一章七話目
――結局最後は、自分の足が頼りなのか。
レインはネクタイの青い宝石を握り締めながら考える。
その余り役に立たなさそうな宝石を、使う生徒はほとんどいない。
それを使うくらいなら、自分の覚えた法術で何とかした方がよっぽどいいと生徒達が一同に思うからだ。
法術を扱う上級者になれば炎や氷、雷を生み出すことも出来る。
初心者でも最低限、空を飛ぶことや、自分の姿を消すことが出来る。
いわばこの青い宝石は法術の使えない者が使う、護身用のものだった。
朝霧の中からは何の物音も聞こえてこない。
レインは宝石から手を放し、溜息をつく。
――一体僕は、何に怯えているんだろう。
レインも法術を使える神官見習いの一人であるなら、自分の法術でこの場を乗り切ればいい。
炎や氷、雷を生み出すことは出来ないまでも、空を飛ぶことや、自分の姿を消すことならば出来る。
辺りの朝靄を見回したときだった。またどこからか声が聞こえる。
『来い』
どこから聞こえたのか、場所はわからない。
男の声なのか、女の声なのかさえわからない。
まるで自分の頭に直接語りかけてくるようだった。
頭が痛い。まるで頭の奥がしびれるような感覚だった。
レインは頭を振る。
『こちらへ来い』
どうやらその声はレインを呼んでいるらしい。
レインは痛む頭を押さえ、温室の方へと歩いていく。
「温室の中に、誰かいるのか?」
返事など最初から期待せず、レインは誰かに向かって話しかける。
案の定、返事はない。そこで今度は、頭の中で念じてみる。
――温室の中に、誰かいるのか?
すると予想外なことに、すぐに返事が返ってきた。
『そうだ。私はここにいる』
地面に落ちた温室の鍵を見下ろしていたレインは、驚いて一歩後ずさった。
――頭に直接語り掛けてくる法術? テレパシーか?
どうやら自分に語りかけている相手が、かなりの法術の使い手であることは、法術にあまり詳しくないレインにもよくわかった。