第八話 カフェ店員の証言
第八話です。
――音声記録・文字起こし⑧
質問:彼とはどのような関係でしたか。
「常連さんでした。
毎日ではないですけど、
週に三、四回くらい」
「夕方から夜にかけてが多くて、
窓際の席に座ることがほとんどでした。
……外の通りが少し見える席で、
長居する人がよく選ぶ場所です」
「最初は、
仕事帰りの人かなって思ってました。
カバンの置き方とか、
コーヒーを飲むスピードとか、
……なんとなくそういう雰囲気があって」
質問:どんな様子でしたか。
「落ち着かない感じでした」
「スマホを何度も見て、
時間を確認して、
……コーヒーが冷めても
ほとんど口をつけない日もあって」
「私、
新人の頃は声をかけるタイミングが下手で、
一回“おかわりいかがですか?”って聞いたら、
少しだけ驚いた顔をされて」
「……ああ、
あのときは
申し訳なかったなって思ってます」
質問:変化はありましたか。
「ありました」
(長い間)
「ある日を境に、
急に静かになったんです」
「いや、
前から静かな人なんですけど、
……うまく言えないな」
「迷ってる人と、
決めた人の違い、
っていうんですかね」
「同じ席に座ってるのに、
別の人みたいに見えて」
質問:誰かと一緒に来たことは。
「一度だけあります」
「店内には入らず、
入口の近くで少し話していました」
「フードを深く被っていて、
顔ははっきり見えませんでしたけど、
声の高さからすると
女性だったと思います」
「そのあと、
彼、
ずっと自分の手を見てたんです」
質問:手を。
「震えてるとかじゃなくて、
……確認してるみたいに」
「指先を見て、
何度も握り直して」
「注文したコーヒー、
その日は珍しく一口も飲まなかった」
質問:持ち物に変化は。
「最初はノートを広げてました。
小さなメモ帳みたいなものです」
「でも、
途中からそれを持ってこなくなって、
代わりに封筒だけ持っていました」
「中身は見ていません。
ただ、
ずっと机の上に置いたままで」
質問:安心しているように見えましたか。
「安心……」
(短い沈黙)
「嬉しそうではありませんでした。
でも、
焦ってる感じもなかった」
「……終わることを
受け入れた人の静けさ、
っていうんでしょうか」
質問:印象的だった出来事は。
「一回だけ、
急に立ち上がったことがあります」
「スマホを見て、
少しだけ笑って、
そのまま店を出ていきました」
「……楽しそうっていうより、
やっと終わる、
って顔でした」
質問:あなたは彼をどう思いますか。
「悪い人には見えませんでした」
「ただ、
……同じ人なのに、
日によって
別人みたいだったんです」
「どっちが本当だったのか、
今でもわからない」
質問:ありがとうございました。
――音声記録⑧終了
続きは、Kindle版にて
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