↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/54

第14話 ドルガ防衛

イラスト

https://52564.mitemin.net/i1279766/

警鐘が鳴り続けていた。


東街道の先で、ガルベルト率いる騎馬隊が止まる。


ハインツは城壁の上から身を乗り出した。


「本隊じゃない。六十……七十もいない」


エイルが隣から街道を見る。


「それでもガルベルト本人がいます」


「あいつ一人で十分厄介なんだよ」


城壁の下では兵士たちが走り回っていた。


「東門前を空けろ!」


「住民は中央通りへ!」


「西門からの避難は止めるな!」


ルシエラたちも階段を下りる。


門の内側には、まだ荷車や物資が残っている。


ロディオが脇道を指した。


「荷車はこっち! 一台ずつ!」


クラウスは足を引きずる老人に肩を貸す。


メルディアが東門を振り返った。


「動いた」


外で、一人の魔族が前へ出ていた。


「ドルガ守備隊へ告げる!」


声が城壁を越えて響く。


「門を開き、武器を捨てろ! 抵抗しない者には手を出さない!」


少しして、城壁の上から返事が飛んだ。


「断る!」


ロディオが顔を上げた。


「早いな」


「話し合う気ないですね」


ルシエラが言う。


「まあ、そうなるだろ」


エイルが答えた。


外では、ガルベルトが馬から降りていた。


右手を上げる。


後ろの魔族たちが、一斉に距離を取った。


ハインツの怒鳴り声が城壁から響いた。


「門から離れろ!」


エイルが振り返る。


「来るんですか!」


「《ブラストフレア》だ!」


兵士たちの動きが変わった。


門の補強をしていた者たちまで走り出す。


だが、まだ何人か残っている。


担架を運ぶ兵士。


荷物を抱えた住民。


転んだ子供を起こそうとしている女。


ルシエラが杖を握った。


「早く!」


淡い光が広がる。


「《光と闇の祝福》!」


エイルの身体が軽くなる。


「えっ」


一歩踏み出しただけで、思った以上に前へ出た。


ロディオも目を見開く。


「ちょ、強くない?」


「今はいいから!」


メルディアが叫んだ。


エイルは走った。


「こっちです!」


担架を一人で持ち上げかけて、慌ててもう一人の兵士に合わせる。


ルシエラは門の向こうを見る。


炎が集まっていた。


赤い光が、どんどん大きくなる。


「みんな、こっちへ!」


ガルベルトは掌の前に集まる炎を見た。


いつもより魔力の流れがいい。


炎の収束も早い。


「……今日は調子がいいな」


副官が横から見る。


「ハルツでの疲れも抜けたのでしょう」


「そうかもな」


ガルベルトは城門へ腕を伸ばした。


狙う。


「《ブラストフレア》」


火球が飛んだ。


「伏せろ!」


ハインツの声。


ルシエラが杖を振り上げる。


「《絶対防御領域》!」


白い光が広がった。


火球が城門へ届く。


次の瞬間。


ドルガの東側が爆炎に呑まれた。


轟音。


城門が吹き飛ぶ。


門楼が崩れる。


左右の城壁がまとめて砕け、巨大な石材が空へ舞い上がった。


爆発はそこで止まらない。


門の内側に並んでいた建物が巻き込まれる。


屋根が飛ぶ。


壁が崩れる。


さらに奥まで衝撃が抜け、通り沿いの窓が次々と割れた。


地面そのものが揺れる。


やがて煙が広がり、音が遠ざかっていく。


エイルが顔を上げた。


「……」


ロディオも起き上がる。


「……」


目の前に、夕焼けが見える。


エイルが呟いた。


「門、どこ?」


「ない」


少し離れた瓦礫の向こうから、ハインツが顔を出した。


「……は?」


◇


ガルベルトも同じ顔をしていた。


「……は?」


煙が流れていく。


城門がない。


門楼がない。


左右の城壁も、大きく抉れている。


その奥にあった建物まで何棟か姿を消していた。


ガルベルトは右手を見る。


握る。


開く。


もう一度ドルガを見る。


「……」


副官が恐る恐る口を開いた。


「さ、さすがガルベルト様……」


「褒めるな」


「はい?」


「今は褒めるな」


「は、はい」


後ろでは兵士たちがざわついている。


「何だ今の……」


「ハルツより凄くなかったか?」


「城壁まで……」


ガルベルトが振り返る。


「聞こえているぞ」


静かになった。


また前を見る。


遠くで、崩れかけていた壁が倒れた。


ドォン。


ガルベルトの眉が動く。


「……俺、そんなに込めたか?」


副官が答えに困る。


「私には何とも……」


「そうだな」


しばらく黙る。


ガルベルトは東門があった辺りをじっと見た。


「門の裏に、何か置いてあったんじゃないか?」


副官も見る。


「何か、とは」


「火薬とか」


「人間が城門の裏に火薬を?」


「魔道具でもいい」


「確認できません」


ガルベルトは頷いた。


「つまり可能性はあるな」


副官が少し黙った。


「……可能性は、あるかもしれません」


「あるな」


「はい」


「ならそれだ」


副官がガルベルトを見る。


ガルベルトはもう一度、大きく抉れた城壁を見た。


「そうだ。誘爆したんだ」


「……はい」


「《ブラストフレア》だけで、あんなことになるわけがない」


「そうですね」


「だろ?」


「はい」


ガルベルトの顔に少し落ち着きが戻った。


後ろから兵士が声を上げる。


「ガルベルト様! 城門を突破しました!」


「今なら突入できます!」


ガルベルトが振り返る。


「待て」


兵士たちが止まる。


ガルベルトはもう一度ドルガを見る。


瓦礫。


煙。


燃えている建物。


「原因不明の誘爆が起きた場所だぞ」


副官が瞬きをした。


「原因不明……」


「まだ調べていないからな」


「はい」


「何が爆発したのか分からん」


「はい」


「そんな場所に、六十人で入るのは危険だ」


副官が少し考える。


「……確かに」


ガルベルトが力強く頷いた。


「だろ?」


「はい」


「よし。一度退く」


後ろの兵士が聞き返した。


「撤退ですか?」


「本隊と合流する」


ガルベルトは馬へ向かう。


「予定通り明日来ればいい。原因も分からん場所に、先行隊だけで突っ込む必要はない」


副官が頷いた。


「了解しました」


ガルベルトが鐙に足をかける。


そこで止まった。


もう一度だけドルガを見る。


占領する予定だった町。


城門はない。


城壁もかなりない。


建物も燃えている。


グラディオの顔が浮かんだ。


『ドルガを確保しろ』


ガルベルトは目を逸らした。


「……」


副官が聞く。


「どうされました?」


「いや」


「では撤退命令を」


「待て」


「はい?」


ガルベルトは小さな声で言った。


「魔王様に、どう報告する」


副官が黙った。


ガルベルトも黙った。


少しして副官が答える。


「ドルガ東門を破壊した、と」


「その後が問題だろ」


「……城壁も破壊」


「俺が壊したみたいじゃないか」


副官は何も言わなかった。


ガルベルトが見る。


「何だ」


「いえ」


「誘爆だろ」


「はい」


「なら報告も正確にしないとな」


「はい」


ガルベルトは考えた。


やがて頷く。


「『攻城魔法着弾後、城門付近で大規模な爆発が発生』」


副官が聞く。


「原因は?」


「不明」


「不明」


「まだ調査してないからな」


「はい」


「勝手に俺の魔法が原因だと決めつける方が問題だ」


「……はい」


ガルベルトは馬に乗った。


顔つきが戻っている。


「よし」


「よし、とは?」


「撤退だ」


副官は振り返った。


「全隊、撤退!」


魔王軍が東へ動き始めた。


◇


「……帰っていきますね」


ルシエラが言った。


ロディオが遠ざかる魔王軍を見る。


「帰ってるな」


エイルも見る。


「何で?」


ハインツが答えた。


「知らん」


城壁の残った部分から声が上がる。


「魔王軍が退くぞ!」


町の中から歓声が返った。


「退いた!」


「ガルベルトが退いたぞ!」


ルシエラが胸を撫で下ろす。


「よかった……」


ロディオは東門があった場所を見る。


「……勝った?」


メルディアも見る。


「敵はいなくなった」


「じゃあ勝ち?」


ハインツは崩れた城壁を見た。


燃えている建物を見た。


最後に、遠ざかっていくガルベルトを見る。


「……勝ちでいい」


誰も反対しなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。