十五章 鏡鬼
鏡鬼
プロローグ
池袋の線路沿いにあるラブホテルの
バスルーム風呂上りの幸子がバスタオルを
巻き鏡に自分の顔を映していた
すると突然後ろから
男がいきなり頭を持って
鏡に頭をたたきつけた
すると幸子の額から血が流れ出し
鏡がステンドグラスのように真っ赤に染まっていた
12時昼の過ぎの東武東上線
埼玉県から池袋向かう電車である
登り急行が成増を通り過ぎると
金髪の少女が鏡を膝の上に乗せて化粧を始めた
揺れる電車でアイライン引き
マスカラを塗った時
脇に座っていた男の顔に
暖かい液体がしぶきになって
付いた
男がその方向を見ると
頭部の無い少女の体は
席に座ったまま
頭の無い首から
どくどくと血を流していた
首都高を走る
高速で走るローリング族
赤いGTRは次々に前の車を抜いていく
汐留から銀座で前のトラックを抜くと
赤い車の男はバックミラーを見た
その時
男の視線は目の前から消え
宝町の壁にぶつかって
大破し救急車のサイレンの音が聞こえた
運転席には頭の無い首から
車の天井に血を吹き上げていた
新宿大学病院の病室で
寝ている沢村を目の前にして
礼司と由美が話をしていた
「どうだ?」
「まだ戻りません」
「そうか」
「ところで富田順子はどうして死んだのかしら?」
「まじめな彼女は悪い人間を送っていて
次には病院で死期の近い老人」
「ええ」
「最後は普通の人、国土交通省の警備員と次官と職員を送ってしまった」
「どうして国土交通省の人ばかり狙ったのかしら」
「それはあの近くに無駄なトンネルを作る計画があの社の下を通る事に
なっているらしい」
「そうかそれを阻むように命令されたわけね」
「うん」
「そうね、最後の四人は殺されるような人じゃないわね」
「ああ、それで彼女は良心に苛まれ自殺したんだ」
「自殺?」
「ああ、良く見たら最後の一枚は自分の写真だった」
「そうなんですか」
由美は下を向いた
「でも、もし写鬼の手先が富田順子じゃなかったら」
「それこそ、デスノート並み死んでいたろうな」
「それに呪鬼はまだ生きているわ」
「うん」
その時、うめき声と共に
沢村が目を覚ました
「ん?大丈夫か?沢村」
「沢村さん」
「あっ、隊長ご心配かけました」
「こっち来たか」
「はい」
「良し、後二人」
礼司は手を小さく握った
「良かったわ」
由美が沢村の顔を覗き込むと
沢村が
「あっ、由美さんただいま」
「お帰り」
礼司は病室の外へ出て浜田に連絡をした
「おい、沢村がこっちへ来たぞ」
「そうですか。夜野さん大変です。連続で謎の死体です」
「どうした?」
「頭が無くなっています」
「頭?」
「はい」
「鬼か」
「たぶんそうです」
「それで警察は?」
「今回は捜査しますけど、犯人は捕まえられないでしょうね」
「あはは、そうだな」
「今から会えますでしょうか?」
「新宿大学病院へ来てくれ、沢村が会ったら喜ぶだろう」
「はいすぐに行きす」
礼司が病室へ戻ると魔美がいた
「お疲れ様」
魔美が礼司に挨拶をした
「やっぱり鬼か?」
礼司が魔美の方を向くと
「うん、今度は強敵よ」
「うん」
「そう言えば沢村さんどこに住むの?」
由美が聞いた
「ええ、山形じゃ不便だしまさか仕事をやめる訳にいかないし」
「そうだ。もう一人の沢村さんがあっちの世界へ戻った時、無職じゃな」
「隊長、沢村で良いですよ」
「由美、今日退院できそうか?」
「ええ、意識が戻れば問題ないそうよ」
「隊長、山形に一度戻って考えて見ます」
「おお、そうだな」
そこに浜田が病室に入ってきた
「おお、沢村」
「久しぶり、浜田」
二人は強く握手をした
「浜田、やはり鬼だそうだ」
礼司が浜田に言うと
「そうですか」
「鬼の名前は鏡鬼」
魔美が言うと
浜田はうなずきながら
「被害者は二人です」
「頭が食われてしまったのね」
由美が気持ち悪そうに答えた
「ええ」
「えっ」
沢村がしかめ面をした
「それで?」
礼司は魔美に聞くと魔美が答えた。
「鏡が人間の頭を食べるの?」
「いつ、どこで?」
「鏡があればどこでも」
「ああ、それは手ごわいな」
「被害者に共通点がありますか?」
魔美が浜田に聞くと
浜田はうれしそうに答えた
「一人は電車の中の18歳のフリーターの女性もう一人は
運転中の22歳のサーキット族の二人です」
「鬼に食われた場所は?」
「女性の方は東武東上線、男性の方は首都高速の宝町です」
「共通点は無いですね。女性は埼玉、男性は東京の高島平に住んでいます」
「そうだな、じゃあ鏡鬼は無差別に人を食っている事になる」
礼司は困った顔をしていた
「そうね、今のところは、でも共通点が有るかも知れないわ」
魔美は礼司の顔を見て言うと
「そうだな」
「隊長とりあえず明日、山形に帰ります。仕事がありますから」
「そうだな、何かあったら呼び出すからな」
「はい」
「沢村それと山野の事で知っていることないか?」
「ええと、確かお母さんが美容師だって聞いています」
「そうか、ん?美容院は鏡だらけだぞ」
「このまま鬼を退治しないと、美容院は怖くていけませんね」
由美が恐ろしく感じていた
「まさか、山野は美容師になっているかもしれないな」
「そうですね、私と同じように警察じゃなくて医者みたいに」
由美が言うと
「あはは、あんなごつい美容師がいたらお客さんが逃げますよ」
格闘技の猛者、山野の姿を思い浮かべて沢村が言うと
「あはは」五人は大笑いをした
「そうか、山野さんと言う人が経営している美容院を探して
見ればいいのか」
「それなら、代々木にある全美連に行けば調べられるわよ」
由美が言うと
「全美連?」
「ええ、全日本美容業生活衛生同業組合連合会」
「すごい、良く名前覚えられるなあ」
魔美が言った
「うふふ」
由美が微笑んだ
「行ってみるか」
「えっ、夜野さんが?」
「そうだよ」
「きゃー、何か変」
魔美は礼司が細かい調べ物をするのがイメージに合わなかった
「なんだよ、とにかく俺も仕事に戻らないと」
「はい、じゃあ私帰ります」
魔美が残念そうに言った
「帰るのか?鬼が現れているのに」
「だって今の段階で手がかりが無くちゃ。鬼退治できないでしょ」
「まあな」
その日の夜
山手線の駒込駅を過ぎて田端駅へ向かっていた
酔ってつり革にもたれ掛かっていた
40歳過ぎのサラリーマンが
揺れて目を覚まし窓ガラス越しに
操車場を見ると
男は自分の顔を見た
その瞬間
「ガオ」というライオンの声のような
聞こえると
男の頭が消えて無くなっていた
手はつり革にぶら下がった首から
血を回りに撒き散らしていた
19時東京駅で客待ちをしていた
夜野のところに浜田から電話があった
「夜野さん事件です。また鬼が出ました」
「何?どこだ?」
「田端駅近くの山手線の中です。今から行きます、話し聞いてください」
「東京駅だ」
「すぐに行きます」
「近いから迎えに行くよ」
「ええー、タクシー代払うんですか?」
「当たり前だ、こっちは勤務中だ。業務妨害だぞ」
「わかりました」
礼司は10分もかからず警視庁の前に着いた
「お待たせいたしました」
礼司はドアを開けた
「勘弁してください、そんな言い方」
「ところで、被害者また化粧でもしていたのか?」
「いいえ、被害者は男です」
「鏡は?」
「いいえ、遺品には鏡はありませんでした」
「それって、ひょっとしたら、窓か?」
「かも知れません」
「そうしたら大事だぞ」
「はい、早く退治してください」
「待てよ、魔美がいないぞ」
「そうか・・・ひょっとしたら明日の朝までにまた人が死ぬかも知れません」
「うん、ところでお客様どちらまで?」
「えーと有楽町駅まで」
「おい、飲んで帰るのか?」
「いいえ、有楽町から日比谷線に乗ります」
「ああ、せこい事言っているな、家はどこなんだよ」
「中目黒です」
「そこまで行けよ、経費で落とせるだろう」
「はいわかりました」
浜田はしぶしぶ返事をした
「よし、出発」
「止めて下さいよ、子供みたいに」
「あはは、ところで彼らの共通点はありそうか?」
「ちょっと待ってください」
浜田が手帳を開けると
「まず塚田道子18歳新宿の居酒屋に勤めています」
「うん」
「宝町で死んだのは東幹夫22歳、目白駅近くの
カーセキュリティーを取り付ける工場に勤めています」
「うん」
「山手線で死んだのは小西栄一42歳池袋の百貨店に勤めています」
「共通点と言えば三人とも池袋駅が通過地点か」
「あ、いいえ東幹夫は自動車通勤ですから、池袋は通過地点じゃないですね」
「そうか。じゃあ二人は池袋で出会っている可能性があるな」
「まあ、そうですね。でも」
「捜査が出来ないと言う訳か」
「はい」
「鏡のある仕事はなんだ?」
「ええと、美容院、床屋、洋服屋」
「それと靴屋、眼鏡屋」
「トイレにもありますよ」
「じゃあホテルもあるぞ。ん?」
「どうしたんですか?」
「池袋のホテルで誰か死んでいないか?」
「どうしてですか?」
「以前、鬼の現れる原因を話したよな」
「ええ、地縛霊に血がかかると鬼になるんですよね」
「そうだ」
「わかりました」
浜田は宿直の刑事に電話をした
そしてその内容を礼司に話した
「わかりました、おととい池袋のラブホテル『ラ・セゾン』で女性が殺されています」
「やっぱりな」
「被害者は井上幸子さん32歳の人妻で相手は25歳の会社員です」
「うん、不倫か」
「ええ、頭を鏡に叩き付けられて死んでいます」
「そんなもんで死ぬか?」
「それが割れた鏡で首の動脈を切って」
「なるほど、その血が地縛霊にかかったわけだな」
「では鬼はホテルにいるわけですね」
「そうなるはずだがまだ不安だな、池袋へ行って見る」
「ええっ?」
「大丈夫だよ、中目黒で降ろしたら山手通りを流してみる」
「了解です」
浜田はホッとした
礼司はタクシーを流しながら何人か客を乗せ
池袋へ着き
西口のホテルラ・セゾンの前に立って根付をかざした。
根付は光らず鏡鬼の居る気配が無かった
「いないなあ」
ラブホテル街をうろうろ歩く
礼司をうさんくさく見る行きかう
カップル達はそれを避けながら
歩いていった
「夜野さん、今何処?」
由美から礼司の元に電話があった
「池袋のラブホテル街だ」
「一人で?」
「ああ」
「大丈夫?」
「何が?」
「みんな、変な顔をして行かない」
礼司は周りを見渡すと
「なるほど、そう言えばそうだな」
「今から行くから待っていてください」
「ん?」
「今池袋の東口だから」
「そうか、じゃあ北口で待っている」
「はい」
由美は10分ほどで池袋駅北口に来た
「お待たせいたしました。行きましょ」
「ん?どこへ?」
「ホテル街です」
「おお、そうか」
二人は線路沿いに西池袋のラブホテル街へ向かうと
「池袋で何をしていたんだ?」
「飲んでいました」
「そうか、それで?」
「浜田さんから連絡があって夜野さんが池袋の捜査へ行ったって」
「なるほど、浜田。気にかけてくれたんだ」
「そうですね、うふふ」
「何笑っているんだよ」
「すみません、夜野さんかわいいなあと思って」
「そうか?」
礼司は照れて言った
「ところで、誰と飲んでいたんだ?」
「うふふ、内緒」
二人がラ・セゾンの前に着くと
「さあ、入りましょう」
「えっ?」
由美は礼司の手を引いた
「ま、まずいよ」
「何へんな事考えているんですか」
由美は受付を会釈して通ると
「301号室です」
「うん」
301号室の前に着いて
由美がノックをすると
ドアが開いた
「おお、浜田」
「お疲れ様です」
「何で居るんだよ」
「だって、隊長がここへ来るって言ったじゃないですか」
「そりゃそうだが、直接俺に連絡をすればいいだろう」
「でも、タクシーを流しながら池袋に来るとおっしゃたので先に
調べておこうと思っていたんです」
「あはは、なるほど」
「とりあえず、現場を見てください」
「ああ」
礼司が浴室の前の洗面所の前に立つと
目の前の鏡全体にひびが入り
てっぺんの角の部分が
無くなっていた
「浜田、そこの部分が首に刺さったわけか」
「はい」
「犯人はいつ捕まった?」
「犯人の土田隆はおとといの20時30分に井上幸子を殺害して
翌朝上野駅で逮捕されたんです」
「なるほどそれで、昨日の昼に塚田道子、夜に東幹夫
そして今日の夕方に小西栄一が喰われたわけだ」
「はい」
礼司はひびの入った鏡に手を当てて目を閉じたそして目を開いて言った
「犯人はどこにいる?」
「まだ、上野警察署から池袋警察署に移送されているはずですが」
「ぜったい犯人に鏡を見せないようにしなくてはいけないぞ」
「えっ?」
「次は絶対犯人が喰われるぞ」
「わ、わかりました、池袋警察に行って見ます」




