第五話 バイト仲間の証言
第五話です。
――音声記録・文字起こし⑤
質問:彼とはどのような関係でしたか。
「夜勤のコンビでした。
コンビって言っても、
深夜のコンビニって二人しかいない時間が多いじゃないですか。
だから、
自然と顔を合わせる時間が長くて」
「……ああ、
別にプライベートで遊ぶ仲ではないです。
でも、
シフト表を見ると
“あ、今日もあの人だ”
って思うくらいには慣れてました」
質問:最初の印象は。
「スーツの雰囲気が残ってる人だなって」
「レジの立ち方とか、
お辞儀の角度とか、
……ちょっと堅い感じで」
「深夜って、
みんなだんだん雑になるんですよ。
でも、
あの人はずっと丁寧でした」
質問:仕事ぶりは。
「真面目でしたね」
「棚の奥から期限順に並べ直したり、
誰も見てない時間でも
きちんと清掃したり」
「……正直、
最初は“そこまでやらなくても”
って思ってました」
(小さく笑う)
「でも、
気づいたら
こっちも真似してたんですよね」
質問:会話は多かったですか。
「他愛ないことばかりです」
「新発売のカップ麺の話とか、
夜中に来る常連さんの話とか」
「一回、
二人でおすすめのアイスを食べ比べしたことがあって。
レジ裏でこっそり」
「……こういうの、
言って大丈夫なんですかね」
質問:大丈夫です。
「じゃあ、
あの人、
チョコミント苦手でした」
(少し笑う)
「“歯磨き粉みたいだ”って」
質問:彼の様子に変化はありましたか。
「ありました」
(長い間)
「最初の頃は、
少し落ち着かない感じでした。
休憩中もスマホばかり見てて」
「でも、
途中から急に静かになったんです」
「いや、
前から静かなんですけど……
うまく言えないな」
「……余計な動きが減った、
っていう感じです」
質問:具体的には。
「ロッカーの整理ですね」
「ある日、
私物をほとんど持って帰ったんです。
メモ帳とか、
替えの制服とか」
「“辞めるんですか?”
って聞いたら、
“少し軽くしておこうと思って”
って笑ってて」
「……その言い方、
ちょっと引っかかったんですよね」
質問:スマホの様子は。
「短いメッセージを何回も送ってました。
長文じゃなくて、
確認みたいなやり取り」
「返信が来ると、
少しだけ表情が変わるんです」
「嬉しいっていうより、
……“ああ、これでいいんだ”
って確認する顔」
質問:迷っているように見えましたか。
「うーん……」
(考える間)
「迷ってる人って、
同じ場所をぐるぐるするじゃないですか」
「でも、
あの人は違った気がします」
「……もう決めてる人の静けさ、
っていうんですかね」
質問:最後に交わした言葉は。
「シフト終わりに、
“また来週お願いします”
って」
「……ほんとに普通でした」
「深夜の店内って、
蛍光灯の音がやけに響くんですけど、
その日は
やけに静かだったのを覚えてます」
(長い沈黙)
「だから、
あんなことになるなんて、
全然想像してませんでした」
質問:あなたは彼をどう思いますか。
「悪い人じゃないです」
「ただ、
……何かを一人で抱えすぎてた人、
だったのかな」
質問:ありがとうございました。
――音声記録⑤終了
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