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『十人目の証言』  作者: くろめがね


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7/8

第七話 警官の証言

第七話です。

――音声記録・文字起こし⑦


 質問:事件当時、どのような立場でしたか。


「現場対応班の一員でした。

 通報を受けて、

 最初に現地へ向かったメンバーの一人です」


「川沿いの公園は、

 夜になると人通りが少なくて、

 照明も十分とは言えません。

 転倒や軽い事故の通報は、

 これまでも何度かありました」


「……だから、

 最初の無線を聞いたときは、

 正直、

 よくある案件だと思っていました」


 質問:通報内容は。


「男性が倒れている、というものです。

 争いの可能性あり、

 という補足がついていましたが、

 詳しい状況までは不明でした」


 質問:現場の様子は。


「静かでした」


(短い沈黙)


「水の音だけが聞こえて、

 ……騒ぎがあった直後とは

 思えないくらいに」


「被害者は水際近くに倒れていて、

 足場の悪い場所でした」


「夜露の影響で地面が滑りやすく、

 靴底の泥も確認されています」


 質問:彼はその場にいましたか。


「ええ。

 少し離れた場所に立っていました」


「こちらが声をかけても、

 すぐには反応しませんでしたが、

 逃げようとはしなかった」


「……その場に留まっている、

 という印象でした」


 質問:取り乱していましたか。


「いいえ」


「現場にいた人間の中で、

 一番落ち着いていたのは

 彼だったと思います」


「泣くわけでもなく、

 怒るわけでもなく」


「……ただ、

 状況を見ていました」


 質問:争った形跡は。


「明確な暴行の痕跡は確認されていません。

 ただ、

 滑ったような跡はありました」


「事故の可能性も、

 否定はできない状態です」


 質問:供述内容は。


「“話し合いだった”

 それ以上は多く語りませんでした」


「押した覚えはない、

 気づいたら落ちていた、

 ……そう繰り返していました」


 質問:女性の関与については。


「現場にはいませんでした。

 ただ、

 関係者として名前は挙がっています」


 質問:あなた個人の印象は。


「印象は公式記録には残りません」


(少し間)


「ですが……」


「現場で長く仕事をしていると、

 人の“受け入れ方”が

 なんとなくわかることがあります」


「泣く人、

 怒る人、

 何も言えなくなる人」


「彼は、

 ……もう結果を知っている人のように

 静かでした」


 質問:具体的には。


「取り調べの最中、

 一度だけ

 “終わった”

 という言葉を口にしています」


 質問:どのような意味で。


「本人は説明しませんでした。

 こちらも、

 それ以上は追及していません」


 質問:安心しているように見えましたか。


「安心、というより」


(少し考える間)


「……覚悟、

 に近かったかもしれません」


 質問:あなたは彼をどう思いますか。


「判断は職務外です」


「ただ、

 逃げなかったという事実は、

 記録として残っています」


「それ以上は、

 ……言えません」


 質問:ありがとうございました。


――音声記録⑦終了


誤字脱字はお許しください。

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