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第4話 運用は計画的に

「はい、わからせ決定」

「あぁ? んだとコラ」


 俺は決断し、女の子を一旦地面に寝かせる。

 少しだけ待っててくれ。


「キミら、ショーゴくんとヒロキくんだっけ?」

「だったらなんだ? ケンカなら買ってやんぞ?」

「うんうん。若いときってのは特に理由もなく大人に反抗したいもんだよな。その気持ちはわかる。俺にも経験があるし」


 ガタイが良い、ショーゴらしき方が一歩前に出る。金髪ツンツンの彼である。


「知ったような口利いてんじゃねェぞテメェ? 格上はこっちだぞ、あぁ?」

「格上? なんの格が上なんだ? 人格? まさか」

「テんメェ……っ!」


 俺は手を広げて『何言ってるのかわかりません』ポーズをする。ショーゴくんの額に青筋が浮かぶ。わー、マンガみたい。


「ショーゴ、もうさぁ、めんどいしコイツやっちゃえば? 森に捨てれば誰にもバレないっしょ」

「だな。……おいおっさん、もう謝っても許してやらねーからな」


 上着を脱ぎ、肩を回しはじめるショーゴ。ヒロキは観客よろしく、座り込んで手を叩きはじめた。


「一発で決めてやんよ。くらいやがれ――」

「お、キミ【ギフト持ち】か」

「――《剛腕》ッ!!」


 ショーゴが拳を握って引き、腰だめの姿勢をとった次の瞬間。

 空気を切り裂く轟音と共に、目にも止まらぬ速度で()()()()()()が飛んできた。


「うおぉ!?」


 俺は岩のような拳の殴打を、全身で受け止めた。ヤツの【ギフトスキル】への興味と、後ろに女の子がいるためである。


 どん、と。ほう、なかなかの威力だ。


 防御する直前、スキルで全身を強化したので事なきを得たが、並みの人間ではひとたまりもないだろう。


「あぁ? 生きてやがるな」

「うわ、ショーゴダッサ。弱くなった?」

「うっせ! 煙草でも吸ってろや!!」

「そうしまーす」


 言うと座り込んだヒロキは、上着の胸ポケットから煙草を取り出した。パッケージ的に、どうやらこっちの世界に来る前から持っていたものらしい。

 なんだ、普通に素行不良な連中じゃないか。日本じゃ煙草は二十歳を過ぎてから、だろ。……まさか俺が死んでから変わったとか、ないよな?


「なにしたかしらねぇが、もう一発ぶちかまして――」

「そんなに連続で発動して大丈夫?」

「は? ……ぁ?」

「あれぇ? ショーゴどしたの?」


 また腰だめの姿勢を取ろうとしたショーゴの膝が、ガクンと崩れ落ちる。ヒロキは煙を吐きながらニヤついている。


 俺は呼吸をしながらショーゴに近付き、膝立ちの彼を見下ろした。


「キミみたいなタイプはきっと、指導者講習チュートリアルをちゃんと受けていないんだろうな」

「はっ、はっ、な、まて」

「一部の選ばれし者だけが持つ【ギフト】は確かに強力だ。でもこの世界じゃ保持できる魔力量は皆一律」


 見下ろしたまま、チュートリアラーお得意の講釈を垂れる。


「と、いうことは。魔力運用の基礎をしっかりと身に着けないうちは、魔力を大量消費するギフトは()()なんだよ。そもそもキミ、興奮して呼吸浅くなってたしね」

「な、はっ、いったい、どういう」

「まぁ説明しても無駄か。そもそも聞いてないんだもんな、チュートリアル」

「や、やめ――」

「ていっ」


 ドスンっ、とな。

 フック気味の一撃を、彼のアゴに叩き込んだ。

 ショーゴはキレイさっぱり失神し、沈んだ。


「次はキミか?」

「え、な、ちょ」


 ヒロキはショーゴが無力化したのを見て、慌てて煙草を地面に押し付け、捨てた。いやポイ捨てすんなっつーの。


「なな、なんなんだよアンタ!? お、おれらに盾突くなよ! 『勇者』、おれら王様が呼び寄せた『召喚勇者しょうかんゆうしゃ』なんだからなッ!?」

「はぁ。でも王様が今助けに来てくれるか?」

「ッ!?」

「あと別に、盾突くとかじゃないよ。キミらにある若さゆえの無鉄砲さとか生意気さは、全然いいと思ってる。個人的には」


 一歩一歩、呼吸を絶やさずヒロキに近付く。

 なにせ還暦(中身)まで生きてると、若者の勢いとか根拠のない自信とか、そういうものが必要な瞬間があるってよく分かってくるし。だからこそ若さ特有の輝きが生まれるんだと思うし。


「でもなー。キミらからしたら残念かもしれないけど……それだけじゃどうにもできない現実もあるってことを体感させてあげるのも、大人の務めと思うわけです」

「な、なな何言ってんだよ!? 意味わかんねーよ!!」

「あと、一番大事なこと、もう一つ」


 尻餅をついたまま後ずさる彼に目線を合わせるように屈み、ニコリと笑いかける。

 そしてゆっくりと、その襟をつかんだ。


「女の子は大切にしろ。このボケナスが」

「おぶぉええ!? …………っ」


 ヒロキくんには、べちん、とビンタをかました。

 脳が揺れたのか、白目を剥いて意識を失った。


「さて、と。三人同時には……運べないよな」


 運ぶ優先順位的には考えるまでもなく女の子だろう。

 一度ショーゴが名前を呼んでいたな。ヒロカ、だっけ?


 俺はヒロカちゃんとやらに上着を羽織らせ、おんぶをしてアルネストへと戻った。男二人はテキトーでいいやと思い、他のギルド職員に状況を知らせて回収してもらった。


 冒険者ギルドは町の治安維持的な機能を司っている場合があるので、こういったことも業務の一つ。皆手際が良く、自分を含めて誰も意味不明な残業をしなくて済んだっぽくてよかった。


 気絶したまま台車に載って来た二人は、そのまま簡易牢に入れられた。

 牢に入れた方がいいと言ったのは、まぁ俺ですよね。



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