表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

第3話 魔法世界

「一挺じゃ足りないかな」

 女子高生は男たちを見渡し、そう呟くと、左手を懐に入れもう一挺の銃を取り出した。 

 そして、一切のちゅうちょなく、サラリーマンたちに撃ち始めた。


 その光景を見て、山村は、自分がいま本当に日本に居るのか、不思議に思った。

 また、本来ならば、その光景を見て怖いと思うべきなのかもしれない。

 そして、大量虐殺をしたその女子高生に対して、嫌悪感を持つべきなのかもしれない。

 しかし、その女性は美人というよりもカッコ良く、山村には、自分を助ける白馬に乗った王子様のように感じられた。


 僅か10秒後に、プラットフォームに残ったのは、30人のサラリーマンたちの死体となぜか、1人だけ残された20代後半の小太りな男。


「せっかく、魔法を得たのに、やりたいことは痴漢とは惨めな男ね」

「うっ、五月蠅い。お前に何が判るんだ」


 線路に飛び降り、少しでも遠くに逃げようとする男。

 だが、女子高生は追わずに、大きなスポーツバックを降ろすと、中からライフルを取り出した。

 そして、まるで獲物を狩るがごとく狙い。撃った。


 不思議なことに、これだけの騒ぎにも関わらず、誰も騒いでおらず警察も駅員すらも来ない。


 女子高生は、ポケットに手を入れると、一枚のカードを取り出し呟いた。

「ダイヤの8か。こんなもんだな」


◇ ◇


「現行犯逮捕です。証拠もあります」

 山村は近藤信也の声に我に返った。

 今のは夢?

それとも、予知夢やデジャブだったのだろうか。

 デジャブだったら、この後、惨劇が起きることになるのだが。


「痴漢なんかしてませんよ」

「証拠があるって言ったでしょ。まぁ、弁解は駅でやってもらいますよ」


「武蔵境駅」

 車掌のアナウンスが車内に響く。

 電車が武蔵境駅に停まり、客が次々に電車を降りて行く。

 突然、男が暴れ出し、近藤の股間に蹴りを入れる。痛さのあまり、近藤は思わず手を離してしまった。

 その隙に、男は車外へと逃げだした。


 痴漢は現行犯逮捕が原則だ。ここで逃げだされたら、逮捕出来ない。

 近藤は犯人を追いかけるが、痛みと人込みのため上手く追いかけられない。

「大丈夫よ」

 すれ違いざまに、女子高生が呟いた。

 なぜ、大丈夫なのだろうか。そう思っていると、走っていた犯人が突然プラットフォームに倒れ込んだ。

 男は駅員さんに突きだされることはなかったが、救急車が呼ばれ、そのまま病院へと運ばれた


◇ ◇


 多少のトラブルはあったが、無事犯人を捕まえることが出来た。

 しかし、その後、待っていたのは、警察と学校の先生によるお叱りと僅かな褒め言葉。

 その時、知ったことだが、犯人が倒れた理由は急性の心筋梗塞だそうだ。

 捕まったことのストレスと逃げだそうと急に走ったことが、心筋梗塞を引き起こした原因。

 命には別状ないそうだが、危うく人殺しになるところだった。


 何はともあれ、鈴木さんは、めでたく学校復帰となった。

 噂によると、痴漢が逮捕されたニュースが効いたのか、痴漢被害自体も減っているらしい。

 良いことだと思う。


 痴漢の犯人は、小学校の先生だそうだ。犯行の動機はストレスの発散。

 学級崩壊やらモンスターペアレントやらで、大変なのは判るが、だからと言って痴漢をやって良いわけではない。

 正直、今の時代、学校の先生が痴漢をしていたとしても、大して驚かない。悲しい時代になったもんだ。


◇ ◇


 山本幸助の夢は、可愛い生徒たちに囲まれた教師生活だった。

 しかし、現実は学級崩壊とバカ親、モンスターペアレンツへの対応。誰も自分の言うことを聞かないし、尊敬もしない。

 五月蠅いガキに、少しでも手を上げれば、体罰だと文句を言う。

 そして、自分の言いたいことを言うだけだ。誰もこっちの都合なんて考えない。わがままな奴らばかりだ。

 そんな奴らのせいで、ストレスで体調を崩し休職。精神科に通う日々だった。


(生徒の自主性。そんなものは必要ない。

 ガキなんか、大人の言うとおりに動く人形で良いんだ)


 悟りというやつだろうか。そう気がついた時から世界は変わった。


 実際、奴らのガキを動く人形にしてやっても、誰も文句を言わない。

 それどころが、行儀が良くなったと感謝された。

 くだらない。結局奴らが欲しいのは、人間じゃない、人形じゃないか。


 ガキどもを人形にした後は、バカな大人どもを人形にしてやった。

 奴らはガキどもよりも強欲だ。欲望の糸でいとも簡単に操れる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ