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第11話 契約

 近藤の家は、東京なのに公共交通の便が悪いため、駅から家までタクシーで行くことにした。

 タクシーを降りて、家の中に入るが、犬も居ないし、誰も居ない。

 どうやら、里桜が先に帰って来ていて、散歩に出かけたようだ。


 佐々木さんに話をすると、散歩している姿を見たいとのこと。

 散歩の場所までは、少し遠いので、散歩コースを自転車の2人乗りでたどることにした。


「重くないですか」

 不思議なことに、女性は2人乗りをするとき、体重のことをものすごく気にする。

 そんなに重くみられることが怖いのだろうか。

「そんなことないですよ。小学生の妹をいつも乗せているんですけど、同じくらいです」

「妹さん。背が大きいんですか」

「えぇ、小6なんですが、168センチもありますよ」

「大きいですね」


 こんな感じで、道中は意外と会話が弾んだ。

 道中、犬を飼う理由について聞くと、10年程ハスキー犬を飼っていて、1か月ほど前に死んでしまったとのこと。

 それなら、今時、ハスキー犬を望む理由や、急いで会いたい理由に納得がいく。


 それに、ハスキー犬経験者なら、途中で挫折することもないだろう。

 この人なら、里桜も安心して、タマを預けられそうな気がした。


* *


 里桜とタマは、散歩途中の公園で、フリスビーをしていた。

 里桜が投げると、タマはフリスビーを追いかけ、ジャンプしてキャッチする。

 なかなかの芸当だ。

 投げての里桜が上手いのではなく、タマが上手なのだ。

 里桜が投げるフライングディスクは、右に行き過ぎたり高すぎたりで安定しないが、タマが一生懸命走り、ジャンプすることにより、それなりの様になっている。

 それにしても、いつの間にこんなにできることになっただろうか。 

 里桜が仕込んだというよりも、もともと、前の飼い主に仕込まれたものなのだろうけど、2人の絆を見せつけられるようで辛い。


「すっかり妹さんに懐いているようですね」

「そうですね。その…妹も犬になついていまして…迷惑じゃなければ…で良いんで、週に何回か、会わせてもらえせんか」

「...」

「1回でも良いんです。散歩もします」

「そうじゃなくて。あの犬は後ろ足に怪我をしていませんでしたか」

 犬を長年飼っているとそんなことも判るのだろうか。

 ここは正直に話すことにした。


「えぇ。一週間前に妹が拾った時は、左足に怪我をしていました。でも、今は治ってあの通りです。獣医さんも言ってましたけど、問題ありませんよ」

「そうみたいですね。フリスビーも元気にしていますし」


 近藤と佐々木は、遠くからその様子をしばらくの間見守ることにした。


* *


 タマは変わりなく元気に走っていたが、しばらくすると里桜が疲れたため、草の上にしゃがみこんだ。

 妹に近づきながら、声をかける。

「お兄ちゃん」と里桜も気づき、近藤たちに手を振る。

 犬も気がついて吠える。

 が、その吠え方は途中から尋常のものではなくなった。

 明らかな敵意を持った警戒した吠え方だ。


 自分に対しては、そんな風に吠えたことがないから明らかに、佐々木さんに対してのものだ。

 どうやら、タマは佐々木さんを気に入らなかったようだ。

 これでは、貰ってもらうのは難しいかもしれない。

 佐々木さんが、気分を害さなければいいけど。


 突然、佐々木と、どこであったか思い出した。

 一ヵ月以上前、痴漢を捕まえた時に、会ったような気がする。


「佐々木さん」

 近藤が佐々木さんに近づくと、佐々木は右手で胸元から何かを出そうとしていた。

 その動作は、どこかで見たことがあった。

 良く映画で見る銃を抜くシーンだ。


 それだけではない。

佐々木さんは、駅で銃を撃っていた女性にどこが似ている。

 駅で銃を撃っていた女性?

 痴漢を使えまえ時、銃撃戦などあるはずがない。


 まさか、ありえない。冗談だろと思ったが、頭より先に体が、とっさに動いた。

 意外なことに、佐々木さんに詰め寄り、押える方に体が動いた。


 佐々木さんが胸元から取りだしたのは、銃だった。そして、妹たちの方へ構えた。

 

(撃たせない!)

 近藤は、佐々木の腕を両手で掴み、銃口を空に向けた。

「何ですか、これは」

 人生の中で一度も上げたことがないような怒声を張り上げた。


「邪魔するな」

 佐々木さんも声を荒げる。先程までの温和な佐々木さんとはまるで違う。


 そして、佐々木を掴む近藤の両手に痛みが走る。

 最初は、なぜか判らなかったが、佐々木の腕から茨の蔓が浮き出てきていた。そして、その棘が両手に刺さり、思わず手を離してしまう。


「後ろを見ろ」

 振り向くとそこいたのは、青白い炎が全身を包み翼が生えた巨大な魔犬。

 タマが変身したのではない。

魔犬の足元にはタマがいた。

 タマの足元では、赤い光を放っていた魔法陣があった。タマが魔犬を召喚したのだろうか。

 

 明らかな異常な事態。

 事件事故に巻き込まれた何て言うレベルではない。

 超自然現象。超能力とか魔法の世界だ。


 タマの側にいた里桜は驚愕し、腰を抜かして一歩も動けないでいた。


 佐々木は、再び銃を構え、タマを狙って撃った。

 魔犬は避けることなく、翼でタマを覆い、銃弾をはじく。

佐々木が続けざまに撃っても結果は同じだった。


「里桜様。私から離れてください。巻き添えを受けてしまいます」

 魔犬が里桜に対して穏やかな声で話しかけた。

 その言葉を聞き、里桜は急いで立ち上がるとその場から離れた。

 里桜が離れると、魔犬は翼を広げ、全身を覆う炎の勢いが増す。


「降伏しろ、女。そんな玩具では、私を傷つけることすら出来ないぞ」

「そうか。勝負は、やってみないと判らないだろ」


 わずかな会話な時間だったが、佐々木が細工をするのには十分だった。

 地面から茨の蔓が伸び、魔犬の足に絡む。

「無駄だ」

 魔犬を包む青白い炎が、瞬く間に茨の蔓を焼き尽くした。

 佐々木は、その一瞬のすきを見逃さなかった。

 銃を捨てると、背中のスポーツバックを脇に抱え、蔓をしっかりと絡ませ、カバンから大型の対物ライフルを取り出すことなしに、そのまま撃った。


 反動で、後ろに倒れ込む佐々木。

 さらに、しゃがみこんだ状態で、もう一撃。


 銃身こそがついていないが、近距離なので関係ない。

 威力は十分だった。

 一発目の弾丸は、魔犬の翼を捉えると、翼の盾を吹き飛ばした。そして、二発目の弾丸が、魔犬の血肉をえぐった。

 だが、魔犬にはとって、それほど大きなダメージとはなっていなかった。


 パン 

 乾いた銃声が響き。

 タマが倒れ込んだ。


 佐々木が放り投げた銃には、地面から生えた茨の蔓が絡みついていた。

佐々木は茨の蔓を操り、タマを撃ったのだ。


 タマは瀕死の状態で倒れこんだ。


 そして、魔犬も、タマと同様に胴体から血を流し倒れこんだ。

 どうやら、召喚者のタマがダメージを受けると、同様にダメージを受けるようだ。


「立場が逆転だな。マルコシアス。降伏しろ。そして、大人しく私に従え」

「判った。もう抵抗しない。お前の勝ちだ」

 そう言うと、マルコシアスの体から炎が消えた。


「タマちゃん」

 戦いが終わると、里桜はタマに駆け寄り、血だらけのその体を抱きかかえた。


「女。頼みがある。我が主だけは助けてくれ」

「生憎、私には治癒の能力はないから無理だ。助ける方法はない」


「そんなことはないだろ。あおい。嘘はいかんな」

 上空から声がする。

 上空を見ると、王冠を頭上に載せた一羽のフクロウが旋回していた。

「手伝いもせずに、そんなところにいたのか。ストラス。ズルイ奴だ」

「嘘付きのお前に言われたくはないな。杖を持つお前さんなら助ける方法はあるだろ」

「フクロウさん。教えてください」

 里桜が懇願する。

「私は、人を傷つけたこいつを助ける気はない」

「頼むよ、佐々木さん。できるなら、タマを助けてやってくれ。第一、魔犬に襲われた人間は、動物を虐待するような奴らだったんだろ」

 近藤が、佐々木に懇願がする。妹の里桜の方を見ると、言葉に出さず涙目で訴えて来る。

 清水は自分が女の子を虐めているようで、複雑な気持ちになった。

「佐々木は偽名だ。本当の名は清水だ」

「清水さん。頼みます」

 清水は腕を組みながら、近藤とタマを交互に見る。

「そうだな。そこまで言うのであれば、お前が責任を取れ」

「どうすれば良いんだ」

「お前が契約して、新しいマルコシアスの主になれ。そうすれば、現実世界でのダメージはいくらか減少して、助かるかもしれない」

「ありがとう。清水さん。あんた、やっぱり良い人だな」

 その言葉を聞き、一瞬、清水の顔が赤らめた。そして、直ぐにそれを誤魔化すように咳払いをした。

「最後まで人の話を聞け。ただし、条件がある…私と共に戦え」

「え!?」

「人と襲う魔物は1体だけではない。それに、お前も経験したように魔法の力を悪用する人間もいる。そいつらと戦う覚悟があるのなら、力を貸す。ないなら、駄目だ。取引だ」

「判った」

 近藤はすぐさま返事をした。

「ずいぶん早いが、本当に良いのか。代償もあるんだぞ」

「覚悟は出来てる」

 

 近藤信也は、マルコシアスの新しい契約者となった。


* *


「お兄ちゃん。フリスビー見た。凄いでしょ」

 まるで何もなかったごとく、声をかけて来る里桜。

 事実、里桜には何も起きなかったのだ。

 全ては、異界での出来事らしい。

「ねぇ。隣のおねぇちゃんが、もしかして…ラブレターの相手」

「ラブレター?」

 清水さんが怪訝な顔をする。

「違うよ、里桜。タマの新しい飼い主だよ」

 新しい飼い主という言葉を聞いて、一瞬、里桜の表情が険しくなる。

 しかし、露骨に嫌な表情をするのは相手に対して失礼だということを里桜は知っているので、すぐに愛想の良い表情を作る。

「大丈夫だよ、里桜。週に何回か会って、散歩を手伝ってほしいってさ」

「本当ですか。ありがとうございます」と深々と頭を下げる。

 今の里桜の顔にあるのは、偽りのない本当の笑顔だった。



とりあえず、ひと段落。ようやく主人公が契約者になりました。リメイクしてみたのですが...ストーリーが90%違います。

前作(http://ncode.syosetu.com/n9711n/)の出だしが、混乱の極みでしたので、幾分かは良くなったと思うのですが、どうなんでしょうか。第1話が痴漢ネタになってしまったのは...まずかったかな。

思いこみが入るため、作者には、判らないんですよね。その辺が。

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