第2話
――放課後。つばさは上総と別れ、ひとり図書館に向かった。
この学園には図書館がある。一般的に使用されているのは図書室の方であったが、古い蔵書が数多くあり、教室棟から遠く利用者が少ない図書館がつばさのお気に入りであった。
いつものようにつばさは図書館の扉の横にあるセンサーに学生証をかざし、扉を開けた。つばさが借りた本の返却手続きをしていると、扉の開く音がしたので扉の方を見た。
「よぉ。早ぇな。」
入ってきたのは、金髪でシャツのボタンを3つ開け、ピアスやネックレスなどのアクセサリーをじゃらじゃらとつけたいかにも不良といった風貌の男だった。金髪は襟足が少し長く前髪はアシンメトリーになっていて、染めているがさらさらと痛みがなく、長身でほどよく筋肉がついていると思われた。顔も整っていて、いわゆる美形である。
「・・・こんにちは。」
現れた男に驚くこともなく、表情を和らげてあいさつを返す。男も少し微笑みながら返事をした。
「おう。」
「今日は昼寝してなかったんですね。」
いつも寝てるわけじゃねぇと言いながら、つばさのそばまで歩いて行く。
「まぁ、たまにはな。んで、今日は何?」
「あ、ちょっと待って下さい。」
つばさは男の言葉で思い出したようにかばんに近づき、その横に置いていた袋から小さな箱を取り出した。男の前まで行くと蓋を開けた。
「はい。今日はベリータルトです。」
「やった!食っていい?」
「もちろんです。」
満面の笑みでケーキの箱を受け取り食べ始めたのは、入学してすぐにこの図書館で出会った先輩である。
初めてこの図書館に訪れた日、窓際で寝ている人に気づかず、本を探して立ったまま読んでいるとあくびが聞こえ、やっとつばさは人がいることに気づき視線をやった。校章バッチの色から3年生であることがわかったが、特に興味もなかったのでそのまま視線を本に戻した。
その姿に男は一瞬目を見開いたが、ベンチから起き上がり、じっとつばさを見て声をかけた。
「おい。お前名前は?」
「・・・・・。」
「おい、人が聞いてんだから返事しろよ。」
返事をしないつばさにイラっとしたのか、声が低くなったが、つばさは気にしなかった。しかし、じっと睨んでくるので、ため息をついて声を発した。
「・・・私の名前を知る必要が?」
「は?」
想像と違った言葉に男はわけがわからないという表情だったが、気にせずつばさは話を続けた。
「私はたまたま本を借りに来ただけです。たしかにあなたの眠りを妨げてしまったのかもしれませんが、名前を教えなければいけない理由はありませんし、まず、初対面で先に名前を教えろというのはどうかと思います。」
冷たい表情で興味なさげに男を見ながらいうつばさに驚いた顔をしていが、すぐに表情を崩し、声をあげて笑いだした。
「はっ、ははっ!おもしろいな、お前。」
「・・・はぁ。」
「お前の言う通りだ、悪かったな。俺は3年の鷹だ。ここへは毎日のように来てる。なんたってここには人が来ないからな。」
「はぁ。」
つばさはまた興味がないと適当に相槌を打つ。
「んで、お前の名前は?見たとこ1年みたいだけど。」
ベンチから立ち上がり、つばさのそばまで来ると顔をのぞき込み、まじまじと観察しながら言った。そんな鷹から一歩後ずさり、面倒くさそうな表情をしながらも顔を上げ、鷹を見て言った。
「・・・海堂つばさです。」
「つばさか。俺のことは鷹って呼んでくれ。よろしくな。」
最初に見た時の不機嫌な顔から一変して、柔らかく笑う鷹につられて、つばさは少しだけ微笑んだ。
「先輩、変ってますね。」
「そうか?つばさの方が変わってると思うぞ。あんなこと言われたのは初めてだ。」
見た目と違って悪い人ではないと判断したつばさは、少し考えた後、改めて鷹を見て言った。
「よろしくお願いします、鷹先輩。」
これがつばさと鷹の出会いである。




