仕事の探し方~夢中になれることを探して~(童話)
この国では、13歳になると「試験の森」に入らなければならない。
森の中には、いろんなジャンルのゲームがあって、クリアしたジャンルによって、将来の職業が決まるのだ。
アクションの道、RPGの道、音楽の道、パズルの道……
それぞれに、ちがう試練と遊びが用意されている。
「得意なゲームジャンルを見つけることが、じぶんの仕事を見つけるカギなんだよ」
と、大人たちは口をそろえて言う。
でも、ミナには、それがよくわからなかった。
好きなことはあるけれど、すごく得意だと思えるものはなかったからだ。
◆
森の入口で、ミナは深呼吸をした。
同じ町の子たちは、きらきらした目で「アクションの道」に走っていったり、
「シュミレーションの道」で木をけずったりしている。
ミナもついていって、「アクションの道」に入ってみた。
そこでは、動く足場をジャンプして進んでいく。
けれど、ミナはバランスをくずして、すぐに池に落ちてしまった。
「うーん……これ、得意じゃないかも」
つぎは「クラフトの道」。
指定された材料をつかって、おもちゃの風車を作るゲームだ。
ミナは、説明どおりにやっているつもりだったが、なぜか羽がまがってしまった。
まわりの子が「回った!」と喜ぶ中、ミナの風車は、ぴくりとも動かなかった。
PVPの道では、何も出来ずに、味方の足を引っ張り怒られた。
「ごめんなさい、わざとじゃないの!」
さまざまな、ジャンルをやってみたが、一つも上手くいかず、笑われてばかりだった。
「私は……ダメかも」
ミナの足は、どんどん重くなっていった。
“得意なゲームジャンル”が見つからなかったら、わたしには向いてる仕事もないのかな……?
◆
そのとき、ひとつの小道に気づいた。
人の気配が少ない道に、小さな看板が立っている。
【パズルの道】
「……これ、ちょっとやってみようかな」
ミナは、その道を歩き出した。
途中には、いくつかのゲームテーブルがあった。
一つ目は、四角いピースを組み合わせて、ちょうど四角い枠をうめるゲーム。
二つ目は、ヒントカードをもとに順番を並びかえるゲーム。
三つ目は、色や形を見て“どこに何があるか”を見ぬく迷路ゲーム。
だれかと競争するわけでもなく、急がされることもない。
ミナは、黙々と考え、手を動かしながら、ゆっくりと解いていった。
1問、2問、3問……
集中すればするほど、目の前の世界に入りこんでいく感覚があった。
気づけば、まわりのことなんて、何も気にならなくなっていた。
◆
最後の問題を解きおえたとき、ミナは大きく息をついた。
すると、どこからか「カラン」と鐘の音がした。
「おめでとう、パズルの道をクリアしたね」
声の主は、森の試験官だった。
白いローブをまとい、やさしい目をしている。
「あなたの得意なゲームジャンルは“気づき”と“組み立て”。
じっくりと観察し、小さなヒントを集めて、全体を組み立てるのがとても上手だったよ」
「え……そう、ですか?」
「うん。焦らず、丁寧に、ひとつずつ向き合っていた。それは立派な“力”だよ。
君に向いている職業は、町のしくみをつくる設計士。パズルのように、町の形、人の流れ、建物の配置を組み合わせて、みんなが暮らしやすい世界をつくる仕事だ」
ミナは、胸の奥があたたかくなるのを感じた。
「わたしにも、できる仕事があるんだ……!」
◆
森を出ると、仲間たちが自分の“ゲーム結果”を話し合っていた。
「アクションの道でスポーツ選手になったよ!」
「クラフトの道でおもちゃ職人!」
「料理の道で料理人だ!」
ミナも、そっと言った。
「わたしは、パズルの道で“設計士”になったよ」
すると、みんなは目をまるくした。
「えっ、そんな道あったの?」
「なんか、すごくミナらしい!」
ミナは、照れくさく笑ってうなずいた。
まだ、仕事ははじまっていない。
でも、はじめて“自分に向いてる場所”を見つけた気がして、心が軽くなった。
自分が得意な“ゲームジャンル”を見つけること――
それは、じぶんにぴったりな仕事を見つけるカギだったんだ。
◆ おわりに:
この童話のテーマ:
「仕事は、儲けることや、勝つことや、目立つことじゃなく、“夢中になれること”で見つけた方が幸せになれるような気がします」