十六章 眼鬼③
「すると由美さんが封印していない鬼はもっと強いと言う訳か」
礼司は急にまじめに由美に話しかけた。
「そうよ」
「なるほど、考えてみれば今までの鬼はあまり強くなかったな。
巫女でもない俺ごときが退治できたんだから」
「すみません、それで俺は鬼に食われるんですか?」
桃田は恐怖でシートに体を丸めて座った。
「私たちが負けたら食われちゃう、生きながら裂けるチーズみたいに体を引きされて」
「マジか!」
礼司たちは高尾山口に着いた。
「こんな夜遅く山登るんですか?ケーブルカーもリフトも止まっていますよね」
桃田がビビっていた。
「大丈夫、俺の世界では1号路は全面舗装で車で登れる」
礼司は躊躇なく山道に入った。
「由美さん上がったらどうするんですか?」
「薬王院まで行ってください」
「了解です。猿園の向こうですよね」
礼司は誰もいない暗闇の登山道を登って行った。
「薬王院は真言宗の修験場で有名だけど
飯縄権現も祭ってあるの」
「権現(仏が神や人間になって現れそれを祭ったのが
徳川家康大権現を祭っている東照宮、根津権現、春日大社、
日吉神社、箱根神社、厳島神社(三鬼堂)など数多くある)」
民俗学の知識がある礼司は雄弁だった。
「神仏習合、神と仏を同時に祭ってあるの、
昔はうちの大鳥神社と善然寺は一緒だったのよ」
「なるほどな、一神教の外国人には説明が難しい」
「ここなら、パワーが強いので鬼と戦いやすいわ」
礼司は薬王院の前に車を止めると外に飛び出し
赤い雲を睨みつけた。
「私も降りるわ」
「了解」
礼司はトランクから車いすを出して由美を降ろした。
「魔美、あなたは弓を使って!」
「はい」
「礼司さんは鬼丸です」
「付喪神ですか?」
「良く知っているわね。残念ながら付喪神はついていないわ」
※付喪神(つくも神)は使った道具に精霊が
宿り強いパワーを発揮すると言われている。
「私は勾玉でバリアを張ってあなたたちにパワーを送って援護するわ」
「わかった」
礼司は由美の力が心強かった。
魔美は弓をタクシーから降ろし礼司と二人で弦を張った。
「弓って大きいんですね」
桃田が驚いて弓を見上げた。
「日本の弓は世界一大きいのよ」
「他の国は?」
「日本以外の国は複合弓と言って木を合わせて小さくて強力な弓を
戦いに使っていた、弓と言う字を見ればわかるでしょう」
「ああ、なるほど」
「日本ではこの大きな弓は戦いより精神的なものを追求して
弓道を作ったの」
「ですよねこんな大きなもの持って戦ったら矢を放つ前に斬られてしまいますよね」
「だから、場を清めたり悪魔を祓ったりすることもあるのよ。相撲の弓取り式も
土俵を清めると言う話もある(諸説あり)」
「という事は弓は鬼に効果あると言う訳ですか?」
「そりゃ、石ころ投げるより効果があるだろう。あはは」
礼司がそう言うと魔美は睨みつけて礼司に弓を向けた。
桃田に弓を持たせると魔美は矢筒に矢を6本背中に担ぎ、
右手に弽(ゆがけ、弓用の手袋)をして弓を持った。
「かっこいい」
桃田と礼司はセーラー服魔美の凛とした姿に引き込まれた。
魔美は礼司を冷たい目でにらんだ。
「で、では俺も・・・」
礼司は鬼の根付をチャランと鳴らすと120cmの鬼丸を手に持った。
「おい、桃田。何時だ!」
「22時50分です」
「来るぞ!車の中に居ろ」
「は、はい」
弓を持った魔美と刀を持った礼司は並んで鬼に向かって立ちその後ろに
由美が座っていた。
赤い雲は高尾山を覆いつくすと完全に目玉を作っていた。
「食うって言ったって口はどこにあるんだ?引き裂く手も無いし・・・」
窓から外を見ていた桃田がぶつぶつと言った。
その目は動き高さを落とし礼司たちの正面を向いてきた。
「すみません、23時です」
桃田が窓を開けて恐々言った。
「さあ、鬼退治の時間だ!」
「ママ、お願い」
「はい!」
由美は勾玉に手を当てると
三人とタクシーがバリアに囲まれた。
「ゴー」
強大な目が血の色に染まり名その中心から光を放った。
バリアに囲まれているにも関わらず、
三人は飛ばされタクシーが大きく揺れた。
「キャー」
由美の座っていた車いすが倒された。
地面に転げ落ちた
「由美さん」
礼司が車いすを起こすと再び目玉が赤くなった。
由美は勾玉を右手で囲むと後ろの社殿が光りだし
まぶしいほどの光線が鳥居の中を通り抜けを
眼鬼に向かって行き目玉は黒い霧で囲まれた。
「魔美、いまだ」
魔美は弓を引き目の中央に向かって矢を放ち
矢が刺さるとそこはさらに黒くなり空高く上がっていた。
「くそ!逃げた!」
魔美が弓を引いたがあきらめた。
「止めて魔美、届かないから矢が無駄になる」
魔美は由美の方を振り返った。
「はい!」
「俺の刀じゃもっと届かない」
「礼司さん九字切れる?」
「いや、もう23時だ」
「違うわよ、何言っているの殺すぞ!」
魔美が怒って亮に弓を引いた。
「待て待て!魔美」
「礼司さん、いい?続けて言って」
「はい」
礼司は由美には妙に素直だった。
「臨」
「臨!」
「兵」
「兵!」
「闘」
「闘!」
「者」
「者!」
「皆」
「皆!」
「陣」
「陣!」
「烈」
「烈!」
「在」
「在!」
「前」
「前!」
「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前」
礼司は九字を切ると刀にありったけの気を送った。
礼司の両腕からまるで血液が飛び出しそうに何かが
刀に伝わるとそれが七色に光り輝き刀の先(鋒)から
放電しているかのように見えていた。
「おおおお、来た来た」
「まだよ!」
由美が勾玉を手で囲み祈ると社殿から光が礼司の刀に向かって輝いた
すると刀から延びる光はだんだん長くなっていった。
「由美さん、いいか?」
「はい!」
「おりゃ~~~」
礼司は雲に向かって大上段から振り下ろすと
「ギャー」
雲は空に大きく広がった。
「手ごたえあり」
「うん、すごい!」
礼司は魔美の声に勢いに乗って何度も目玉を切って行った。
「ハッハッハッ、どうだ参ったか?」
「まだだよ」
大きく広がった雲に全く反応が無くなっていた。
「どうやったらいいんだ?」
体力に自信があった礼司だが1kg以上あった日本刀を振り回して
腕が疲れ息が切れていた。
礼司が休んでいる間に雲はあっと言う間に復活し目の形に戻り
赤い光線を放った。
「ハッ」
由美は右手を上げてバリアを張った。
「キャー」
ショックが三人とタクシーを揺らし礼司は魔美は由美の椅子をしっかり持った
魔美も礼司も飛んできた小石で顔に傷り血を流していた。
間髪入れずに目玉は再び赤い光線を放った。
「ハッ」
由美はバリアを張ったがその力弱く、
礼司は由美を抑えるのがやっとで
魔美が地面を転がり、タクシーが横倒しになった。
「俺、食われる!」
桃田は悲鳴を上げた。
「馬鹿。お前だけじゃない俺達も目が合っているから食われる」
礼司は由美の車いすの前に立ち大股で立った。
「もう許せねーぞ!来るなら来い!」
赤い光が礼司に光を放った。
「夜野さーん」
魔美が赤い光に囲まれた礼司の名を呼んだ。
礼司は刀を縦に持ち光線を反射さると
服がボロボロになっていた。
「制服は会社の支給品だ!弁償しろ!」
礼司は今まで倒してきた鬼を頭に浮かべた。
「天の力よ、地の力よ、風の力我に力を・・・」
礼司は気を刀に溜め大上段から大きく振り落とし
刀の先から光を放っていた。
「ゴゴゴゴゴ・・・」
目玉が音を立てて小さくなって行った。
「魔美、矢をよこせ」
怒った礼司は矢を持ってグルグルと回し
気を矢に送ると魔美に渡した。
「魔美、やれ!」
魔美が放った矢は目の中央の黒い部分にあたるとそれが突き刺ささり
どす黒く変化した、
「反応ありだな。矢は後三本か?」
「うん」
礼司は三本の矢を持って祈ると腕から血がにじんできた。
「夜野さん、腕から血が出ている」
「気を入れているんだよ」
「どう見ても血なんだけど・・・」
そう言うと魔美の矢は真っ赤になっていた。
「魔美、目玉が復活して来たら弓を放て!」
「うん」
礼司は振り返って社殿に向かった。
「鏡、鏡」
礼司は靴を脱いで社殿に奥に行き鏡を見つけそれを手に取って
戻った。
「礼司さん何を取って来たの?」
「さっき、刀であの光線を反射させたから今度は銅鏡で反射させる」
「なるほど・・・」
「魔美、残りの矢は?」
「後一本」
「魔美、ちょっと待てやる事がある」
「早くしないと復活してしまう」
「由美さん!」
「わかった」
由美は右手でパワーを銅鏡に放った。
「さすが元夫婦」
それを見ていた魔美は呟いた。
由美はパワーをありったけの気を送ったせいで眩暈で倒れそうになった。
「ごめんなさい、これが精いっぱい」
「由美さん、大丈夫か?」
言われた通り銅鏡は鈍い光を放っていた。
「桃田君手伝ってくれ」
礼司と桃田は横になったタクシーを起こし
タクシーのフロントに銅鏡を置きエンジンをかけた。
「桃田さん付き合ってもらいますよ」
「えっ?」
「私は?」
魔美が弓をかかえ走って来た。
「後はママさんを護ってくれ!頼むぞ」
礼司はタクシーで高尾山を全速力で下った。
それを目玉がゆっくりと追いかけ始めた。
「夜野さん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。これでもプロだ」
「いや、運転じゃなくて、鬼ですよ、鬼!」
「うん、今から退治する」
礼司は高尾山のくねった道を全速力で降り参道入り口に来た。
「タコタコタコ・・・」
「どうしたんですか?」
「今通ったのは蛸杉だよ」
「何ですか?」
「引っ張りだこ、パワースポットだよ」
「夜野さん、そんなこと言っている場合じゃないですよ」
「人生余裕を持った方が良いぞ!」
礼司は楽しそうにダウンヒルを楽しんでいた。
「でもどうしてわざわざ山を下りるんですか?」
「ちょっと準備があったんで、時間稼ぎだよ。あのままじゃ間に合わない」
礼司は向かってくる赤い雲を見上げた。
「準備って何ですか?」
礼司はトランクを開けると窓ふき布をつるしていた針金を取り出した。
「これをタクシーの行燈に付ける」
「はい」
「仕事柄得意だろう。しっかり付けてくれ落ちたら終わりだ」
「はい、大丈夫です」
桃田は丸い銅鏡を器用に行燈に取り付けた。
礼司はロープウエイ駅隣のお店を見た。
「あっ、あれだ!」
礼司が指さすと
「天狗の鼻くそですか?」
※高尾山お土産の黒いアーモンド菓子、ちなみに上野動物園にはゴリラの鼻くそがある。
「違う団扇だ!」
商店に飾ってある団扇を手に持って戻ってきた。
「取り付けました」
「さすがプロ」
「夜野さん、あれ」
桃田は赤い雲を指さした。
「来たか!」
礼司は空を見上げ手袋を取ってハンドルを握った。
「行くぞ!」
タクシーは再び登山道1号路を猛スピードで登った。
「力よ来い」」
礼司の顔が鋭く変わっていた。
「邪悪なものを消す力よ!鬼を退治する力よ!
愛する妻と娘を護る力よ!高尾山の天狗よ」
猛スピードの為に車が激しく跳ね上がった。
「あわわわ」
桃田はシートにしがみついていた。
「夜野さん、」
「来い、来い、来い」
桃田の付けた銅鏡が車のガタつきで針金から連れて来た。
「銅鏡、大丈夫か?」
行燈に付けた銅鏡が光り




