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五章二十四話目

 自分がつくづく物を知らないことに気付かされる。

 落ち込みそうになる気持ちを何とか立て直す。

 ――だ、駄目だ、駄目だ。そんなこと気にしてどうするんだ。

 レインは軽く頭を振る。

 暗い気持ちを追い払う。

 ――そんなことよりも、今はオルグを助けることが先決だよ。僕がものを知らないなら、これから知って行けばいいんだし。力が足りないのなら、これから力を付けて行けばいいんじゃないか。確かに僕がオルグを助けるには力が足りないのはわかっているけど、それだってお姉さんたちの力を借りればいいだけじゃないか。

 自分を励ますように、レインはぐっと拳を握りしめる。

 青い瞳でじっとオルグと青年のやり取りを見守っている。

「君の素性くらい、少し調べればわかることなんだけどね。おれも部下も暇じゃないからさ。出来れば君の口から直接聞きたいんだよね」

 青年はオルグから手を離し、肩をすくめる。

 距離を取り、ベッドに座っているオルグを見下ろしている。

「ぼ、ぼくは」

 オルグは両手で顔を覆う。

 消え入るような声でささやく。

「北軍のスパイに頼まれて、彼らの手助けをしました」

 それだけ言うと、オルグはがっくりと肩を落とす。

「ふ~ん、やっぱりそうか。だったら、北軍の将校に話を通してもらった方がいいな」

 青年はあごに手を当てて考え込む。

にっこりと笑う。

「ありがとう、それだけわかれば十分だよ。後はこの国の警察機構に本当のことを話して、身柄を保護してもらうといいよ。こっちはこっちで手を回しておくからさ。故郷にいる家族の保護はこちらで何とかするよ。出来る限りの手は打っておくから」

 青年の言葉を聞いて、オルグの顔に生気が戻る。

「あ、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

 青年はそれで話は終わったとばかりに、オルグに背を向ける。

 オルグは青年の背中に頭を下げる。

 レインのそばを通り過ぎ、隣にいた姉の肩を叩く。

「サラ、少し話がある」

 青年は姉に小声で話しかける。

 その顔には先ほどのような笑みは浮かんでいない。

 ひどく深刻そうな表情で盲目の姉を見下ろしている。

 いつになく固い声音に、姉は何かを感じ取ったのだろう。

「わかりました。部屋の外で聞きましょう」

 硬い表情で姉が小さくうなずくのを、レインは見逃さなかった。

「オルグさんのことで、兄さまと少し話をしてきますので、席を外しますね。部屋の外にいますので、何かあったら声を掛けて下さい」

 姉はいつもの穏やかな口調で、部屋にいる人々を見回す。

 軽く頭を下げ、青年について部屋を出ていく。

「だったら、僕も」

 弟が二人の後について行く。

 青年が露骨に嫌そうな顔をする。

「え~? 弟君もついてくるの? 折角サラと二人きりで話が出来ると思ったのに」

 弟は眉をつり上げ、青年を睨む。

「あんたが姉さんに変なことをしないか監視するんだよ。僕が目を離した隙に、目の見えない姉さんに迫って、いかがわしいことでもしようと考えているんだろう。あんたの考えはすべてお見通しなんだよ!」

「ええ~、おれって信用無いなあ。おれはこんなにも誠意を尽くしていると言うのにさ。ひどいと思わないか? ねえ、サラ」

 同意を求められた姉は、青年からついと視線を逸らす。

「それに関しては、わたしの口からは何とも申せません」

 引きつった表情で、出来るだけ青年を見ないようにする。

 姉のよそよそしい態度を見た弟は逆上する。

「お前、姉さんにまた何かしたのか? 何なら、二度とその減らず口を叩けないようにしてやってもいいんだぞ!」

 弟は射るような目つきで青年を見据える。

 拳を握りしめ、構える。

 青年は冷や汗を流しつつも、余裕の態度を崩そうとしない。

「何か、って。別にたいしたことはしていないよ? せいぜい再会を祝して熱い抱擁と接吻を交わしただけさ」

 青年の顔の横をかすり、後ろにあったベッドの柱に弟の拳がめり込む。

「誰が、何だって?」

 地の底に響くような低い声で弟はつぶやく。

 青年の顔からさっと血の気が引く。

「ぼ、暴力は良くないと思うな、うん。何事も平和的な話し合いが大事だと、おれは思うんだ」

 部屋の入口のそばにいる部下たちは、平然とした顔で青年の窮地にも一向に動こうとしない。どうやらそれが姉と青年と弟とのいつものやり取りだとわかっているようだった。

「あの人たちは、ヒトを笑わせる、ヤクシャか何か、デスカ?」

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