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第1話

桜の花が散って、少しずつ学校に慣れてきた5月半ば。

雲1つない快晴の空の下、中庭の木に寄りかかりながら弁当を食べ進めていた。

「つばさ、ご飯こぼれてる。」

「へ?あ、ほんとだ。」

スカートの上に落ちたご飯粒を拾いながら返事したのは海堂つばさ。

そしてここは全寮制で中高一貫の学園『月城学園』の高等部第3庭園。山奥の広大な敷地に建てられた学園は、校舎はもちろんのこと生徒が利用する学生寮までホテル並みという金持ちの集まる学園である。

海堂つばさは、そんな学園に今年の春外部入学を果たした高等部の1年生である。

外部入学の枠は2人と狭き門であったが、もともと別の中高一貫の進学校に在学し、常に成績トップであったつばさにとっては大きな問題ではなかった。

そして、今つばさに声を掛けたのはつばさの数少ない友達のひとり、北條 上総。つばさと同じ1年S組で、軽くウェーブのかかった茶髪のロングヘアーに、くりくりの大きな瞳をした体型もモデル並みの美少女である。

つばさは、黒髪ストレートのロングヘアーに黒縁の眼鏡をかけた平凡な少女であるため、上総といるとよく周囲の視線を集めていた。

「ねぇ、つばさ。」

「ん?」

「もう授業始まる。」

 つばさがぼーっとしながら持っていた携帯を見ると、あと5分で本鈴が鳴る時間であった。ここから1年生の教室までは走ればぎりぎり5分という距離。しかし、つばさはそのまま残りのおかずを食べ続けながら言った。

「天気いいし、ご飯食べ終わってないからここにいる。」

 その場にうなだれる上総。そんな上総を不思議そうに覗き込むつばさ。

「上総ちゃん。どうしたの?」

「どうしたのって・・・理由それだけ?」

「うん。だって走ると暑いし、次の授業自習だし。」

「え?そうなの?」

「上総ちゃん・・・けっこう抜けてるよね。」

「うるさい!」

つばさがカラカラと笑うと、上総は頬を赤く染めてふてくされていた。

普段からのんびり屋なつばさを心配して世話を焼いてくれるところと、時々こうやって天然なところが上総のいいところだとつばさはぼんやり考えていた。

「まぁ、今はいいとして放課後はどうするの?私、生徒会があるのだけど。」

「んー、じゃあ先に寮に戻ってようかな。」

「そう?じゃあ、寄り道にしないでまっすぐ帰るのよ?」

「はーい。」

 上総の言葉につばさは読みかけの本を開きながら適当に返事をし、本を読み始めた。そんなつばさを呆れながら上総は深いため息をついた。






2人の出会いは入寮日。同室となった2人だったが、上総がとてもつばさを気に入ったらしく、教室も一緒であったため、いつも上総はつばさのそばにいた。他にも友達はできたが、昼食は2人で中庭でとるようになっていた。それも、上総目当ての男女が多く、静かに過ごすため人気の少ない場所を選んだからである。お弁当はつばさの手作りで、上総の分も作っている。そうやって過ごすことはつばさも気に入っていた。



生徒会の資料に目を通している上総をちらりと見たつばさは、本を開いたまま、放課後の事を考えていた。




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