十章 汗鬼②
礼司は数メートル飛び真理子の腕を引くと
床には大きな口を開けた鬼の顔が見えた
「こら!」
そう言って礼司は思い切り持ち上げると
下半身のズパッツが脱げた真理子を引き上げた
「きゃー」
真理子は手でお尻を隠した。
礼司は外にいた男にガラスを割るように指示をした
「は、はい」
その男は近くに有ったダンベルでガラスを割って入って
来ると凄い勢いで熱い空気がスタジオから出て行った
ドアを押していたインストラクター開けると20人の
生徒は悲鳴と共にスタジオから飛び出した
「ありがとう」
礼司はガラスを割った男に言った。
「いいえ」
「あれ、浜田?」
「はい、どうして僕の名前を?」
「俺の事知らないよな」
「はい」
「仕事は警察か?」
まもなく警察がスポーツクラブに急行したが
誰も何も理解しなかった。
次の日、品川区のスポーツ施設のスタジオで同様な
事件が起きた。
「きゃー」
数人の女性が床に吸い込まれ
「げっぷ」
音と共に床から干からびた女性の死体が湧き上がった。
皇居周りの道路ではジョギング中の女性が
地面に吸い込まれ行方不明になった。
******
その日の夕方、礼司は青山墓地で魔美を待った。
しかし、窓も叩かれず携帯電話も通じなかった。
その時運転席の窓が叩かれた。
「夜野さんちょっとお話できませんか?」
浜田はタクシーの前に立っていた。
「乗ってください」
礼司の声に浜田は助手席に座った。
「すみません。お忙しいところ」
嫌味か――――
「はい、どんな用件ですか?」
「実は品川区のスポーツ施設で我々が遭遇したと同様な事件が起きたんですよ」
「うん、それで?」
「我々の時には夜野さんが助けましたけど、
品川区では床に吸われてその後
死体が吐き出されたそうです」
「うん、それで?捜査はどうするの?」
「やだなあ、夜野さん。捜査なんてできるわけ無いでしょう
山のように目撃者がいるんだから」
「なるほど、床板を逮捕できるわけない」
「実は三日前は池袋のサウナルームの扉が開かなくなって
男性が二人死んでいるんです」
「それで、地獄タクシーの夜野さん犯人は分かっているでしょう」
「よく知っているな。俺の名前」
「はい、警察ですから」
警察の捜査能力を知っていている礼司は首を横に向けた。
「犯人は人の汗を好む鬼だろう」
「鬼?」
「ああ、人を食う鬼だ、あの時一瞬床に鬼の顔が見えた」
「どうやって捕まえる事ができるんですか?」
「鬼のノブが無いと・・・・。その前に魔美を探さないと・・・・」
礼司は独り言を言った。
「何言っているんですか?」
礼司は少し考えると心に決めた。
「よし行くか」
「どこへ?」
「善然寺、じゃあまた」
「夜野さん、私はどうすればいいんですか?」
「あはは、あんたじゃ無理だよ」
礼司は浜田と電話番号を交換して
タクシーを走らせ中野に向かった。
タクシーを運転しながら礼司は
魔美のいない不安に陥っていた。
「魔美、このままお前が戻ってこなかったら、鬼は退治できないぞ」
礼司が中野に着くと善然寺を尋ね玄関のチャイムを鳴らした。
「こんばんは」
「ああ、夜野さんどうしたんですか?」
住職の奥さんが出てきて言った。
「あの良くここに来ていた魔美ちゃん最近見かけないけど・・・・」
「魔美ちゃん?」
「はい、女子高生の」
「知らないわ、誰の事かしら?」
礼司は住職の奥さんにそっけなく返事をされた。
「あいつ、人の記憶消したな」
礼司はつぶやいた。
「そうそう、明日お通夜があるから21時に来ていただけるかしら」
「はい、畏まりました」
そう言って玄関を出ると礼司の携帯に付けていた
鬼の根付の目が光った。
「ん?」
礼司は根付に導かれるように裏手にある墓地に入ると
暗がりに白く光る墓石が見えた。
そこに行って墓石を見ると礼司は唖然とした
『夜野家の墓』
「夜野家?」
礼司奇妙な感覚を感じて排石をずらし
カロート(納骨堂)を覗き込んだ
懐中電灯で中を照らすと中の石板が外れていた
「しょうがねえな」
骨壷が一つも無かった石板を元に戻し
排石を戻して手を合わせた。
「魔美戻って来いよ」
そう言って礼司は墓石に背を向けた
「うん」
魔美の声が聞こえた。
「ん?」
礼司が振り返ると魔美が墓石の前に立っていた
「お、お帰り」
「ただいま」
魔美はにっこりと笑っていた。
そして、脇には巨大猫嵐丸とボーダーコリーのポチが座っていた
「元気だったか?」
「うん」
ポチは脇に座って礼司の手をペロペロと舐めて
嵐丸は体を伸ばして礼司のズボンで爪を研いだ。
「こら!嵐丸」
礼司は嵐丸の頭を軽く叩きながら
「魔美、鬼が出たぞ」
「うん、知っていたけどこっちへ来られなかった」
「墓石がこっちへ来るマシンなのか?」
「うん、直してくれてありがとう」
礼司は魔美を思い切り抱きしめたかった。
「さあ、行こう」
「どこへ?」
「もちろん、汗鬼退治よ」
「そ、そうだ。行くぞ」
「ところでどうしよう。鬼がどこにいるか分からない」
「魔美が知らない事があるのか」
「うん」
「鬼は女性好きらしいぞ」
「どうして?」
「被害者が全員女だ。そのうちの二人を俺が助けた」
「良かったわね。感謝されたでしょ」
魔美は皮肉っぽく言った。
「まあな」
「さてどこへ行こうか?」
「美味しい汗のあるところだろう」
「美味しい汗?」
「うん、労働、スポーツの汗だろう」
「スポーツをしている女性の汗ね。どこかで、スポーツの大会やっていないかな」
「ああ、東京体育館で国際バレーをやっているぞ、日本対ブラジル」
「そこだ、行こう」
礼司と魔美と嵐丸とポチはタクシーに乗って原宿へ向かった
「ねね、チケットは?」
「無い、あはは、チケットは完売だ」
「どうやって入るの?」
「ちょっと待って」
礼司はタクシーを止めると浜田に電話をした
「夜野です」
「はい、どうも」
「今度はバレーの会場に鬼が出る可能性がある、
我々が入れるようにしてくれないか」
「それはいいですけど・・・。我々ですか?」
「女性一名、猫と犬だ!」
「はあ、了解です」
浜田は不思議そうな声を出した
「ねね、誰?」
魔美は礼司の顔を見た。
「ああ、SSATの浜田だと思う。同じ顔をしていた」
「あの浜田さん」
「うん、向うで死んだらしい」
「じゃああのミッションは失敗?」
「分からん、最近由美からのイメージも届かない」
「じゃあ、由美さんも」
「うん、そうは思いたくないな。俺の計画が失敗したなんて思えない」
「そうね、夜野隊長」
「うん」
タクシーが東京体育館に着いたのが121時過ぎでそこに浜田が待っていた。
「夜野さん、どうしたんですか?」
「あの鬼は女性の美味しい汗を狙っている。だからここが一番怪しい」
「はい、話は通してありますから入ってください」
礼司は車から降りると魔美はミニスカートを翻しタクシーから降りて
嵐丸とポチを連れて走って行った
「お久しぶり、浜田さん」
「お久しぶり?」
浜田は首をかしげた。




