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『十人目の証言』  作者: くろめがね


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4/8

第四話 元恋人の証言

第四話です。

――音声記録・文字起こし④


 質問:彼とはどのような関係でしたか。


「……恋人でした。

 正確には、

 もう別れていましたけど」


(小さく息を整える音)


「こういう場所で話すと、

 急に他人事みたいに聞こえますね。

 でも、

 少し前までは、

 毎日顔を合わせていたんです」


「一緒にスーパーに行って、

 どっちの牛乳が安いか悩んで、

 ……そんな普通の時間があった人です」


 質問:どんな人でしたか。


「優しい人でした」


(すぐに続けず、沈黙)


「……いや、

 優しいって言葉、

 きっとみんな使うんでしょうね」


「本当は、

 断れない人でした」


「頼まれると、

 少し困った顔をして、

 それでも“いいよ”って言ってしまう」


「最初はそれが好きでした。

 でも、

 だんだん怖くなったんです」


 質問:怖い。


「自分のことを後回しにする人って、

 どこかで壊れる気がして」


「……私、

 何度も言ったんですよ。

 “無理しなくていい”って」


「でも、

 あの人は

 “もう少しだけだから”

 って笑うんです」


 質問:金銭の話は。


「詳しくは知りません。

 聞いても、

 あまり話してくれなかった」


「ただ、

 夜中に急に外に出たり、

 スマホを握ったまま

 長い時間動かなかったり」


「……ああ、

 今思えば、

 何かを決めようとしていたのかもしれません」


 質問:揉めたことは。


「あります」


(長い沈黙)


「階段のところで、

 ……声を荒げてしまいました」


「“約束が違う”って、

 私が言ったんです」


「最初に聞いていた話と、

 あとから聞いた話が

 少し違っていて」


「……でも、

 責めるつもりじゃなかったんです」


「ただ、

 怖かっただけで」


 質問:彼の反応は。


「怒りませんでした」


「……それが、

 一番つらかった」


「少し遠い顔をして、

 “ごめん”って」


「何に対しての“ごめん”なのか、

 最後までわからなかった」


 質問:別れた理由は。


「はっきりしたきっかけはありません」


「ただ、

 話が噛み合わなくなっていって」


「私が未来の話をすると、

 あの人は

 今の話しかしなくて」


「……時間の向きが

 違っていたんだと思います」


 質問:事件の前、最後に会ったのは。


「数日前です。

 短いメッセージだけ届いて」


「“少し時間がほしい”

 って」


「その言葉、

 前にも聞いたことがあったんです。

 仕事で悩んでいたときも、

 同じこと言ってました」


 質問:彼は迷っていたと思いますか。


「……迷っていた時期は、

 長かったと思います」


「でも、

 最後に見たときは違いました」


「もう決めた人の静けさ、

 っていうんでしょうか」


 質問:安心しているように見えましたか。


「安心ではありません」


「ただ、

 ……終わりを受け入れている顔でした」


(長い沈黙)


「……私、

 あのとき

 もう少し違う言葉を選べたのかな」


「止められたのかな」


 質問:あなたは彼をどう思いますか。


「悪い人じゃない」


「でも、

 誰かを傷つけないために

 何も言わない選択って、

 ……結局、

 一番大きく傷つけることもあるんですよね」


(小さく息を吐く)


「……今さらですけど」


 質問:ありがとうございました。


――音声記録④終了


誤字脱字はお許しください。

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