十一章 煙鬼②
本棚を見ていた礼司が突然走り出した。
「魔美、行くぞ」
「どこへ」
二人は駅のほうに向かって走り出した
「夜野さん、どこへ行くの?」
「映画」
「な、なんなの?」
「ガス人間一号」
TUTAYAに入った二人はガス人間一号のビデオのパッケージを見た
「最後はどうなるんだっけ」
「ああ、閉じ込めて火をつけて爆発させるの」
「ええ、何で知っているんだ」
「パパが特撮マニアで『美女と液体人間』とか『伝送人間』を観ていた」
「参ったなあ、でも閉じ込めるのは難しそうだなあ」
「うん」
そこに浜田から電話があった
「夜野さん今どこですか?」
「TUTAYAにいるよ」
「じゃあそこの2階の喫茶店で」
「おお」
「五人の資料持ってきましたよ。はい、これが死んだ男の経歴です」
「うん」
そう言って礼司はリストを受け取った
「共通点は?」
「ないですね」
「そうね、年齢が20代。職業も学生とフリーター」
「魔美他に感じないか?」
「まさか不良じゃないよね」
「うん、渋谷は歩行禁煙少なくともそのルールを守っていないな」
「そうか、確かに駅前の喫煙所でタバコを吸っている人たちが死んでもおかしくないですよね」
「死んだ男たちの服装は」
「スーツだったり、Gパンだったり」
「小物は?」
「時計は違うし」
「ブレスも違う」
「何も無いよ」
「そうだな」
「共通なのは同じタバコを持っていますね」
「うん、マルボロ・ライト・メンソール・ボックス」
「メンソールか男には悪いな」
「やっぱり駄目なんですか?あれ」
「なにそれ、男に悪いタバコあるの?」
「いや何でも無い、あはは」
魔美は横目で礼司を見た
「何か何か共通の部分があるんだよ、頭にひっかかる物が」
礼司が下を見ると一人の女性が礼司の目に止まった
「彼女だ」
「なんですか」
「さっき死んだ少年の母親だ」
「解かるんですか?」
「うん」
「浜田さんさっきからそればかりね」
「俺ちょっと声をかけてくるわ、待っていてくれ」
「ええ?」
礼司は階段をおりて地下道の入り口に立っている女性に
声をかけた。その女性は20代半ばで必死の形相で交差点を
渡ってくる人たちを見ていた
「すみません」
礼司は声をかけた
女性は無言で目を動かしていた
信号が赤になり車が何台も通り抜けると
「すみません、息子さんの事で」礼司が話すと
女性は礼司の顔を見た
「息子さんここで亡くなったんですね」
「はい」女性は目に涙を浮かべていた
「息子さんどうして?」
「喘息の発作です」
「そうですか、今何を?」
「息子を殺した犯人を捜しているんです」
「えっ?発作じゃ」
「息子が発作を起こしたのはタバコの煙なんです、この混雑した所を
歩きながら吸っていた男を捜しているんです」
「あっ、ちょっと待っていてください」
礼司は2階へ駆け上がり
「浜田ちょっと下へ降りてくれ」
「は、はい」
三人が下へ降りると
「お母さん、犯人の男の顔を覚えているんですか?」
「はい、間違いなく」母親は鋭い目で答えた
「解かりました」
「浜田死んだ五人の写真を」
「はい」
礼司が写真を手に持って母親に見せた
「この中に犯人の男がいますか?」
母親は写真を見みて
「ここにはいません」
「ねね、じゃあまた母親の生霊が鬼を呼び起こしたの?」
「わからん」
「おかあさん、犯人をどんな特徴で捜しているんですか?」
「服装とタバコ吸っているかどうかです」
「そ、そんな」あまりのレベルの低さに浜田が驚いた
「お母さんゆっくり話をしましょう」
浜田と礼司たちは駅前の交番に母親を連れて行った
「浜田、できるだけ事をしよう、煙鬼を退治できる手がかりがあるかも知れない」
「はい、似顔絵をかける者を呼びます」
「ありがとう、あっそれとこれを取り寄せてくれ」
礼司は浜田にメモを渡した
「ええ、二硫化炭素とアンモニアですか?」
「ああ、二硫化炭素は手に入れにくいが何とか頼む」
「はい、同級生に製薬会社の研究所に勤めている者がいます」
「頼むよ、俺一応毒物劇物取扱責任者の免許持っているから大丈夫だよ」
礼司は胸を叩いた。
「はい」
「じゃあ今度こそ武器買ってくるから」
「では、母親に事情を聞いておきます」
浜田は母親に事情を聞くことにした。・。…
「うん、助かるよ」
礼司と魔美はハンズへ向かった
「何を買うの?」
「相手がガス人間だからジッポーとオイル」
「刀にオイルをつけて煙鬼を切るの?」
「ありゃばれた?」
「そんな詰まんない、ネタに詰まったりして」
「げげ、ばれたか。ちょっとまて何か考えるから」
二人がハンズへ歩いていく途中突然左の小さな店に入った
「夜野さんどこに入るの?そこ香水屋さんよ」
「ああ、知っている」
「もう、女の子ばかりだよ」
「それも知っている」
礼司は香水のサンプルの臭いを嗅いでいた
「どうしたの急に」
「ああ、そろそろ加齢臭がきになったりして」
「本当だ。匂うかも」
「やめてくれよ、気になる」
「魔美、メンズの香水もあるのか」
「もちろん、渋谷の若者の100%近くがつけているよ」
「おい、そんなにいるのか?」
「うん」
礼司はディオールアのオーデコロンのサンプルを嗅いだ
「おお、この臭い」
「いいでしょ、今流行っているのよ。ソヴァージュ」
「今日俺ともめた男の臭いだ」
「もてる男の香水」
「いや、プンプン臭くて、この丸のボトル見覚えがあるぞ」
「ええっ?」
「ほらさっきの死んだ男達が持っていたやつだ」
「ほんとう?」
浜田から受け取った書類をカバンから取り出して見た。
「本当だ、二人が持っている」
「ひょっとして、五人ともつけていたとしたら」
「煙鬼はこの臭いの男を狙っていたかもしれないな」
「うん」
「母親に聞いてみよう」
礼司は15000円もするオーデコロンを買って交番に向かった。
「ああ、何回センター街往復するんだろう」
「まったくだ、計画性が無い」
二人は早足で駅に向かった
交番に着くと奥の部屋では男と母親が話をしていた
「浜田警部補は?」
「今出かけていますが」
似顔絵を描いていた男が答えた。
「津島と申します。夜野さんですね、警部補から聞いております」
「ご苦労様」
礼司は絵を覗き込んだ。
「おお、これさっきの男じゃないか」
礼司は絵を持って礼司を捕まえた警官に見せた
「これ昼間にここに来た男ですよね」
「は、はい」
警官の一人が答えた。
「お母さん、この男私も、ここの警官も見ました」
「本当ですか?」
「はい、ところでこの男オーデコロンをつけていませんでしたか?」
礼司は買ってきたオーデコロンを紙に吹きかけて母親に渡した
「そ、そうですこの香りです」
「やはり」
そう言って魔美を見た
「じゃあ今夜この男が狙われる可能性があるわけ」
魔美が礼司の耳元で囁いた
「ああ、可能性はある」
そこへ浜田がジュラルミンのトランスケースを抱えてやってきた
「遅くなりました、これです」
「ありがとう、男の子の発作の原因を作ったのが
今日俺とトラブルを起こした男だったよ」
「じゃあその男危ないですね」
「ああ、すぐ探そう」
「はい、でも警察から人は出せませんよ、
せいぜい似顔絵をコピーするくらいです」
「しょうがない、みんなで男を捜そう」
「はい、どの辺りで?」
「魔美とお母さんはセンター街の入り口で、
浜田はパチンコ屋へ、今度こそ俺は武器を買ってくる」
「どうしてパチンコ屋なの?」
魔美が不思議そうに聞いた。
「事件があったのは夕方だったけど、
今日は昼頃来ていたから遊びに来ていたんだろう。
それならパチンコ屋に来る可能性は高い」
「そうね、買い物とかデートもあるけどね」
「ああ、そう無い事を願いたい」
魔美がビラを配っていると
声を掛けたのはサングラスを真理子だった
「あら魔美ちゃん」
「えっ?」
「真理子さん」
「どうしたの?」
「人探しなの、この人」
「ふーん」
「知っているの?」
「ううん、でもみんなに言ってみるわ」
「すぐ大丈夫?時間が無いの」
「えっ?鬼なの」
真理子は小さな声で言った
「うん」
「じゃあ、夜野さんもいるの?」
真理子は顔を赤らめて周りを見渡した
「いませんよ、夜野さん」
「どこにいるのかな、この前のお礼も言いたいし」
「すぐに戻ってくると思う」
「じゃあみんな呼ぶね」
「お願いします」
しばらくすると、学生風の男達が十数人集まって真理子を囲んだ
「おお凄い」
さすがアイドルだね。
「みんなお疲れ様」
真理子が言うと低い声で男達が言った
「お疲れ様です」
「みんなにお願いがあるの、この男を人探して」
「はい」
男達はスマフォに撮ってビラを持って一斉に散らばって行った
「私もビラ配ってあげる」
そう言うと真理子はビラの裏にサインをして
サングラスをはずした。すると通行人は真理子に
気がつき次々に人が集まった
「人を探しています、知っている方がいたら教えてください」
そう言うと通行人はビラを見ながらセンター街を歩いていった
「すごい、さすが真理子さん」
「いいえ、ところで夜野さんは戻ってきた?」
「ええ、戻ってきたよ」
「本当だ!夜野さーん」
真理子は礼司の腕に抱きついた。
「おお、しばらく。おいおいアイドルが男の腕に抱きついていいのか?」
「いいの、私アイドルじゃなくて歌で勝負しているから」
「ところでどうしたんだ」
「そこで魔美ちゃんと会ってお手伝いしていたの」
「そうか、ありがとう」
魔美は腕を組んで二人を見ていた
「魔美できたぞ、ん?どうした怖い顔して」
「ふん」
「なんだ?」
そこへ浜田から電話があった
「あの男、居酒屋で働いているそうです」
「おお、それで?」
「さっきまでパチンコを打っていたそうなんですが、出たみたいです」
「名前は?」
「わかりません、店員が常連なので覚えていたそうです」
「おいおい、渋谷に居酒屋が何件あると思っているんだ」
「そうですね」
「あと、5時間か見つかればいいけど」
「魔美、男は居酒屋の店員らしい」
「うん・・・・それで」
「それだけだ」
「はあ」
魔美は肩を落とした
「おい、気を落とすなよ」
「うん、でもせっかくここまで来たのに」
「わかった、食事にするか」
「だって・・・」
「とりあえず後5時間後には何かが起きるんだから」
「うん」
「お母さん今日のところはお帰りになった方が」
浜田がたしなめると母親は答えた
「はい、おかげさまで手がかりができましたから、ありがとうございました」
「いいえ、意外と今晩見つかるかも知れませんよ」
「死体で」
礼司は小さな声で言った
礼司と魔美と浜田と真理子はしゃぶしゃぶの食べ放題の店に入った
「真理子さん大丈夫なの?」
魔美が不機嫌に聞くと真理子は礼司に向かって笑った。
「ええ、もちろん今日はオフだし連絡があるかも知れないでしょ」
「はい、ありがとうございます」
「解かっていることをまとめると、タバコがメンソールだった。
香水がディオールアのソヴァージュ、顔は解かっているし、勤め先は渋谷の居酒屋だ、そして歩きながらタバコを吸う男」
「それから」
「鬼が現れたのは母親の生霊じゃない」
「解かるの?」
「ああ、それと亡くなった達也君でもない」
「じゃああの親子との関連はないの?」
「いや、ある」
「どういう意味?」
「浜田、もう一回達也君の亡くなった辺りで人が死んだか調べてくれないか、二ヶ月前くらいの」
「解かりました、すぐに」
浜田は席を立った
「魔美、食事が終わったらポチを連れてきてくれ」
「はい」
「夜野さん、居ました」
「一ヵ月半前に男が殴られて死んでいます」
「犯人は」
「まだ捕まっていません」
礼司が目をつぶってしばらくすると
「よし、見えた」
「なにが?」
「達也君が苦しくてもがいた時首傷から出た血が男の地縛霊にかかったんだ」
「うん、うん」真理子は体を寄せてきた
「死んだ男はタバコを吸っていた男に注意をして殴られた」
「なるほど」
「その男は」
「あいつだ!!」四人は口をそろえていった。
「でも、どうして他の男が死んだのですか?」
「この3日間渋谷に来なかった、代わりに同じ条件の男の肺を食った」
「そうか!!」
「おお、もう19時だ、浜田、魔美を頼む」
「はい」




