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第8話夢心地な時間


 気がつくと、広い公園に居た。

 周囲を見渡すと、どこか見覚えがある。

 毎日、通っている小金井公園だ。そして、今朝、事件があった場所の側だ。


 事故があった林の中に、目を凝らすと、男性がしゃがみこんで何かをしている。


 近づくと、その男が何をしているかが判った。

 左手でネコを地面に押えつけ、右手に持つハサミで、ネコの尻尾を切っているのだ。


 僕は、慌てて駆け寄り、その男の行為を止めようとした。

 しかし、実際の自分がしたことは、その男に駆け寄り......その男を襲い押し倒すと、待っていたナイフで腹を割き、手掴みで内臓を食べ始めた。

 柔らかく、生温かい食感と血臭くささが口の中に広がる。


 内臓を食べていると、突然、銃声が響き、足に激痛が走る。

 傷口を見ると、何も刺さっていないが、大量の出血をしていて、足が上手く動かない。

 どうやら、銃で撃たれたようだ。


 銃声の方を見ると、マンションの屋上に黒服に身を包んだ長髪の女性が立っていた。


◇ ◇


「なんて夢だ」


 飛び起きた近藤信也は思わず呟いた。


 夢は心理状態をあらわすものなので、原因は判っていた。

 昨日、事故現場を見たためだ。


 その影響をもろに受けて、こんな夢を見たのだろう。

 それにしても、こんな夢を見た自分に文句を言いたくなる。

 小野寺さんとラブラブな夢とまでは言わないが、もう少し、まともな夢は見られないものだろうか。

 とは、言っても、どうしようもない。


 世の中には、どんな夢を見るか、自由に選べる人が居るらしいが、大変羨ましいことだ。

 それだけでも、人生が3割くらい幸せになるのではないだろうか。


 2度寝するか?


 そう思ったが、携帯の時間を見るともう朝の6時30分。2度寝している時間はない。

 ベッドから素早く起きると、朝食と弁当を作るべく台所に向かった。


* *


 いつもは、しっかりした妹なのだが、今日は少しおかしい。

 いつもなら、6時には起きて、ジョギングしてくるのに、7時30分になっても、まだ起きて来ない。

 まだ、寝ているのだろうか。

 おそらく夜更かしでもしたのだろう。


 そう言えば、昨日の夜は、妙に、こそこそしていたな。

 何か学校で会ったのだろうか。

 まさか、イジメに会っているとか。


 そんなことを考えていると、里桜は2階から降りてきた。


「おはようございます」と里桜が元気よく挨拶をする。

 いつも通り「おはよう」と姉の真桜は、新聞を読みながら返事をする。


「美桜ねぇちゃんは?」

「お泊りで帰って来てない。今日も帰って来ないそうだ」

「そうなんだ」

 そう言って、席に着くと「いただきま~す」と言って朝食を食べ始めた。


 一見変わらない感じだが、やっぱり、どこか、いつもと違う。

 本来ならば、何か言うべきなのかもしれないが、今、近藤は自身のことで精一杯だった。


* *


「いってきます」

 近藤は、いつも通り家を出た。

「いってらっしゃい」

 まだ家に居る理緒が、元気よく2階から答えた。

 いつもは一緒に家を出るのだが、今日は、「先に行って」と言われてしまった。


「里桜。遅刻するなよ」

「判ってる。大丈夫だよ。いってらっしゃい」


 いつもは、2人乗り(違法)で途中まで、妹を送って行くのだが、今日は珍しく別々だ。

 自転車がいつもよりも軽く、何か不思議な感じがした。


◇ ◇


「準備OKか」

 ロッカーのところで、背後から星野が声をかけてきた。

「正直、できていない」

 最大の問題は、どうやって渡すための2人だけの時間、場所を作るか。


 根回しは同じ部活で、小野寺さんと仲が良い久保にお願いするしかないだろう。


「頑張れよ」と星野に肩を叩かれた。

「もちろん」と答えたが、正直言うと、気持ちの準備すら全然できていなかった。


* *


 占いを信じているかと聞かれたら、信じていないはずだったのだが、やはり影響は受けてしまう。

教室で、彼女を見たとき、何とも不思議な気分になった。


 今までは、教室の座席こそ近かったが、手の届かかない憧れだけの存在だった彼女に縁があり、手が届くかもしれない。

 そう考えると、彼女が今までよりも身近に感じられた。

 そして、それだけでも嬉しかった。

 僕は、彼女が居てくれるだけで幸せ。彼女が自分のことを好きと言ってくれるだけで、幸せだ。


 しかし、彼女の幸せは何なんだろうか?

 自分は彼女を幸せにできるのだろうか?


 現実問題として、彼女と付き合えることなんてまともに考えたこともなかったので、今まで、あまり深く考えたこともなかった。

 彼女との付き合いを考えることは、テレビのアイドルと付き合うことを真剣に考えるようなものだと思っていた。


 改めて考え見ると、自分に何が出来るのだろうか?

 他人より優れた点は、どこだろうか。

 正直、僕より優れた人なんていくらでもいる。

 ルックスも性格も、お金も知性も僕より上回る人間はいくらでも居る。

 僕より彼女を幸せにできる人はいくらでも居る。

 彼女がわざわざ僕を選ぶ理由はない。

 これは前から判っていた。

 彼女の彼氏が、どんな人か知らないが、彼女が選んだ以上、良い人に決まっている。

 そんな相手に勝てるはずない。

 だから、憧れていても、諦めていた。

 でも、占いでは縁があるという。

 まさに、希望だ。

 しかし、希望はしょせん稀な望みだ。

なぜ災厄を入れたパンドラの箱の中に、希望が入っていたのか。

希望を災厄とする説がある。『希望がある為に未来がわからず諦めることを知らない人間は、永遠に希望とともに苦痛を味わわなければならない』という説だ。

まさに、今の自分状態なのだろうか。


 じゃあ、今の自分は不幸なのだろうか。そんなことはない。

 彼女を見るとやっぱり嬉しい。


 結局、グルグルと同じことを考えて、一時間目が終わってしまった。



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