十五章 鏡鬼⑥
「夜野さん。どうすれば」
藤間は空を見ておどろき慌てていた
「夜野さん、神主さんじゃ無理よ」
魔美が礼司の袖を引いた
「ああ分かっている」
礼司は民俗学の研究者の意識で情報が整理され
鳥居の下に立ち月の光を受けて浮かび上がった白い雲に向かって
両手を広げるとゴーと言う音を立てて
空いっぱいにその雲は広がった
「みんな危ないから避けていろ」
礼司の指示にみんなが避けると
空から真綿のような糸が降りてきて
鏡の穴に繋がり轟音と共に雷のような光が
鏡に落ちた
「す、すごい」
魔美が鏡を指差すと
開いていた穴がふさがり
シューっと音を立てて
真っ赤に光って周りを照らしていた
「どうやら成功のようですね、藤間さん」
「はい」
「みんな、これを持って伏見に向かうぞ。
魔美、浜田、白尾、車に乗れ川島は後で藤間さん達と来てくれ」
礼司は皆に命令した。
「はい」
全員が返事をすると
「魔美、残り時間は?」
「21時まで、後10分」
四人が車に乗ると
「俺は伏見に行った事が無いから走っていくぞ」
「間に合うんですか?」
るなが心配になって聞いた
「時速100kmで5分、行くぞしっかりつかまれ」
エンジンをかけると回りが真っ暗になり
目の前から由美や藤間が消えた
そして、礼司はアクセルを思い切り踏みつけると
東向かって走り出した。
京都の市内は人も車もまったく無く
礼司はひたすらスピードを出して
走り抜けた
「夜野さん、どうして誰もいないんですか?」
「ここは鬼の世界なの?」
魔美が振り返ってるなに答えた
「鬼の世界?」
「そうです。ここは人間のいる世界の隣の世界、鬼のいる魔界です」
浜田がるなに向いて話をすると
あのライフルを持ってたくましく歩いている
向こうの世界の白尾るなを思い出した
「るなさん僕の事覚えていますか?」
るなはしばらく考えると
「いいえ、覚えていません」
るなは冷たく答えた
「あはは、浜田無駄だよ」
礼司は新幹線のガードをくぐり東寺を右に見ながら
深草坊町の深草北陵に着くと礼司は急ブレーキを
踏んで止まった。
「鬼は?」
魔美が根付をかざすと青白く光った
「この辺りにいる」
車から見て100メートルほど先に
2メートルくらいの光る、人の形をした
物がこっちを向いて光を放っていた。
「あれか」
四人が車から降りるとるながすぐに矢を射った
するとそれが横を向き薄い板に変わって矢は通り過ぎた。
「しまった!鏡だった」
るなは舌を鳴らすと鬼は消えていなくなった。
「向こうの世界に移動したぞ」
「ああ、誰か殺される」
「乗れ」
礼司が命令をすると元の世界に戻った
「おい、何処にいる?」
魔美は礼司の言葉に根付をかざすと
魔美が指を指したのは
二階建ての普通の人家だった。
「本当にあの家か?」
礼司はためらっていたが
「うん、間違いない」
「あと2分しか無いですよ」
「しょうがない、突入だ」
礼司はその人家の呼び鈴を鳴らした
そこに出てきたのは
強面の大男だった
「すみません、ここに鬼が」
「なんだ」
大男は大声で怒鳴った
「はい、とにかく中に」
そう言っているうちに
魔美が根付を持って入っていった
そして、風呂場の前に止まって
「ここだ」
そう言ってお風呂のドアを開けると
若い女性が頭を洗っていた
「キャー」
魔美はそばにあったタオルで
浴室の鏡を覆った
礼司は玄関で家主に鬼の説明をしていたが
悲鳴に反応して風呂場へ駆け寄った
「どうした!!」
「危ないから来ないで」
魔美は浴室の電気を消すと
髪を洗っている女性を表に出した
「何言っているんだ、この女」
家主は魔美の髪をつかんで引きずった。
「だめだ、収拾がつかない」
礼司は鬼のロブを高く掲げると
強い光が放たれ家主の動きが止まった
「今だ、魔美。彼女に服を着せて鏡鬼を探せ」
「はい」
後から来た浜田とるなは
二人は家中の鏡を立てたり伏せたりしていった
「魔美ちゃん、鬼は何処にいるの?」
「それが根付が光らなくなった」
礼司はそれを聞いて外へ飛び出した。
「人家の鏡に有っちゃもう防げない、魔美後は頼む」
そう言って礼司はさっき穴がふさがった
銅鏡を袋から取り出しそれを月にかざすと
それは光だし礼司を飲み込んだ
「夜野さん」
魔美は呆然として残された銅鏡を拾った
「魔美ちゃん」
そう言って浜田は魔美の肩を抱いた
「夜野さんは何処へ行ったのかしら?魔美ちゃんこれからどうする?」
るなが聞くと
「23時まで待ちます、夜野さんは鏡の向こうの世界に行っています。
そして、鬼を今抑えているはずです」
魔美は確信して答えた。
「どうして分かるの?」
「だって、夜野さんの袋が無いもの」
魔美は微笑んだ
******
礼司は周りを見渡すと暗闇にあちこちに光る穴が見えた
「あれが鏡の向こう側か」
その穴を覗き込む、さっきのサーフボード状の光る物体がいた
「こいつが鏡鬼か」
礼司が声を出すと
鏡鬼は礼司の方を見て光りだし
礼司は袋から取り出したベレッタの
安全装置をはずし引き金を引いた
弾は鏡鬼に当たると金属音がしてはじけた
「やはり、効かないか」
それでも礼司は弾を撃ち続けた
******
「浜田さん、由美さんは?」
「ああ、そろそろこっちに着く」
「分かった、困ったときは由美さんの作戦に従えって夜野さんに言われた」
「なるほど、向こうでは隊長のサブをしていたからな」
そこへ佐々が運転する車に由美と家元、藤間が乗っている車が着くと
魔美は由美のところへ駆け寄り事の次第を報告した
「隊長又やったの?まったく短絡的なんだから」
「今頃一人で鬼と戦っているね」
「そうね、じゃあ私たちは」
しばらく空を見て考えていた
「佐々さんこの辺りで高くて人気の無いところは?」
「伏見桃山城ですね」
「そこへ行きましょう」
「どうして?」
魔美が由美に近づいて聞いた
「23時過ぎだと月がかなり沈みかかっているし
回りに鏡が無いところだからよ」
「そうか、さすがだね」
「今度こそ隊長を逝かせはしないわ」
「うん、大丈夫。今の夜野さんには鬼がついているから、それに・・・・」
魔美は月を見上げた
「四人で行きます」
由美は佐々たちに言った
「我々が行ったら足手まといですね。お願いします」
「はい」
四人は礼司の車に乗ると浜田がハンドルを握った
10分ほどで車が伏見桃山城の駐車場に着くと
大きな門があった。
「お城は?」
魔美が聞くとるなが指差して答えた
「ここの奥よ」
「今ここから忍び込むか23時まで待って鬼の世界に入るかだな」
浜田が由美言うと
「23時まで待ちましょう、警備の人に捕まったら大変だから」
「わかった」
「私は何をすればいいですか?」
るなは由美に聞いた
「月の光を浴びた銅鏡に矢を射るだけよ」
「分かりました」
「矢は何本?」
「後四本です」
「もう一本は?」
「鬼の世界で一本討ってしまって」
魔美とるなは鏡鬼の形を説明した
「前から見ると鏡で横を見ると板なのね」
「はい」
「分かったわ」
そして電話を切った浜田が言った
「隊長が向こうの世界でがんばっているよ。
今、京都中で鏡やガラスが割れている」
「なるほど、それなら被害者は出ないわね。さすが夜野さん」
魔美が飛び跳ねた
「23時、鬼退治の時間」
魔美がエンジンのキーを回すと
鬼のノブを握り光に包まれたタクシーは
鬼の世界の伏見桃山城に着いた。
「さあ行くわよ」
由美が声をかけると
四人は車から飛び降り門のところまで行き
浜田が門を爆発させた
「すごい、何処で入手したの?」
魔美が聞いた
「これでもSSATの武器、爆弾のスペシャリストだぜ」
浜田が門を開けると
「天守閣が2つ有って凄く綺麗」
魔美が感動してそれを観た
「去年撮影用に修復したのよ」
るなが答えた
由美は月の位置をみて
「鏡を取り付ける天守閣の欄干のところ、
そして矢を射るのが反対側の天守閣ね」
「分かった、鏡を取り付けに行こう」
浜田は魔美と一緒に天守閣へ向かった
「るなさんは向こうの天守閣ね」
「はい、気をつけて」
魔美と浜田と由美は天守閣に立つと
「鏡、取り付けないのか?」
「ええ、私が手に持つわ」
「危ないだろう」
「月の動きに合わせて固定できないでしょ」
「うん」
「お願い、無事に隊長を連れて帰って」
「分かった」
浜田と魔美が手に持った銅鏡に手をかざすと吸い込まれ
鏡の中に消えた。
二人は黒いトンネルに落ちて振り返ると
白い窓が消えて真っ暗になった
「真っ暗じゃないか」
「ええ、夜野さんが鏡を全部ぶっ壊したみたい。でも見つけられない」
「ああ、ライトをつけたら鏡鬼に見つかってしまう」
すると上からサラサラとした光が二人を包んだ
「見えるよ目の前が」
魔美が浜田の顔を見て言った
「ああ、由美さんの獣鬼の力のおかげだ」
「浜田さんはどんな力だっけ?」
「煙鬼、ここでは役に立たないな」
「そうね、後で役立つんじゃない」
「あはは、後でな」
魔美と浜田は二人で礼司を探した
「わりと早かったな」
二人の後ろに礼司が立った
「キャッ」
魔美は飛び上がった
「声を出すな、魔美」
「隊長、見事に鏡を壊しましたね」
「ああ、やつはこの鏡の裏の世界から覗き込んで
気に入ったやつを食っていた」
「恐ろしいですね」
「幸い、やつの動きがかなり遅い。だから助かったよ」
「それで、どうやってやつを殺すの?」
「由美が鏡の裏を月に当てる、その時光るからそこから脱出する」
「タイミングは?向こうの世界から連絡は取れないわよ」
「大丈夫だ、後10分で月の位置が二つの天守閣を差す」
「どうして天守閣って分かったの?」
「あはは、由美の計画程度なら分かるさ」
「由美さん、気の毒に」
浜田が礼司を見た
「馬鹿、俺のレベルが高いんだ」
「はいはい」
魔美が礼司の肩を叩くと
「さて、鏡鬼も腹が減ったろうこっちへ呼ぶか」
「そうね、足が鈍いんだものね」
「二人とも見えるだろう」
「はい、一生懸命光る場所を探していますね」
「ああおそらく、九条から十条、伏見近辺の鏡はすべて壊した、
後は俺たちの頭を食いに来るだけだ」
礼司が念じると掌に火のボールが現れた
「ああ、火鬼だ!!」
魔美が懐かしそうに言うと
礼司はそれを鏡鬼に投げつけた。
ボールが燃える火で周りが明るくなり三人を照らすと
鏡鬼は追いかけてきた
「いいか、鏡鬼の正面に立ったら終わりだ、気をつけろよ」
「はい」
礼司は魔美から受け取った鬼のノブを持って念じると
光ながら1メートルほどの刀に変化した
「ソードバージョン」
礼司は鏡鬼の横に周り一気に切りつけた
するとビシビシというひびが入ったような音がした
「浜田、効果があるぞ。お前もピストルで鏡鬼を狙え」
「む、無理ですよ、あんな薄いところに当たりませんよ」
「分かった、交換だ」
礼司は浜田と武器を交換してピストルを撃った
カツンカツンと音を立てて弾が当たると
また、ひびが入る音がした
浜田も鏡鬼の横に立ちソードで切りつけると
さらに大きくひびが入る音がして
鏡鬼は浜田の方を正面を見るとひびが大きく広がっていた
「隊長チャンスです」
ソードを大きく振りかぶると
「まて!浜田」
「はい?」
礼司の声は一瞬遅く鏡鬼はガシャンと大きな音を立ててバラバラに散った
「やった!」
魔美は手を叩いて喜ぶと
「だめだ、再生する」
床を見るとキラキラ光りながら
割れた鏡が引き合っていた
「やっぱりだめ?」
「時間が稼げたからいいだろう」
「後一分でどこかが光るそこへ飛び込むぞ」
三人が周りを見ていると
鏡鬼の再生している途中の向こう側が光った
「行け!!」
三人は小さな光に向かって
走り出した
「魔美飛び込め」
その声で魔美が光に飛ぶ込み消えると
魔美が由美の持っている鏡から
欄干の内側に落ちた
「由美さん、続いて出てくるわ」
「ええ、分かっている、魔美ちゃん鏡を持って」
「はい」
魔美が鏡を受け取って月にかざしていると
「るな!三人目が飛び出したらこの鏡を射るのよ」
「はい、でも・・・・」
「そうか、今、目を上げるわ」
由美が手をかざすと金の光がるなを囲んだ
「由美さん見えました」
「今からあなたの目はふくろうよ」
そこへ鏡から飛び出した浜田が魔美の足元に一縷と
魔美に手を出した
「僕が持ちます」
浜田は鏡を持つと礼司を待った
礼司は再生した鏡鬼の前をゆっくり歩いて
自分の方を向かせて叫んでいた
「良し!こっちへ来い」
鏡鬼の体のひびが次第に消えて今にも
礼司に飛び掛ろうとしていた
「おい、ひびが消えちゃこっちが食われる」
礼司はひびの痕に向かってピストルを撃った
鏡鬼は今までより早い動きで礼司に近づくと
礼司は光の元を背中でふさぎ
真っ暗にして鏡鬼が来るのを待った
そしてピストルを撃ちながら
自分のほうにおびき寄せると
「由美さん、夜野さんの背中が見えた」
「分かったわ」
由美はるなにスマフォで
「3・2・今よ」
その瞬間礼司の体が鏡から飛び出した
そしてその矢が礼司の体をかすめると
浜田が持っていた銅鏡の縁に当たった
「しまった」
浜田が叫んで鏡鬼の体が鏡を出ようとした瞬間
二本目の矢が鏡を貫いた
「矢は二本あるのよ」
るなはそう言うと反対側の天守閣で崩れるように倒れた
「お疲れさん、由美きっとるなが倒れているから介抱してやってくれ」
「はい」
由美はるなのところへ向かった
鏡から落ちて横になっていた礼司に
「大丈夫?怪我していない」
魔美が心配そうに礼司の顔を覗き込むと
「大丈夫だ。服が破れただけだ。やはりコスチュームが欲しい」
「そうだね」
魔美は礼司の胸に飛び込みたかった
「あいつ、ちょっと矢を射るタイミングが早かったので
二本目の矢を放っていたんだな」
「すごい」
「あいつは根っからのスナイパーだ」
「うん」
「これで、記憶を取り戻したらるなは俺たちの仲間だ」
浜田が感動していた
「残りの一人は山野だ。魔美聞きたい事がある」
「なに?」
「五人揃ったら、向こうの世界に行くのは分かったが、その後は
どうするんだ」
「私の世界に来てもらいます」
「そうか楽しみだ」
礼司は月に向かって頭を下げた
鏡鬼 完




