? そう言ったはずだけど。でもどこまで知っているかは聞いてないし、突然リシェンを連れて帰ったことだって、きっと内心では驚いているはずだし、父さんにここで改めてそう言われると緊張するよ)

 今まで事情を理解しているとばかり考えていたレインは、良くない予想があれこれと頭の中を駆け巡る。

(ど、どうしよう。母さんは一度思い込むと感情が爆発するし。セイナのこともあるし、あまり強くも言えないし。父さんが母さんを止められるとも思えないし、普段はなだめ役になってくれるコウも今は出払っているし)

 また母の機嫌を損ねるのではないかとレインが心の中で慌てていると、頭に声が響く。

 ――どうしたの、れいん?

(あ、うん。実はさ、母さんのことで)

 リタ・ミラの種の問い掛けに、レインは挙動不審になりながら答える。

 それでも話しているうちに、レインの心は徐々に落ち着きを取り戻す。

 窓の外ではセイナを抱いたアンジェが、源太と何事か話している。

 話を聞いたリタ・ミラの種が再び問い掛けてくる。

 ――れいん、いや? ここにいたくないのなら、にげる?

 話が済んだのか、セイナを抱いた両親がこちらへと歩いて来る。

(いいや、逃げないよ)

 レインは首を横に振る。

 緊張はしていたが、セイナの話をレインが受け入れたように、きっと両親もレインの境遇を理解してくれるはずだ。

(心配してくれて、ありがとう。僕は大丈夫だよ。きっと以前なら逃げていただろうけれど、今度は逃げないよ)

 ――そうなの?

 レインはベッドの上に置いた両手を握りしめる。

(うん、僕は大丈夫だよ。父さんは約束通りセイナの話をしてくれた。だったら今度は僕が両親に事情を話す番だよ。いろんなことを無暗に怖がってばかりじゃいけないんだ。両親も僕のことを心配してるんだ。きちんと話せばきっとわかってくれるよ)

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