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『十人目の証言』  作者: くろめがね


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2/8

第二話 元同僚の証言

第二話です。

――音声記録・文字起こし②


 質問:彼とはどのような関係でしたか。


「前の職場の同僚です。

 部署は違いましたけど、

 同じフロアだったので、

 顔を合わせる機会は多かったですね」


「……ああ、

 同僚って言っても、

 飲みに行くほど親しかったわけじゃないです。

 仕事の延長線上で

 少し会話するくらいの距離でした」


「でも、

 あの人、

 静かな割に印象に残るんですよね」


 質問:どんな印象でしたか。


「合理的な人でした。

 感情で判断しないというか、

 ……いや、

 感情がないわけじゃないんですけど、

 表に出さないタイプ」


「会議でも、

 最後まで聞いてから

 一言だけ意見を言う人でした」


「それが、

 不思議と場の流れを変えるんですよ。

 声が大きいわけでもないのに」


 質問:職場で問題はありましたか。


「目立ったトラブルはありません」


「むしろ、

 揉め事の仲裁に入ることの方が多かった気がします。

 ……あの人がいると、

 誰も大きな声を出さなくなるんです」


「不思議ですよね。

 威圧感があるわけじゃないのに」


 質問:退職については。


「突然でした」


(少し間)


「いや、

 正確に言うと、

 本人の中では突然じゃなかったのかもしれません」


「辞める少し前から、

 机の上を整理していて。

 書類の束も、

 少しずつ減っていったんです」


「……ああいうの、

 気づく人は気づくんですよ」


 質問:理由は聞きましたか。


「“少し環境を変えたくて”

 って言ってました」


「それ以上は聞きませんでした。

 踏み込まないのが、

 あの人との距離だったので」


 質問:金銭の話については。


「噂程度なら耳にしました」


「投資とか、

 新しいことを始めたとか。

 でも、

 あの人、

 そういう話を自分からする人じゃなかったんです」


「だから、

 詳しくは知りません」


 質問:彼が迷っているように見えましたか。


「……迷っていた時期はあったと思います」


「ただ、

 辞める直前は違いました」


(椅子の音)


「もう決めている人の顔でした」


「言い方が難しいんですけど、

 ……退路をなくした人、

 というより、

 自分で線を引いた人の静けさ」


 質問:事件についてはどう思いますか。


「……難しいですね」


(短い沈黙)


「正直、

 あの人が逃げるとは思えませんでした」


「だから、

 現場に残っていたと聞いたとき、

 ……ああ、

 やっぱり、と思いました」


(すぐに続けず)


「……すみません、

 これは後から知った話でしたね」


 質問:どういう意味ですか。


「いえ、

 言葉の選び方を間違えました」


「ただ、

 結果を受け入れる人だとは思っていました」


「責任から逃げないというか、

 ……少なくとも、

 何も言わずに姿を消すような人ではない」


 質問:最後に会ったのは。


「退職の少し前です。

 エレベーターの前で、

 短い会話をしました」


「“またどこかで”

 って言われて」


「……ああいう言葉、

 普通は社交辞令じゃないですか」


「でも、

 あの人が言うと、

 本当にそうなる気がしたんですよ」


(小さく笑う)


「……結局、

 こういう形でしか

 話を思い出せなくなりましたけど」


 質問:あなたは彼をどう思いますか。


「悪い人ではありません」


「ただ、

 ……選び方を間違えたのかもしれない」


(長い沈黙)


「でも、

 誰だって、

 最後の瞬間に

 一番静かな選択をすることって、

 あるんじゃないですか」


 質問:ありがとうございました。


――音声記録②終了


誤字脱字はお許しください。

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