第七話 警官の証言
第七話です。
――音声記録・文字起こし⑦
質問:事件当時、どのような立場でしたか。
「現場対応班の一員でした。
通報を受けて、
最初に現地へ向かったメンバーの一人です」
「川沿いの公園は、
夜になると人通りが少なくて、
照明も十分とは言えません。
転倒や軽い事故の通報は、
これまでも何度かありました」
「……だから、
最初の無線を聞いたときは、
正直、
よくある案件だと思っていました」
質問:通報内容は。
「男性が倒れている、というものです。
争いの可能性あり、
という補足がついていましたが、
詳しい状況までは不明でした」
質問:現場の様子は。
「静かでした」
(短い沈黙)
「水の音だけが聞こえて、
……騒ぎがあった直後とは
思えないくらいに」
「被害者は水際近くに倒れていて、
足場の悪い場所でした」
「夜露の影響で地面が滑りやすく、
靴底の泥も確認されています」
質問:彼はその場にいましたか。
「ええ。
少し離れた場所に立っていました」
「こちらが声をかけても、
すぐには反応しませんでしたが、
逃げようとはしなかった」
「……その場に留まっている、
という印象でした」
質問:取り乱していましたか。
「いいえ」
「現場にいた人間の中で、
一番落ち着いていたのは
彼だったと思います」
「泣くわけでもなく、
怒るわけでもなく」
「……ただ、
状況を見ていました」
質問:争った形跡は。
「明確な暴行の痕跡は確認されていません。
ただ、
滑ったような跡はありました」
「事故の可能性も、
否定はできない状態です」
質問:供述内容は。
「“話し合いだった”
それ以上は多く語りませんでした」
「押した覚えはない、
気づいたら落ちていた、
……そう繰り返していました」
質問:女性の関与については。
「現場にはいませんでした。
ただ、
関係者として名前は挙がっています」
質問:あなた個人の印象は。
「印象は公式記録には残りません」
(少し間)
「ですが……」
「現場で長く仕事をしていると、
人の“受け入れ方”が
なんとなくわかることがあります」
「泣く人、
怒る人、
何も言えなくなる人」
「彼は、
……もう結果を知っている人のように
静かでした」
質問:具体的には。
「取り調べの最中、
一度だけ
“終わった”
という言葉を口にしています」
質問:どのような意味で。
「本人は説明しませんでした。
こちらも、
それ以上は追及していません」
質問:安心しているように見えましたか。
「安心、というより」
(少し考える間)
「……覚悟、
に近かったかもしれません」
質問:あなたは彼をどう思いますか。
「判断は職務外です」
「ただ、
逃げなかったという事実は、
記録として残っています」
「それ以上は、
……言えません」
質問:ありがとうございました。
――音声記録⑦終了
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