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五章十七話目

 最近リタ・ミラの種は気になることを色々とレインに聞いてくる。

 レインは自分の答えられる範囲で、それに答えていた。

 ――でも、どうしてシェーラ先生は法術師団と騎士団のことを言ったんだろう? オルグのことはそれだけ重大な事なのかな?

 ただ単にレインが知らないだけで、実際の状況はひどく深刻なのかもしれない。

 ――イストアのスパイのこともあるから、シェーラ先生が心配するのももっとだよね。

 レインがぼんやりとそんなことを考えていた時だった。

 突然に医務室の窓が割れる。

「ぐっ!」

 椅子に座っていたオルグが肩を押さえ、体を折り曲げる。

「オルグくん?」

 シェーラ先生が慌ててオルグに駆け寄る。

 レインも驚いてオルグを見る。

 オルグは肩を押さえ、傷口から血を流している。

 ――れいん、とおくからだれかみてる。

「え?」

 レインは割れた窓を振り返る。

 ――あそこ、あのやねのうえ。

 リタ・ミラの種に言われた通りに、校舎の屋根の上を見ると、そこに一つの人影が見えた。

 人影はレインの見ている前で移動し、校舎の影に隠れて見えなくなる。

「オルグくん、オルグくん。手を離して。傷の具合を見せて?」

 シェーラ先生はオルグの肩の傷の具合を見ようと、身を乗り出す。

 オルグは肩を押さえたまま、椅子から滑り落ちる。

 肩から血を流して、床に崩れ落ちた。

「オルグ!」

 レインは短く叫ぶ。

 床に横たわるオルグを見て、冷静ではいられなくなる。

 割れた窓の外に見える校舎の屋根を見据える。

 先ほど人影の見えた場所に見当をつける。

「よくもオルグを!」

 深くは考えず、レインは窓の外に飛び出した。

「レインくん、駄目よ!」

 シェーラ先生が止めるのも聞かず、中庭を走っていく。

 人影の見えた校舎に向かって駆け出した。

 あの時人影が見えたのは校舎の屋上だった。

 そこへ行けば何か手がかりがあるかもしれない。

 レインは漠然とそう考え、屋上に向かったのだが、途中で何人もの生徒や先生とすれ違った。

 ――この中に、オルグを撃った犯人がいるかもしれない。

 そう思うものの、レインには誰が犯人かは見分けが付かなかった。

 息を切らせて屋上にたどり着いたものの、そこには誰もおらず、何も見当たらなかった。

「くそっ!」

 レインは青く高い空をふり仰ぎ、悪態を吐いた。




 オルグの撃たれた傷は、幸い命に別状はないようだった。

 けれど、撃たれた時に傷口から雑菌が入ったのか、オルグは高熱に倒れ、しばらくはベッドから起き上がることは出来なかった。

 レインはオルグが高熱で苦しむのをそばで見ていることしか出来なかった。

 オルグの看病はシェーラ先生が付きっ切りでしてくれた。

 三日ほど経つと、オルグもようやく熱が下がり、ベッドから起きられるようになった。

 何が起こったのか、犯人に心当たりはあるかとイヴン先生が聞いても、オルグは口を閉ざしたままだった。

「もう駄目だ。ぼくはきっと殺される」

 オルグはひどく怯え、部屋から一歩も外に出ようとしなかった。

 犯人が捕まらないまま、一週間が過ぎた。

 話によると、イヴン先生がオルグの身柄を中央に保護してもらうように頼んだという。

 レインは授業に出ようとしないオルグに代わって、授業内容を書いた紙をオルグのためにせっせと運んだ。

 オルグは今まで真面目に授業を受けていたのが嘘のように、まったく勉強に興味を示さなかった。

 無気力になってしまった。

 それでもいつオルグが勉強をする気になってもいいように、レインは部屋に通い続けた。

 詳しい事情を知らないながらも、心配したリャンはレインと一緒にたびたびオルグの部屋を訪ねた。

 事情を知らないリャンでもわかるくらい、オルグは以前とは変わっていた。

 部屋からレインと一緒に出たリャンは独り言のようにつぶやく。

「あいつ、どうしたんだ? 一体何があったって言うんだ?」

 レインはリャンの問いには答えず、曖昧に笑うことしかできない。

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