十五章 鏡鬼⑤
「ありがとうございます、今家元とるなが箆を作っています」
「分かりました、家元のところに届けます」
「はい」
「ところで夜野さんの方はうまく行っていますか?」
「それが白鳥の羽がパワーがあると思えないんだ、それで大覚寺に入ろうと思っている」
「はあ、大覚寺は江戸時代の建造物なので織田信長との関係は薄いですね」
「なるほど、大沢池の周りのもっと古い遺跡か建造物がないかな?」
「有ります、最近発掘された名古曽の滝です」
「分かりました、ありがとう」
「分かった?」
魔美は礼司の顔を覗き込むと
「ああ、名古曽の滝だ行ってみよう」
「はい」
礼司は車を大沢池の縁を走ってすぐに
名古曽の滝の前に車を止めた。
「ここか」
「うん」
二人は滝の周りを歩きいていると
礼司の持っている根付が光りだした
「ん?」
礼司は声を出して周りを見ると
2mほどの黒く大きな岩が根付の光のシグナルに反応して
「ゴーンゴーン」
と低い音を鳴らしていた
「この奥から音が聞こえるぞ」
「うん、聞こえる」
夕暮れの薄暮に大きな岩全体が青白く光はじめた
「どうすればいいの?」
「ああ」
礼司は鬼のノブをポケットから取り出し
右手に持ってそれをかざした
「入るぞ?」
「えっ?」
礼司は魔美の手を握った
すると二人の体は岩の中に吸い込まれると
そこは光り輝く洞窟の中だった
「何だ?ここは」
礼司が周りを見渡すと
金や刀剣、陶器が数十メートルの洞窟の中に並んでいた
「金銀財宝だ」
「ああ、佐々さんが見たら驚くだろうな」
「うん、キャー」
魔美が洞窟の奥を指差すと
人の形が浮かび上がった
「何だ?」
礼司はそれに近づくと
「甲冑だ」
「うん」
「正真正銘の平安、鎌倉時代の物だ」
「分かるの?」
「ああ、安土桃山時代つまり織田信長の時代はもう少し体にフィットしている、
あの首無しの武者の様にな」
「ああ、そうか」
「これも鬼だ」
礼司は兜の星(額の)部分を指差した
「本当だ」
そして鎧の腰の部分を見ると
そこには白鳥の羽が織り込んであった
「おい、魔美」
「はい」
「白鳥の羽があったぞ」
それは、古くなって色が黄ばんでいたがまさしく
白鳥の羽だった
「魔美これだ」
「うん根付もピカピカ光っている」
礼司は羽を取り手に持って
「行くぞ」
「うん」
礼司は魔美の手を握って鬼のノブを掲げると
岩の前に戻った
礼司と魔美は車に戻り佐々に電話をした
「佐々さん見つかりました」
「本当ですか?」
「詳細は戻ってから」
「私の方も鏃が出来上がります」
「では、家元のところで」
「はい」
礼司が30分で家元の道場へ着くと
弟子が迎えに来た
「家元はまだ作業中です」
「分かりました。我々が着いたと伝えてください」
「分かりました」
そこへ佐々が鏃を持って
道場に着いた
そこへ藤間と家元が出てきて
「箆が出来上がりましたお入りください」
礼司たちが中に入ると
「夜野さん矢の胴体作るのにそんなに難しいの?」
「うん、まっすぐにしなくちゃいけないのと節目を合わせなくちゃいけないんだ」
「そうか」
魔美は納得した
「この5本に鏃と矢羽をつけます」
家元が鏃を見て箆と合わせながら
「大丈夫ですねうまくはまりそうです」
そして矢羽を見ると
ずいぶん黄ばんでいますね
「はい、500年前の白鳥の羽です」
「えっどうやって?」
「話せば長いです」
「解りました。すぐに作業に入ります」
礼司と魔美と佐々は部屋をでると
弓道場のある椅子に座って
「夜野さん、名古曽の滝で何があったんですか?」
「宝物がある洞窟を見つけました」
「本当ですか?私もあそこの発掘に立会いましが
洞窟なんてありませんでしたよ」
「そこにあった鎧から抜いてきました」
「そ、もったいない」
「蛇腹が多かったからたぶん鎌倉時代の頃かな?」
「ええっ?」
佐々は肩を落とした
「他には?」
「金銀財宝、刀、お皿、壺」
魔美が元気な声で言った
「夜野さん、もう一度聞きます。どうやって入ったんですか?」
「内緒、あはは。佐々さん」
礼司が佐々に体を近づけて目を見て
「普通の人間が入れない場所があるという事は、誰にも取られたくない物が
隠されていたに違いない、だからそっとしておきましょう」
「でも・・・」
「いつか連れて行きますよ」
「お願いします」
パーン、パーンという音が聞こえる弓道場を見ると
るなが重藤の弓で矢をほとんど星的に放っていた
「ねね、るなさん100発100中よ」
「おお、すごいな」
魔美の声に気がついたるなが近づいて
「魔美さんやってみます?」
弓を魔美に渡した
「私は子供の頃から母から弓道を習っていたんです」
魔美は矢を放つと星的のど真ん中に当たった
「すごいです、魔美ちゃん」
魔美はるなに打ち方を教わって
矢を放つと星的のど真ん中に当たった
「すごいです、魔美さん」
るなが手を叩くと魔美は二矢目を放った
その矢は先に的を得た矢の上に刺さり
「す、すごい私には出来ない」
るなは魔美のすごさに手が震えた。
魔美は3年前鬼に負けた自分の払拭するように
矢を放った。
「るなさん自分を信じろそうすれば100発100中だ」
るなはその言葉を遠い昔に聞いたような気がした
「佐々さん、日が暮れてきました」
夜野が鏡鬼が出そうな予感に佐々に言った
「ええ」
佐々は外を見渡すと窓ガラスに自分の顔がうっすらと浮かんだのを見た
「何も無いと良いんだが」
礼司も窓に近づいて自分の顔を見た
その時ガラスの向こうに黒い不吉なものを感じた
「魔美、出るぞ!!」
「えっ?」
京都三条の骨董店 三吉
壁にかかった古時計が七回鳴ると
「さてと」
店主が店を締めるために入り口へ向かった
そして、その途中に古い鏡を何気なく見ると
それは眩しく光った瞬間
ライオンのような声が店中に聞こえ
店主の頭が消えて首から下は立ったまま
シャワーのように血を噴出し
店の天井へ吹き上げ真っ赤に染めていた
19時半
烏丸の美容院シャルレシャンプーを終えた
OL風の女性が鏡の前に座ると
美容師が
「今日はどのようにしましょう?」
「ええと」
その時OLの頭に暖かい液体がかかってきた
「キャー」
目の前が真っ赤に染まったOLの
肩に両手を乗せた頭のない美容師が
立っていた
20時
京都駅前の京都タワーの展望台で
腕を組んだカップルが外を眺めて
「きれ・・・・・・」
男の声が途中で切れたのを気にした女性が
顔を上げると「キャー」
頭の無い男が首から血しぶきをあげ立っていた
「さあ出来たぞ」
家元と藤間が五本の矢を持って出てきた
「るな、この矢を射ってみろ」
「はい」
るなが射った五本の矢はすべて星的に当たった
「るな大丈夫か?」
家元が聞くと
「はい、大丈夫です」
「よし、後は御祓いだ」
藤間が言うと礼司の電話が鳴った
「夜野さん、浜田です。鏡鬼が出ました」
「ん?東京でか?」
「いいえ、京都です三人喰われました」
「分かった」
礼司が電話を切ろうとすると
「川島先生と僕は京都にいます」
「呼んでいないぞ」
「何かお役に立てると思いまして」
「そうか」
礼司は二人が来て心強かった
「京都市内で三人が鏡鬼に喰われたそうです」
「えっ」
家元、るな、藤間、佐々、魔美が振り返って
礼司を見た
「後何人喰われる?」
「どこで退治するんだ?」
パニックに陥った家元と藤間が次々に聞いた
「ええ、23時まであと三時間ですから五~六人は危ないですね」
「そんなに?それまでに何とかならないですか?」
藤間が自分の責任を感じて心配そうに聞いた
「藤間さん、400年前はどうやって退治したんですか?」
「月の光を銅鏡の絵模様に当てて鏡鬼を呼び込み、そこに矢を射ったそうです」
「場所はどこですか?」
「京都御所の中の池のそばに祭壇を作ったと書いてあります」
「そうですか、天皇の前ですか。なるほど」
「はい」
「ところで、穴の開いた鏡はどうするの?」
魔美が藤間に聞いた
藤間は困った顔をして首を横に振った
突然、礼司の頭の中に光が走ると
険しい顔になった、礼司は
「みんな、鏡神社に行くぞ」
「どうしたんですか?」
「呼んでいるんだ」
礼司は車に乗り込むと
「魔美、藤間さん、るな行くぞ」
「は、はい」
三人が車に乗ると礼司は鏡神社へ向かって猛スピードで
走り出した
「おい、浜田何処だ?」
礼司が電話で聞くと
「今、レンタカーを借りて電話をしようと思ったところです」
「じゃあ、鏡神社に来てくれ、手伝ってもらいたい事がある」
「分かりました」
礼司が鏡神社に着いて
鳥居の周りを歩いて見ていると
「夜野さん、どうしました?」
「藤間さん、この鳥居から向こうにつながっている溝は何ですか?」
「ああ、私も気にはしていたのですが意味が分かりません」
「ええ、北のほうに向かっていますね」
「ええ」
「ひょっとしたら、北鳥居の・・・」
「私はご祈祷の準備をしてきます」
藤間は住居のほうへるなと入っていった
礼司は鳥居を押し始めた
「何やっているの?」
魔美が不思議そうに聞くと
「動かしている」
礼司は怒ったように返事をした
「これが動くわけ無いわよ」
「いや」
礼司は台石のあった楔をはずすと
ゴトンと音がした
「動きそうだな」
「うん」
礼司と魔美が押すと
何センチか動いた
「どうしました?」
奇妙な音を聞いた藤間が出てくると
「鳥居が動きます」
「えっ?」
「ここの鳥居は北へ動かせるんです」
「北向きの鳥居なんて・・・」
「ええ、北からの魔のエネルギーを呼び込むんです、手伝ってください」
「はい」
「魔美たちはこの溝のごみを取ってくれ」
「はい」
魔美とるなは溝の掃除を始めると
はっきりと表れた。
「OKだ」
藤間は礼司に合図を送るとすると少しずつ鳥居が動き出した
「魔美押すぞ」
「うん」
「夜野さん動くよ」
「ああ」
礼司は力いっぱい押して藤間も来て一緒に押すと
動きが早くなった
「これだけ押して10cm、間に合わないわよ」
「ああ」
礼司は渾身の力を出して鳥居を押すと
急に動きが軽くなった
そしてあっという間に鳥居は北側に動いたので
礼司が振り返ると由美と浜田が後ろから押していた
「凄い力二人とも、ありがとう」
「私に言って、ちょっと熊さんの力を借りたのよ」
由美が力こぶを見せた。
「そうか、鬼の力を借りたのか」
「動きましたね」
藤間が鳥居を触っていると
北側から冷たい風が社殿に向かって吹いて来ると
社殿が光り出した。
「この北鳥居の意味って何?」
由美が不思議そうな顔で礼司に聞いた。
「太陽と月の力は陽、北の方向は陰の力だ」
「陰の力って鬼が強くなるんじゃないの?」
「いや、陰の力はすべての物を弱める力当然鬼の力も弱くなる」
太陽は東から西へ月も東から西へ移動するその途中南を通過する。
太陽と月のエネルギーを導く鳥居によって社殿にエネルギーが届く
したがってエネルギーを発する物がない北を向く鳥居は存在しない。
「藤間さん。こちらが我々の仲間の東京から来た
浜田君と川島君、警視庁の捜査一課の刑事と女医さんです」
「よろしくお願いします。藤間です」
藤間が二人に挨拶をすると
二人は軽く挨拶をして
「夜野さん、月が真南に入りますよ」
浜田が月を指差すと月からの光を
放ちながら社殿に引き込まれていった。
「藤間さん北に向かって祭壇を作りましょう」
「は、はい」
藤間は祭壇の準備をしている間
浜田に聞いた。
「浜田、殺された連中の共通点は?」
「ええと、三人とも男性で三条、烏丸、京都駅と南下しています。
30分おきに」
メモを見て話す浜田に礼司は
「じゃあ、四人目が10分前に九条で男が死んでいるわけか?」
「えっ?」
浜田が電話をかけて確認した。
「隊長、10分前の21時30分に九条のレンタカーの
店員が車の窓に首を突っ込んで死にました」
浜田が大声で怒鳴った
「隊長、次は何処ですか?」
由美が聞いた
「後20分後に十条かその先の伏見か辺りだろう」
「そこには称光天皇のお墓があります」
藤間が言った。
「ん?何か関係があるんですか?」
礼司が聞いた
「ええ、この銅鏡は称光天皇と縁のものです」
「分かった21時に伏見だ。藤間さん急いで鏡を修復しましょう」
「でもどうやって?」
礼司は銅鏡を持って祭壇に飾り南を向けると
鏡が月の光を受けた反対側の
空に雲が浮かび上がった。
「反応したぞ!!」




