十四 写鬼
写鬼
ある山の中にある御堂
その中に護摩を焚いている僧侶が読経を唱え
白い皿の真っ赤な液体を筆につけ白い紙に信玄と書いて
火の中にくべると火が倍の大きさに燃え上がり
その火は龍の形になってまぶしく光った。
******
夕方の東京駅、
男が大阪からの新幹線が18番線ホームに着き
ドアが開くと若い女性の声が聞こえた。
「きゃー」
「大ちゃん」
男は腰が低く頭をぺこぺこと
下げながら階段に向かって歩いていた。
「だれだれ?」
「花田大作よ」
女子高校生らしい少女が隣に居た友人に聞いた
「恵子、誰だか知らないの?」
「うん、何やっている人の?」
「芸人」
「あっ、私お笑い見ないから」
花田大介は階段をおり新幹線改札を出ると
突然胸を押さえて倒れ痙攣を起こした。
「きゃー」
さっきまで囲っていた周りの女性が悲鳴と共に離れた
騒然とする改札口には駅員や救急隊員や鉄道警察隊が集まってきた
その騒ぎをよそに東京駅八重洲口で客待ちをしていた
礼司に番が来て妻を気遣う老夫婦の荷物をトランクに入れた。
「どちらまで?」
「羽田までお願いいたします」
男は東北訛りで言った。
「はい」
礼司が返事をしてタクシーを走り出すと
男が話しかけてきた。
「運転手さん」
「はい」
「さっき新幹線の出口で花田大作が倒れていました」
「えっ?どうしたんですか?」
「ファンがスマフォで写真を撮っていたら急に胸を押さえて」
「まだ若いのにねえ」
「芸能人は食事の時間も寝る時間も不規則ですからね」
礼司はバラエティディレクターで大介と
仕事をしていた頃を思い出しながら言った。
「そうなんですか?」
「ええ、みなさんが思っている以上に業界には
裏があるんですよ」
「なるほど」
男は妻の手をぎゅっと握った。
その時、二人の生きる強さが弱っているのに礼司は気がついた
「どちらまでいらっしゃるのですか?」
「はい、別府です」
「あの~、ご主人」
「はい」
「死じゃだめですよ」
「は、はい?」
「まだ、奥さんの認知症それほどひどくならないですよ」
「わ、わかるんですか?」
男は体を乗り出した。
「はい」
「でも、最近徘徊がひどくて私はこいつを何度殺そうかと思ったか」
「いいえ、今住んでいらっしゃる場所が悪いんです。
塀のそばに大きな庭石がありますよね」
「は、はい」
「その下に女性の人骨が」
「ええ?でも住んだのが曽祖父の代ですから
100年以上になるはずですが」
「そうですね、でも近くに最近道路が
出来ませんでしたか?」
「はい、山側にトンネルを掘っています」
「それで井戸が枯れた」
「そ、その通りです」
「まったく。道路特定財源は自然を壊しやがって」
礼司が昔テレビ局を辞める原因の一つは政治の金の問題を
追求してある党に嫌がれていたからであった。
「それで、家の周りの気の流れが変わったんです」
「それで、どうすれば?」
「とりあえず奥さんの寝室を変えてください。
できるだけ石から遠く」
「はい」
男は元気に返事をした。
「もし、ご予算があれば石を取ってください」
「はい、早速造園屋に電話をします」
「はい遺骨は古いですから、供養してください」
男が言うとさっきまで黙っていた女性が
突然声を出した
「はい、ありがとうございます」
「どういたしまして、あはは」
男は妻の顔を見て驚いていた
「か、勝子」
男は妻の手を握って
声をだして笑った
「あはは」
礼司が運転したタクシーが羽田に着くと
「ありがとうございました」
男はぺこぺこと頭を下げて礼を言うと
男は20,000円を礼司に渡した。
「これ料金とチップです」
「こんなに」
「いいですよ。死のうと思っていたんだから安い物です」
「ありがとうございます」
礼司はお金を受け取って走りだした
「ああ、死ぬ気だったんだ」
ルームミラーで後ろを見ると
着物を着た女が後ろのシートに座っていた。
「成仏してください」
その女の霊は軽く頭を下げて消えていった
スマフォの電話が鳴った。
「こんにちは、由美です」
「おお、しばらくどうした?」
「明日会いしませんか?」
「いいよ、休みだから。何かあったか?」
「ええ、残りの連中の事が心配で」
「そうか、わかった」
「そうそう、さっき花田大介
が病院に運ばれてきたわ」
「死んだのか?」
「ええ」
「じゃあ明日な」
「はい」
礼司がスマフォを切ると
すぐに電話がなった。
「浜田です」
「おお、しばらく」
「夜野さん、花田大介が急死しました」
「おお、由美に聞いた」
「ああ、先を越された」
「それで?」
「明日お休みですよね」
「だめだ、由美とデートだ」
「本当ですか?」
「うん」
「自分を仲間に入れてくださいよ」
「わかったよ」
翌日、礼司は1時に新宿のアルタの前で
由美と待ち合わせた。
礼司が早めに着くと
「おい、魔美。何でそこにいるんだ」
「あはは」
魔美がうれしそうに笑った
「鬼でも出たか?」
「うん、それがおかしいのよ」
その時、目に前にあるビルの
大きなモニターに映し出された
のは、花田大介の死亡と
東京駅の警備員が
二人死んだニュースだった。
「魔美、これおかしいぞ」
「うん」
そこへ由美と浜田が現れた
「お待たせしました」
「あら、魔美ちゃん」
「こんにちは」
四人は礼司と魔美が以前一緒
行ったフルーツパーラーに入った。
礼司は席に着くとメニューを
見ながらしばらく悩んでいた。
「夜野さんまだ決まらないんですか?」
浜田が聞いた。
「うん、全部食べたいから」
「うふふ、子供みたい」
魔美と由美が笑った。
パフェが届くと礼司は両手を合わせて
「いただきます」
言った。
「な、なんだよ」
「ああ、向こうの隊長は
もっとかっこよかったのに・・・」
由美はそう言うと、時々自分の二つの記憶を
うまく調整できてきた事に驚いていた
「昨日の事件変じゃない」
魔美が話の口火を切ると
「ああ、警備員が死んだやつか」
「同時に二人死ぬのは変ね」
「デスノートか?」
「だめだめ、パクッちゃ」
「夜野さん今度の鬼は?」
浜田が聞いた
「見えない」
「魔美ちゃんは?」
「私もわからないの」
「ところで花田大介の死因は?」
礼司が由美に聞くと
「心不全」
由美がぶっきら棒に答えた
「でもおかしいな。口から血を吐いていなかったか?」
「えっ?吐血の後は無かったわよ。どうして?」
「いや、口から血が霧吹きのように
吹き出る映像が見えたから」
礼司は腕を組んでしばらく考えると
「やっぱりデスノートだ!!」
礼司のジョークに三人は
呆れ顔で礼司を見た
「今までは向こうで鬼のデータが調べられたのよ」
魔美が言うと
「魔美今回は正体が見えないのか?」
礼司はまじめな顔をして言った
「うん」
「まるで呪いだな」
「呪いですか?」
浜田が驚いて聞いた
「でも警備員二人を呪う人はいないわ」
由美が言うとすかさず浜田が言った
「これじゃ事件性が無いので警察も動けないし」
「じゃあ、俺たちはどうしようもないな」
礼司があきらめるように言った
「ところで、沢村さん、山野さん、白尾さんをどうやって探せばいいですか?」
由美が話を切り替えた
「うん、そうだな。まず考えられるのはこっちと向こうの
世界の名前と顔が一緒だという事だ」
「写真はないので、似顔絵を描いてもらいましょうよ」
「おおそうだな、似顔絵を描いてくれたのは島津さんだっけ」
「はい、頼んでおきます」
「それより夜野さんの能力で探せないの?」
魔美が礼司に聞いた
「それがなあ何か近くに居そうな気がするんだ」
「ええ、そうなの?」
「浜田、一応警察関係者で沢村、山野、白尾が勤めているか調べてくれ」
「はい」
「でも、私は医者だったわ」
由美が言うと
「君の場合は医者の娘だったろう」
「そうです」
「最後の選択が向こうの世界と違っていただけだよ」
「そうか、それで私が医者になっても警察と関係が有るわけね」
由美が納得したように話をした
「そうだ、互いに干渉しあっている」
「そうなると沢村はバイク関係、山野は格闘技、
白尾は女性だから何んでしょうか?」
浜田が礼司向かって聞いた
「沢村さん、山野さん、白尾さんの出身地がわからないかしら?」
魔美は二人に聞いた
「白尾さんは京都出身よ」
由美が言うと
「山野は東京で沢村は確か東北だった」
浜田は思い出して言った
「京都か・・・・」
礼司が腕を組んでうなるように言うと
「何?何か感じた?」
魔美が体を乗り出すと
「いや、和菓子がうまそうだ」
「ばか」
そこに浜田のスマフォがなりしばらく話をした後に
「また、人が亡くなりました。」
「えっ?今度は?」
「新宿で二十歳代の女性です」
「死因はまた?」
「ええ、突然倒れたそうです」
「これって共通性がないわね」
由美が断言するように言うと
「有るかもしれない」
礼司が言うとすぐに魔美が言った
「なんか感じる・・・」
「じゃあ、鬼の仕業?」
子供の頃から成績のいい由美は若い女の気持ちが
わからず魔美にたずねた。
「わからないけど俺も感じる」
礼司の言葉に由美の疑いの目が消えた
「でも、どうやって殺したんですか?」
浜田は胸を押さえた。
「やはり呪いかしら?」
「恨み?」
三人の声を聞いた礼司は
「ちょっと死んだ現場行こう、浜田場所はどこだ?」
突然席を立った
「新宿の地下街ですが」
「おお」
礼司と浜田は立ち上がって店を出ようとすると
魔美は礼司を追った
「ああ、お金」
礼司は魔美にお金を渡すと
さっさと歩いて行ってしまった
「場所わかるのかしら?」
「大丈夫ですよ。隊長なら」
「そうか」
三人は礼司の後を追うと
事件のあった場所の前で腕を組んでいた。
「死んだ女性の霊が見えない」
「ええっ、もう行ってしまったの?」
魔美が聞いた
「ああ、急死をすると本人が死んだのがわからなくて
霊が残っていてもいいはずなんだが」
「死体についていったかも」
「ああ、そうだな」
「そうじゃなければ自分が死ぬのがわかっていた」
「魔美、魂を食う鬼は?」
「いっぱいいるけど」
「すぐに調べてくれ」
「はい、じゃあ戻らないと」
「たのむ」
「OK」
魔美は走って新宿駅へ向った
「浜田検案書をすぐに入手してくれ」
「はい」
礼司と由美は新宿大学病院に着くと
検案室へ女性の死体は運ばれていた
「隊長は入れませんよ」
「わかっているよ、それより人がいる時は
隊長はやめてくれ」
「はい」
由美は白衣に着替えゴムの手袋をして
検案室に入った
ドアの向こうから見ていた礼司は
「あっ」
驚きの声を上げた
それは霊のが死体のそばにもいなかったのだ
しばらくして出てきた由美は礼司の元に来た
「夜野さん」
「おつかれさん」
「富田順子さん25歳、なんの形跡もないただの心不全」
「何かおかしい所は?」
「ええ、少し・・・」
由美が首を傾げた。
「何?」
「体重が異常に少ないんです。身長が158cm、体重が37kg」
「それは少なすぎる、原因は?」
「それと体重が少ない理由は極端に少ないんです。
生きている時は極度の貧血に悩まされていたんでしょうね」
「そうか」
礼司は貧血に悩ませながら必死で働いて様子を
思い浮かべた。
礼司は浜田に電話をして説明をした。
「ところで、警察の方では死因の捜査していないのか?
せめて今日の富田さんだけでも状況を知りたい」
「分かりました、私が捜査してみます」
「頼む」
「それと、警視庁の白バイ隊には沢村と言う男はいませんでした」
「そうなると、どこかの県警かもしれないな、
警察になっているとは限らないしな」
「意外とバイク屋になっているかも知れませんよ」
「あははそうだな」
「では、新宿地下街に戻って聞き込みしてみます」
しばらくすると魔美から連絡が入った
「今どこ?」
「新宿大学病院で由美と一緒だ」
「すぐ行くわ」
魔美がスカートを翻し走ってきた
「鬼が見つかったわ」
「どんな鬼だ?」
「ええ、呪鬼と言う鬼」
「呪いか」
「うん、呪いをかけて魂を食う鬼よ」
「誰が誰に?」
「この鬼は日本のどこかに住んでいて、鬼が住んでいる火の中に
殺したい人間の名前を書いて祈祷するの。すると・・・・・」
「死ぬわけか」
「うん」
「そんな祈祷師が現代にいるのか?
依頼者と祈祷師、二人いるわけか」
「ええ」
「その鬼はどこにいる?」
「わからない」
そこへ浜田から電話があった
「隊長、国土交通省の次官と職員の二名亡くなりました」
「えっ?次官が?」
「テロか?」
「また原因不明だそうです」
「ちょっと調べてほしい事が有るんだが」
「はい」
「富田さんの出身地調べてくれ」
「は、はい」
礼司が電話を切ると
「魔美、それと国土交通省の役人が二人死んだそうだ」
「それも鬼?」
由美が興奮していた。
「そうかもしれない」
「私、情報を調べてみます」
由美は事務室に戻っていった
「魔美、俺たちは歌舞伎町へ向かって浜田と
合流する」
礼司と魔美は歌舞伎町の
富田順子が勤めていた居酒屋で浜田を待った
「やはりここにもいないようね」
「ああ、彼女の霊はどこへ行ったんだ」
「お待たせしました。富田順子の実家が分かりました。山形県の鶴岡です。」
後ろから浜田が声をかけた
「わかった」
「今から?行くんですか?」
「無理か」
礼司が肩を落とした
「浜田、彼女の人間関係捜査するのか?」
「事件ではないので動けないんですよ」
「えっ?そうなの?」
魔美は浜田の方を向いた
「俺達はこの辺りを歩いてみる、魔美いくぞ」
「はい」
礼司と魔美は歌舞伎町を歩き始めた
「魔美、ここにも地縛霊がいるな」
「うん」
「ホームレスがここで死んだんだな」
「ええ」
二人が歌舞伎町を歩き回って
居酒屋の前に戻ると浜田が立っていた
「はい、富田順子二年前からここの店に勤めていてその前は
看護師だったようです。友人関係あまり無かったようですね」
「どこの病院だ?」
礼司は声を上げた
「広尾の公立病院です」
「どうしたの?」
「いや、富田さんはおそらく鬼の被害者だ。
だが呪鬼にやられたわけではないだろう」
「そうですね、富田さんはとてもまじめだった女性で」
誰かに恨みをかった様子が有りません」
浜田は答えた
「そうなると、知りたいのは病院勤務の様子だな」
礼司は浜田の顔を見た
「えっ、それも聞いてくるんですか?」
「いや、無理にとは言わないけどな」
「わかりました」
そこへ由美からの電話が鳴った
「隊長、富田さんの役人の死因が判りました」
「なんだ?」
「心臓がありません」
「なんだって?」
「それと体重が少ない理由は血液が無くなっています」
「わかった、おつかれさん」
礼司が電話を切ると
「魔美、心臓を食う鬼っているか?」
「調べてみるわ」
「でも、富田さんは鬼に食われたのは事実ですね」
浜田は礼司の顔を見た
「ああ、普通心臓が無くなるなんて有り得ないだろう」
「浜田、富田さんが看護師を辞めた理由を調べたくれないか?」
「はい」
浜田はすぐに広尾へ向かった
「私達はどうする?」
「ちょっと、鶴岡へ行く準備をしなきゃいけないな」
「どうして?」
「魔美が言っていた呪鬼が鶴岡の近くに居るような気がする」
「そう言えばあそこは羽黒山が近いわね」
「でも、ガソリン代も高いなあ」
礼司は落ち込んだ




