表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/320

七章十二話目

 どうして僕にこんな面倒事を押し付けるんだ。

 そもそもそんなこと、僕が出来る訳ないのに。

 レインの心の中の暗い感情があふれ出てくる。

 それはレイン自身には押しとどめることは出来ず、ましてや制御することはまだ出来なかった。

 普段から我慢強いレインであっても、一度あふれ出した感情を押し殺することは困難だった。

 ――れいん、れいん!

 リタ・ミラの種が心の中で叫んでいる。

 飲み物を買ってきたリシェンが怪訝な顔をしてレインを見つめている。

「レイン?」

 リシェンはレインの思いつめた表情を見て、顔を覗き込んでくる。

「ドウシタの、レイン」

 リシェンの態度に気付いて、ようやく父も母もコウもレインの異変に気付いたようだった。

 レインは虚ろな表情のまま誰の顔も見ていなかった。

 病室の壁の一点を見つめている。

「どうして僕がこんな目に!」

 口に出してしまうと、もう気持ちを押しとどめることは出来なかった。

 感情の渦の中に巻き込まれていくのがわかる。

 自分の気持ちが周囲に解き放たれる。

 怒りとも悲しみともつかない感情が胸の奥から湧き出てくる。

 家族が一瞬、静まり返るのが見えた。

 病室の空気が張り詰める。静電気のような火花が目の前に散る。

 それはレインが無意識のうちに使った法術だった。

 レインの感情の高ぶりとリタ・ミラの種の力で法力が増幅されているのだ。

 簡単な雷の法術を使っただけでも、周囲の病院の機器を壊すことが出来る。

 病院には法術の力を抑える結界が張られていたが、リタ・ミラの種の強力な法力の前では無力だった。

 卵の殻を割るよりも容易く結界を破ることだろう。

「ダメ、レイン!」

 危険を察したリシェンがレインのベッドに駆け寄る。

 レインの青い瞳を覗き込む。

「シッカリシテ、レイン! 気持ちを落ち着けて、シッカリ自分を保っテ。ソウジャナイト、ワタシはレインを止めなきゃナラナイ。ワタシはレインを失いタクナイ!」

 リシェンは深緑色の瞳に涙を溜めている。

 今にも泣き出しそうな顔をしている。

 レインとリシェンの様子を見ていた家族はお互いに顔を見合わせる。

「ちょっとどいていて、リシェンちゃん」

 母のアンジェは泣きそうなリシェンの肩に手を置いて、優しく微笑む。

 レインのベッドに近寄る。

 手の平を振り上げる。

「こんな可愛い彼女を泣かすなんて、そんな息子に育てたつもりはないわ。少しは頭を冷やしなさい!」

 ばちんと物凄い音がして、母のアンジェがレインをはっ倒す。

 それは平手打ちと言うには、かなり乱暴だった。

 はっ倒されたレインはそのままベッドに倒れる。

 危うく点滴の管が抜け、ベッドの手すりに頭をぶつけるところだった。

 しばらく動けないでいる。

 追い打ちをかけようとするアンジェを、慌てて父の源太と弟のコウが止める。

「母さん、落ち着いてやってくれ。レインだって悪気があっだ訳じゃねえ。ちょっと疲れているだけだ。それ以上は勘弁してやってくんろ」

「そうだよ、母ちゃん。一応兄ちゃんは怪我人だよ? 母ちゃんのいつもの力ではっ倒したら、兄ちゃんまた病院送りだよ? あ、ここが病院だから送る手間が省けていいけど。兄ちゃんの入院期間が伸びちゃうよ~~」

 まだ手の平を振り上げているアンジェに、源太とコウがすがりつく。

 アンジェはまだ興奮冷めやらぬ調子で肩で息をしている。

 病室であることを忘れたように、大声を張り上げる。

「いい、これはレインにしか出来ないことなのよ? 途中で放り投げることは出来ないことなのよ? あんたが大変なのは母さんだってわかるわ。本当なら代わってあげたいくらいよ。だけどそれも出来ないの。あんたは選ばれてしまったんだから。選ばれてしまった以上は、このことが上手くいっても、上手くいかなくても、最後まで頑張るしかないのよ! リシェンちゃんだって、遠いところからはるばるこんな場所までやってきて、あんたの手助けをするために頑張ってるって言うのに。あんたが弱音を吐いてどうするのよ! こんなところで駄々をこねてどうするのよ!」

 アンジェにはっ倒されたレインは、ベッドに突っ伏したまま母の声を聞いている。

 頬が熱く、頭が痛い。脇腹の傷もうずく。

 体中に痛みを感じ、ようやく気持ちが落ち着いてきたようだ。

 先程から呼びかけていたリタ・ミラの種の声がようやく聞こえるようになる。

 ――れいん。ぼくめいわく?

 レインは心の中でそっとつぶやく。

 ――ううん、そんなことは無いよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ