十一章 煙鬼
夕方の渋谷駅前、ハチ公口からスクランブル交差点に歩く親子がいた
「ママ、パパの誕生日のお買い物何を買うの?」
「ネクタイがいいかな、達也も一緒に選んでね」
「うん」
母親は達也の手を握って横断歩道の前に立った
信号が変わり親子は109の方へ向かって歩き出して
横断歩道を渡り終えようとした瞬間、達也が急に咳き込んだ
「だいじょうぶ?達也」
母親は喘息の吸入器を吸わせた
それでも達也の咳が止まらず、顔色が真っ白に変わって行った
「誰か!誰か助けてください」
いつの間にか親子の回りに人だかりができていた。
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数日後、昼過ぎハチ公の前に夜野礼司が座っていた
若者達が行きかう中で礼司はショートパンツの女性の姿を追っていた
そこに、金髪のロン毛で黒いスーツの若い男がやって来た
スマフォを開いて電話をし終えるとポケットからタバコを取り出し
火をつけた。
「おいここでタバコを吸うなよ」
礼司は迷惑そうに話かけた
「なんだと、こら」
男はいきなり礼司の胸倉を掴んだ
礼司は冷静胸を突き出した。
「向うの喫煙所で吸えよ」
「うるせいな、このオヤジ」
男は胸倉を掴んでいた右手を離しそのまま右手で
礼司の顔をめがけて殴りかかった
礼司は左手で男の右手を捕まえ左に体を翻し、
男の手をねじり上げた
「痛てて」
「な、タバコは喫煙所で吸おうな、返事は」
「はい」
そこに交番から二人の警官が走ってきた
「ちょっと」
警官は礼司の肩を掴んだ
「なんですか?」
「二人とも交番まで来てください」
「なんだよ」
礼司はどなった
「ここで喧嘩はこまるんだよ」
二人は交番へ行き奥の部屋に礼司は入れられた
「理由はどうあれ、喧嘩はまずいな」
「喧嘩じゃないですよ、タバコを注意したら殴りかかってきたんですよ」
「それであんたは殴られたのかな、どう見てもあんたが強そうに見えたが」
「そりゃ、あんなヘナチョコにやられて、たまりますか」
すると、隣の部屋にいた警官が入って来た。
「あの男、時間が無いとかで帰りました」
「おい、俺も待ち合わせしているんだ」
礼司は立ち上がった
「ちょっと待ってください、少し聞きたい事があるんですけど」
「わかった、じゃあ電話をさせてくれ」
「どうぞ」
礼司が電話をするとすぐに、浜田が交番に飛び込んできた
「すみません、夜野さんいらっしゃいますか?」
奥の戸が開くと
浜田は身分証を警官に見せると三人の警官は敬礼をした
「すみません夜野さん、しかもお休みのところ」
「いいよ、たかがタバコを注意しただけなのに大げさになってしまった」
「あはは、そうですね」
礼司は交差点の周りを見渡すと
「渋谷はいろんな霊がいるなあ」
「見えるんですか?」
「まあね」
「ところで何のようだ」
「事件です」
「ん、鬼か?」
「ええ、たぶん」
二人はスクランブル交差点を渡るとセンター街に入った
「それで?」
「この先で男が死んだんです」
「なんで?」
「さあ、急に苦しみだして死んだそうで」
「おっとこの先にうまいタルトの店があるんだ」
「はい」
二人はパルコの脇の店に入った
「夜野さんここ女性ばかりじゃないですか」
「いいだろう男が食ったって」
「はい」
二人は道路側の席に並んで座った
「夜野さんこの並び怪しくありません」
「まあな、あはは」
礼司は大声で笑った
「ところで死体解剖したんだろう」
「ええ、実は死体に肺が無いんです」
「それは鬼が食ったんだろう」
「でしょう、私もそう思うんです」
「それで被害者は何人だ」
「ええと五人です」
「警察はどう処理しているんだ」
「ただの変死ですよ、ただこのまま放って置いたら何人死ぬかですよね」
「うん、止まらないだろうな」
礼司は考え込んだ
「いつもなら、鬼がでたら魔美が現れるはずなんだが」
「そうですよね。どうしたんだろう」
「うん、また墓石がずれているのかな?」
「墓石ですか?」
「ところで、被害者の苦しむ前に何か無かったか?」
「ええ、五人ともタバコを吸っていたようです」
「タバコか」
「うん、煙鬼だよ」
魔美が二人の後ろに立っていた
「おっ、魔美来たか」
「どうしてここが解かったの?」
浜田が驚いて聞いた
「夜野さんの来る所は決まっているから、うふふ」
「魔美ちゃんやはり鬼ですか?」
「うん」
「魔美ちゃん何食べます?」
「ブルベリータルトとミルクティ」
「はい」
浜田は立ち上がった、レジに向かった
「魔美何かあったのか?」
「うん、実は煙鬼をこのままにしておこうかなと思っていたの」
「どうして」
「だって被害者になるのはタバコを吸う人だけだし」
「なるほど、このままならタバコを吸うやつはいなくなるなあ」
「ええ」
「困るのはJTと国だけか」
「そうなんですか?魔美ちゃん」
トレーを持った浜田が席に着いた
「わあ、ありがとう。ええ、タバコさえ吸わなければ大丈夫」
「魔美、もっと深い理由があるだろう」
「ええ、実は私の世界では誰もタバコを吸わないの」
「ええ、そう言う文化がなかったの?」
「いいえ、私の世界では地球温暖化が進んでいて
世界中の人がタバコを吸うのをやめたの」
「おい、初めて聴いた、温暖化が進んでいるのか?」
「うん、それで私のパパが・・・・。」
礼司が魔美の言葉をさえぎるように
「さあ、どうやって退治する」
「ところで魔美ちゃん、煙鬼はどうして渋谷から出ないんですかね」
「原因が渋谷にあるとしか考えられないわ」
「浜田・・・さん。大至急タバコが原因で死んだ人を探そう」
「どんな?」
「ん~、たとえば火事とか今日の俺みたいにタバコを注意して殺されたとか」
「はい、すぐ調べます」
浜田は外に出て電話をした
「ちょっと待ってください、少し経ったら連絡がきます」
「うん、魔美ところでどうやって退治する?相手が煙だから」
「そうね。汗鬼と同じでピストルの弾も刀も効ないわ」
そこへ浜田の電話が鳴った
「夜野さんタバコが原因で人が死んだ報告は上がっていないそうです」
「そうか、やっぱりな」
礼司は目をつぶったまま言った
「ところでどうやって退治するの」
「今考えているよ、後何時間ある?」
「8時間あるわ」
「じゃあ、散歩でもするか」
「散歩?」
「うん、浜田さんみなさんが死んだ場所の案内お願いできるかな?」
「は、はい、了解です」
「それと魔美ポチ呼べるかな?」
「いいけど、夜野さん今日休みだよね」
「大丈夫です、うちの方でお迎えに行きます」
浜田が嬉しそうに言った
「わーい、パトカーだ」
魔美が飛び上がった
三人が渋谷駅前の交差点に立つと礼司が回りを見渡した
「向かいの薬局の前で若い女性が死んでる
そのビルの前で中年の男、その隣のビルの上にもいるな」
そして礼司が突然黙って目を潤ませた。
「どうしたの?夜野さん」
魔美が心配そうに聞いた
「うん、大きなモニターのあるビルの前で3日前に男の子がそこで死んだ、
息ができなくて苦しそうだった」
「かわいそう・・・。」
「うん、さあ行こうか。浜田・・・さん」
「夜野さん、浜田でいいですよ」
「うん、ありがとう。あはは」
三人はセンター街に入りすぐの電気店の前で浜田が止まった
「ここで1人目の男が死んでいます」
「うん、二人目がその先の靴屋の前、三人目と四人目がハンバーガー屋の前か」
「わ、解かるんですか」
「うん、五人目は?」
センター街の出口のデパート見えるところで浜田が指さした
「ここが五人目の男が死んだ所です」
「うんそうか、場所が移動しているな」
「はい」
「浜田死んだ男たちの資料は無いか?」
「今は持っていませんけど」
「すぐにそれを見せてくれ」
「はい、部下に持ってこさせます」
「頼む」
「はい」
「俺達はこれから武器を買ってくる」
「ぶ、武器ですか?」
「うん、お買い物。うふふ」
うれしそうな魔美の顔を見た
浜田は首をかしげながら駅のほうへ歩いて行った
「武器は何にするの?」
「その前に本屋へ行くわ」
「うん」
礼司はセンター街に戻ろうとしていた
「こっちに大きな本屋さんがあるよ」
「いや古本の方」
「あはは、まんだらけね」
「あそこでネタ探そう」
「ハイハイ、でもフィギュアが見たいんでしょ」
「まあな、そろそろ鬼退治の時のコスチュームが欲しくなってきた」
「あはは、どうして?誰も見てくれないよ」
「いや、服が汚れるし、お尻は破れるし・・・洗濯が大変なんだよ」
「なるほど、じゃあスエットでいいじゃない」
「わかったよ」
礼司はふてくされていた




