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六章三話目

 慌てた様子で説明する。

「レイン」

 弟は薄暗い部屋の中から、階段の上にいるレインに向かって大声で呼びかける。

 レインは手錠をかけられたままのろのろと振り返る。

「お前は、自分は友達を助けられなかった、自分が友達を殺してしまった、と思い込んでいるかもしれないが、実際はそうではない。お前はどうあっても救いようのなかったあいつを、最期に救ったんだ。最期にあいつは笑っていたんだろう? それ以上、何を望む。お前はあいつに何も出来なかったと思い込んでいるかもしれないが、実際はそうじゃないんだ。あいつはお前に心から救われたんだ」

 弟は真っ直ぐにレインを見つめている。

 その声も表情も揺るがない。

 レインは眩しいものを見ているかのような気持ちになる。

「スミルノフ、くん」

 喉の奥がつかえる。言葉が上手く出て来ない。

「お前はもっと自分に自信を持て。胸を張っていいんだ。ここにいる皆はお前の無実を知っているし、お前もきっとそうだろう? お前は何を言われても、自分の意見を通すべきだ」

 静かだが、強い意志の感じられる言葉だった。

 レインの胸に熱いものが込み上げてくる。

「ほら、早く行かないか」

 ンゴロにうながされて、レインは階段を上っていく。

「ありがとう、みんな」

 レインは振り返らずに小声でささやく。

 リシェンが慌てて手を挙げる。

「わ、ワタシもレインを信じてイマスカラ。何がアッテモ絶対に」

 背後から聞こえてくるリシェンの声に、レインは小さく笑う。

「リシェン、ありがとう」

 胸の奥が温かい気持ちになる。

「レイン!」

 リシェンが泣きそうな顔をしてレインに駆け寄ろうとしたが、途中でンゴロに遮られる。

「だから、容疑者に近付くんじゃない」

「ドイテ下サイ!」

 リシェンとンゴロがまたにらみ合いになる。

「リシェンさん、やめなさい」

 シェーラ先生に肩を叩かれ、やんわりとたしなめられる。

 リシェンはまだ不満そうな表情だった。

 みんなに見送られてレインは階段を上って行った。

 病院の通路を通り、さらに階段を上る。

屋上に着くと、そこには小型の空船があった。

「これは?」

 レインは物問いたげにンゴロを振り返る。

 けれど返答はかえってこなかった。

「ほら、早く乗れ」

 ンゴロにうながされ、レインはしぶしぶ空船に乗り込む。

「そこに座れ」

 レインは釈然としないながらも、シートに座る。

 その隣にンゴロがどっかりと座る。

「いいか、逃げようとは思うなよ? 怪しい動きをしたら、ただじゃおかないからな」

 ンゴロの脅しに、レインは視線を逸らす。

「別に、今更逃げようとは思いませんが」

 レインは正直に言う。

「ところで、僕はこれからどこへ連れて行かれるんですか? 他のみんなは一緒じゃないんですか?」

「もちろん、あいつらも一緒だ。むしろあいつらの方が危険人物だからな」

 ンゴロは腕組みをする。

「今から向かうのは、首都のセラフだ。お前はそこで異端審問に掛けられる。よりにもよってイストアとの難しいこの時期に、お前はイストアからの留学生を殺したのだからな。イストアに配慮した結果、お互いの関係者を呼んで事件の真相をはっきりさせよ、との上からの命令だ」

 ンゴロはそっけなく答える。

 けれど正直に話してくれたことにレインは好感を持つ。

 ――この人は、悪い人ではないのかもしれない。正直に話せば、わかってくれるかもしれない。

 悪い人であれば、レインの問いに正直に答えたりしないし、無視するだろう。

 微かな希望を見たような気がした。

 空船の扉から他のみんなが大人たちに連れられて乗り込んでくる。

それぞれがシートに座り、扉が閉められる。

空船は緩やかに発進する。

皆が黙り込んでいる中、レインは弟に言われた言葉を思い出す。

――もっと自分に自信を持て。胸を張れ、か。

 自分に自信がないことは薄々気づいていた。

けれど、こうはっきり面と向かって言われるとは思わなかった。

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