第二話 元同僚の証言
第二話です。
――音声記録・文字起こし②
質問:彼とはどのような関係でしたか。
「前の職場の同僚です。
部署は違いましたけど、
同じフロアだったので、
顔を合わせる機会は多かったですね」
「……ああ、
同僚って言っても、
飲みに行くほど親しかったわけじゃないです。
仕事の延長線上で
少し会話するくらいの距離でした」
「でも、
あの人、
静かな割に印象に残るんですよね」
質問:どんな印象でしたか。
「合理的な人でした。
感情で判断しないというか、
……いや、
感情がないわけじゃないんですけど、
表に出さないタイプ」
「会議でも、
最後まで聞いてから
一言だけ意見を言う人でした」
「それが、
不思議と場の流れを変えるんですよ。
声が大きいわけでもないのに」
質問:職場で問題はありましたか。
「目立ったトラブルはありません」
「むしろ、
揉め事の仲裁に入ることの方が多かった気がします。
……あの人がいると、
誰も大きな声を出さなくなるんです」
「不思議ですよね。
威圧感があるわけじゃないのに」
質問:退職については。
「突然でした」
(少し間)
「いや、
正確に言うと、
本人の中では突然じゃなかったのかもしれません」
「辞める少し前から、
机の上を整理していて。
書類の束も、
少しずつ減っていったんです」
「……ああいうの、
気づく人は気づくんですよ」
質問:理由は聞きましたか。
「“少し環境を変えたくて”
って言ってました」
「それ以上は聞きませんでした。
踏み込まないのが、
あの人との距離だったので」
質問:金銭の話については。
「噂程度なら耳にしました」
「投資とか、
新しいことを始めたとか。
でも、
あの人、
そういう話を自分からする人じゃなかったんです」
「だから、
詳しくは知りません」
質問:彼が迷っているように見えましたか。
「……迷っていた時期はあったと思います」
「ただ、
辞める直前は違いました」
(椅子の音)
「もう決めている人の顔でした」
「言い方が難しいんですけど、
……退路をなくした人、
というより、
自分で線を引いた人の静けさ」
質問:事件についてはどう思いますか。
「……難しいですね」
(短い沈黙)
「正直、
あの人が逃げるとは思えませんでした」
「だから、
現場に残っていたと聞いたとき、
……ああ、
やっぱり、と思いました」
(すぐに続けず)
「……すみません、
これは後から知った話でしたね」
質問:どういう意味ですか。
「いえ、
言葉の選び方を間違えました」
「ただ、
結果を受け入れる人だとは思っていました」
「責任から逃げないというか、
……少なくとも、
何も言わずに姿を消すような人ではない」
質問:最後に会ったのは。
「退職の少し前です。
エレベーターの前で、
短い会話をしました」
「“またどこかで”
って言われて」
「……ああいう言葉、
普通は社交辞令じゃないですか」
「でも、
あの人が言うと、
本当にそうなる気がしたんですよ」
(小さく笑う)
「……結局、
こういう形でしか
話を思い出せなくなりましたけど」
質問:あなたは彼をどう思いますか。
「悪い人ではありません」
「ただ、
……選び方を間違えたのかもしれない」
(長い沈黙)
「でも、
誰だって、
最後の瞬間に
一番静かな選択をすることって、
あるんじゃないですか」
質問:ありがとうございました。
――音声記録②終了
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