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『十人目の証言』  作者: くろめがね


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5/8

第五話 バイト仲間の証言

第五話です。

――音声記録・文字起こし⑤


 質問:彼とはどのような関係でしたか。


「夜勤のコンビでした。

 コンビって言っても、

 深夜のコンビニって二人しかいない時間が多いじゃないですか。

 だから、

 自然と顔を合わせる時間が長くて」


「……ああ、

 別にプライベートで遊ぶ仲ではないです。

 でも、

 シフト表を見ると

 “あ、今日もあの人だ”

 って思うくらいには慣れてました」


 質問:最初の印象は。


「スーツの雰囲気が残ってる人だなって」


「レジの立ち方とか、

 お辞儀の角度とか、

 ……ちょっと堅い感じで」


「深夜って、

 みんなだんだん雑になるんですよ。

 でも、

 あの人はずっと丁寧でした」


 質問:仕事ぶりは。


「真面目でしたね」


「棚の奥から期限順に並べ直したり、

 誰も見てない時間でも

 きちんと清掃したり」


「……正直、

 最初は“そこまでやらなくても”

 って思ってました」


(小さく笑う)


「でも、

 気づいたら

 こっちも真似してたんですよね」


 質問:会話は多かったですか。


「他愛ないことばかりです」


「新発売のカップ麺の話とか、

 夜中に来る常連さんの話とか」


「一回、

 二人でおすすめのアイスを食べ比べしたことがあって。

 レジ裏でこっそり」


「……こういうの、

 言って大丈夫なんですかね」


 質問:大丈夫です。


「じゃあ、

 あの人、

 チョコミント苦手でした」


(少し笑う)


「“歯磨き粉みたいだ”って」


 質問:彼の様子に変化はありましたか。


「ありました」


(長い間)


「最初の頃は、

 少し落ち着かない感じでした。

 休憩中もスマホばかり見てて」


「でも、

 途中から急に静かになったんです」


「いや、

 前から静かなんですけど……

 うまく言えないな」


「……余計な動きが減った、

 っていう感じです」


 質問:具体的には。


「ロッカーの整理ですね」


「ある日、

 私物をほとんど持って帰ったんです。

 メモ帳とか、

 替えの制服とか」


「“辞めるんですか?”

 って聞いたら、

 “少し軽くしておこうと思って”

 って笑ってて」


「……その言い方、

 ちょっと引っかかったんですよね」


 質問:スマホの様子は。


「短いメッセージを何回も送ってました。

 長文じゃなくて、

 確認みたいなやり取り」


「返信が来ると、

 少しだけ表情が変わるんです」


「嬉しいっていうより、

 ……“ああ、これでいいんだ”

 って確認する顔」


 質問:迷っているように見えましたか。


「うーん……」


(考える間)


「迷ってる人って、

 同じ場所をぐるぐるするじゃないですか」


「でも、

 あの人は違った気がします」


「……もう決めてる人の静けさ、

 っていうんですかね」


 質問:最後に交わした言葉は。


「シフト終わりに、

 “また来週お願いします”

 って」


「……ほんとに普通でした」


「深夜の店内って、

 蛍光灯の音がやけに響くんですけど、

 その日は

 やけに静かだったのを覚えてます」


(長い沈黙)


「だから、

 あんなことになるなんて、

 全然想像してませんでした」


 質問:あなたは彼をどう思いますか。


「悪い人じゃないです」


「ただ、

 ……何かを一人で抱えすぎてた人、

 だったのかな」


 質問:ありがとうございました。


――音声記録⑤終了


誤字脱字はお許しください。

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