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五章二話目

 そもそもどうしてここにリシェンがいるのか、どうしてレインに対して頭を下げているのか、大体のことは説明を受けていたものの、こうして実際にリシェンを見るまで、実感が沸かなかった。

 ――リシェン、本当に来たんだ。

 まさかまたリシェンに会えるとは思っていなかったレインは、素直に驚いてしまう。

 ――りしぇん、ひさしぶり。ぼく、りしぇんにずっとあいたかったよ。

 リタ・ミラの種は喜んでいる。

 顔を上げたリシェンは、深緑の目でレインを見つめる。

『レイン、会いたかった。ここに来るまでに、ずいぶんと時間はかかってしまったけれど、わたしが来たからには、もう大丈夫だから』

 その優しげな表情から、レインは言葉は通じなくても、大体の意味は受け取った。

 照れくさそうに黒髪をかく。

「こちらでは、初めまして、だよね、リシェン。改めて、これからよろしく」

 リシェンの守り刀を握りしめたまま、困ったように笑う。

 つられてリシェンも深緑の目を細める。

 優しげに微笑む。

 それを見ていたリャンをはじめ、周囲の男子生徒たちが歯ぎしりするのを、レインは聞こえないふりをした。

「リシェン・ブラダマンテ!」

 イヴン先生がまだ膝を折るリシェンのところまで歩いて来る。

 そのそばにしゃがみ込み、小声で耳打ちする。

『そういった真似はやめてくれないか? ここは君の故郷の竜の島ではない。ここにはここのルールがある。君には彼のクラスメイトとして、留学生として、ここで普通の学生としての生活を送ってもらうのが目的だからな』

『でも、イヴン先生。わたしはレインを守るために、ここに来たんです。普通の学校生活を送るために来たんじゃありません』

『それはわかっている。しかし他の先生や生徒たちの手前、滅多な行動を取ってもらっては困る。こちらにも君を受け入れた責任があるんだ』

 イヴン先生にそう言われ、リシェンは渋々立ち上がる。

 ちらりとレインを見る。

『じゃあね、レイン。また後でね』

 レインに手を振り、イヴン先生に連れられて壇上へと戻る。

 つられてレインも手を振る。

「またね、リシェン」

 リシェンの後姿を見送る。

「へえぇ、またね、リシェン、だって。あんな可愛い子と知り合いだなんて、レインも隅に置けないなあ」

 リャンが拗ねた顔でレインを見る。

「レイン、いつの間にあの転校生と知り合いになったんだい?」

 オルグが声を立てて笑っている。

 周囲からは男子生徒たちの冷たい視線が注がれている。

 レインはぎくりとする。

「べ、別に、そんな親しい訳では、ないけど。前に一度会ったことがあるだけで」

「へえぇ、そこのところは、詳しく聞きたいな」

 リャンがレインへと身を乗り出してくる。

「ぼくの知らないうちに、ひどいな、レイン。彼女がいるなら、教えてくれたっていいのに」

 オルグは穏やかな声だったが、そこには暗にレインを非難するような声音が隠されている。

 レインは顔を赤くして、手を振る。

「べ、別に彼女じゃないよ。リシェンとは、前に一度話したことがあるだけで、そんなに親しいわけでもないし」

レインは必死に弁明したが、先程のリシェンの親しげな態度を見た男子生徒たちは納得しないようだった。

「あんな可愛い子に親しげに話しかけられて、前に一度会ったことがあるだけだって?」

「うそつけ! とてもそんな風には見えなかったぞ」

「レインのくせに、レインのくせに!」

 恨みがましい叫びが聞こえてくる。

「だ、だから、違うんだ!」

 いくらレインが弁明しても、逆効果だった。

 男子生徒たちの非難は高まるばかりだった。

 その騒ぎを見ていたイヴン先生は溜息を吐く。

『どうかしたのですか? 彼らは何を言っているのです?』

 隣にいるリシェンが不思議そうに尋ねてくる。

『君のさっきの行動を見て、レインが君とはどういう関係かと、問い詰められているんだ。面倒なことになった』

 リシェンは男子生徒たちから詰め寄られているレインを見る。

 さっと顔色を変える。

『ご、ごめんなさい。わたし、レインに迷惑を掛けるつもりは』

 慌てるリシェンに、イヴン先生は厳しい目を向ける。

『次からは、こんな真似をしないよう注意してくれ。彼のためにも、出来るだけ目立たない行動をするよう努めてくれ。そうしないと、君だけでなく、彼も困ることになるのだから』

 イヴン先生に言われ、リシェンはうなだれる。

『はい』

 消え入りそうな声で答える。

 イヴン先生は表情を緩める。

『わかればいいのだ。次回から気を付けてくれれば』

 視線をレインの方へと移す。

『さて、あちらはどうしようか』

 すっかり騒ぎになっているレインたちを見つめる。

 見かねたマムーク先生が騒いでいる生徒たちを注意する。

「お前ら、静かにしろ!」

 生徒たちをぶつぶつと文句を言いながらも、マムーク先生に注意され、静かになる。

 その輪の中心にいたレインはほっと胸をなで下ろす。

 少し離れた席に座っている弟がこちらを見ているのに気が付く。

 弟はすぐに目を逸らして、前を向く。

 レインは首を傾げる。

 ――あれ? 確か守り手は、リタ・ミラの種を持つ人たちみんなにつくんだよね? お姉さんと、スミルノフ君には守り手はついていないのかな?

 腕組みをして考え込む。

 再び静かになった大聖堂で、校長先生の話が再開する。

 今度はリシェンも大人しくして、朝の祈りが終わるまでじっとしていた。




「スミルノフ君」

 大聖堂から教室に戻る途中、気になったレインは弟に話しかけた。

 弟は元気がなさそうに、ぼんやりとした声で答える。

「何?」

 いつもの覇気は感じられない。レインは少し面食らう。

「ええと、少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 レインは辺りを見回す。小声で話す。

「ぼくに答えられる範囲のことならね」

 弟は気だるげに息を吐き出す。

 レインは昨夜の姉との喧嘩がまだ長引いていることを感じ取る。

「大したことじゃないんだけど、スミルノフ君とお姉さんにも、リシェンのような守り手はいるのかな、と思って」

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