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第4話 終わりで始まり

 停職6カ月の懲戒処分。

 それが痴漢をした山本に対する処分だった。

特に趣味もなく、日々やることもないので、山本は夜な夜な繁華街に出て時間を潰していた。


 その日は日中雨が降ったせいで、肌寒い夜だった。

 山本が歓楽街を歩いていると、突然人通りが消え、男が夜の闇の中から突然現れた。

全身を黒服に身を包んだ黒髪の青年。小太りの自分とは対照的な、スラリとした、長身。

そして、顔には口元だけが笑った白い仮面をしていた。

 この仮面の男に見覚えはなかったが、その男の力には見覚えがあった。

 自分の夢の中に他人を引き込む力。カードの所有者が持つ力だ。



「俺に何の用だ。カードも取られちまったし、俺には何もないぞ」

「何もないことはない。罪はあるだろ」

「罪? 夢の中で、何をやろうと犯罪ではないだろ」

「そうか。夢の中で何をやろうと犯罪ではないか。ならば、私がお前に対して何をやろうと犯罪ではないな」

 そう言って、男がパチンと指を鳴らすると、路地から5人ほど人が現われた。

 暗闇で良く見えなかったが、人ではない。

 鼻や目があるべきところにあるのは、ヤツメウナギの様な吸盤状の口だけ。


「おまえ、ヤツメウナギの食事の仕方って知っているか。魚の腹に吸いついて血液を吸うんだってな。それだけじゃない、ヤスリのような舌で餌食となった魚の組織を溶かして、じわじわ食べるんだそうだ」

 山本は、この男の目論見を理解した。

この怪物を使って、山本をそうやって殺す気だということ。

山本は逃げだしたが、直ぐに別の怪物が現われて囲まれてしまった。 

「俺に何の恨みがあるんだ」

 その山本の問いに男は答えない。

 怪物は、山本を捕まえ押し倒すと、山本の手足に齧りつき血を吸い、さらに舌を使い溶かし始めた。

 だが、恐ろしいことに痛みはほとんどない。じわじわ殺す気だ。

「この世界で殺されても、死ぬとは限らない。ただ、魂を傷つけられ、殺された人間の痛みを味わうが良い」

 そう言うと、男は怪物たちを残し、去って行った。


◇ ◇


 東京都内、○×市内にある某大学の検死室。

 ベッドの上には、繁華街で見つかった中年男の裸の遺体が置かれ、司法解剖が行われていた。


「死因は心筋梗塞ですね」

 検死を行った若い医師は、立ち会っていた多村に報告した。

「2週間ほど前まで入院していたそうですから。再発したんですね」

「この手の変死体は、今月に入って三人目か」と多村は一人呟いた。


 正確に言うと、多村が知っている範囲で、三人目ということだ。実際はもっと、多いのかもしれない。


 このところ、新聞などでは報道されていないが、東京を中心に怪死が相次いでいた。

 死因の大半は、神経原性ショック死や心筋梗塞。

 通勤中、突然倒れてそのまま死亡、自宅の居間や部屋で死後発見されるなど、どれも一見、事件性はない。しかし、ある奇怪な共通点があった。

 死因ではないのだが、生体反応から見て、直前に付けられたミミズ腫れ、水脹れが体に残っているのだ。

 そのため、とりあえず司法解剖されるが、結果、事件性なしと判断されている。

 

「事件性はないのか」

「そうとは、言っていない。他殺ではないと言っただけだ」

「未知の毒による毒殺の可能性は」

「可能性はゼロではないですが...調べようがないですよ」と医師は諦め気味に答えた。

「死体検案書には、どう書くんだ」

「心筋梗塞と書くしかないでしょうね」


 若いのに融通が利かない医師。

 いや、職務に忠実な医師というべきか。


「そうか..」

 この変死は、事故ですらない。病死として処理される。そして、病死である以上は、2日も経てば火葬にされ、灰になる。

 今月、三体目の変死体。おそらくは、三人目の犠牲者なのにだ。

 おそらく、自分が知らないだけで、類似な事件は以前でも起きているのだろう。

 何か、得体の知れない事件が起きていることは明白だった。

 しかし、病死として処理される以上は、警察としては、どうしようもない。

 いや、この場合、融通が利かないのは自分だ。頭を使い考えれば、事件にすることも可能なはずだ。しかし、自分はそうしない理由を探している。

 事件は毎日起き、仕事はいくらでもある。

 病死と診断された変死体に付き合う暇はない。

 多村は、そう自分に言い聞かせて、その場を後にした。



◇ ◇


「昨日、奴が消えたのは、この辺りか?」

 長身で長い黒髪の少女は、大きなスポーツバックを背負い、手にはダウジング用のL字型棒を持ちながら、あたりを見回した。 

 場所は吉祥寺駅と井の頭公園の中間地点の梅○和夫の赤い家がある住宅街。そして…ラブホテル、いや、大人のレジャーホテルの前だ。


「よおぉ、ねぇちゃん。さっきからホテルの側でうろちょろしてさ。相手でも探しているのかい? 相手いないなら、俺が相手してあげるよ」

 中年の酔っ払いだ。焼き鳥で有名な「いせや」の本店や公園店が近いせいか、酔っ払いが多い。


「判ってる。これは、気配を正確に追跡されないように、意図的に撒いてる感じね。」

「出ていった感じはないわ」

「そうね。この付近に『扉』があるのは間違いないと思うわ」

「レポートなんて20分もあれば書けるわ。大丈夫。今日中には見つかるわよ」


「なぁ、ねぇちゃん。1人でぶつぶつ言ってないで、おじさんの相手をしてよ」と酔っ払いがしつこく、酒臭い息を吐きながら声をかけてくる。

「五月蠅い。私は今、忙しいんだ。声をかけるな」

「な~に、言っているの。こんな夜遅くにラブホテルの前に居てさ。生理のイライラ? おじさんと一発、すれば収まるよ」

「...」

 少女は、無言のまま、懐から大型の銃、「S&W M29」を取りだすと、その酔っ払いを撃った。




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