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第128話 最速勇者の凄まじさ

 グラウンドドラゴンを打倒したヒロカちゃんと共に、俺は待機所へ戻った。

 中に入った途端、フィズがとてとてとヒロカちゃんの元に近寄ってきた。


「ヒロカさん……わたくし、圧倒されました。サンドワームを倒したとき以上の衝撃です」

「ふふ、ありがとフィズ。なんとかやったよ」

「本当に、ヒロカさんは勇者です。お見それしました」

「て、照れるよぉー」


 感動した様子で、フィズがヒロカちゃんを褒め殺している。

 うんうん、俺も彼女の先生としてなんとも鼻が高い。


 その後、他の従者の人たちも口々に「すごい」「さすが勇者様だ」といった風にヒロカちゃんへと拍手を贈り、褒め称えてきた。

 もはや世界的な有名人と言って差し支えない『最速の勇者』の凄さに、俺も改めて感服していた。


「ふぅ」

「ヒロカちゃん。お疲れ様」

「あ、先生。ありがとうございます」


 一人ひとりへの対応を終えたヒロカちゃんに歩み寄り、水筒と汗拭き用の布を手渡す。

 フィズやザイルイル大司教らは、聖魔樹海側の出口の近くで祈りを捧げている。


「疲れた?」

「いえ、大丈夫です」


 待機所の隅にある椅子に横並びで腰掛け、一息つく。


「ヒロカちゃん、さっきのあれ……いったいどうやって、《暴風乙女テンペストリリ》を?」


 俺は申し訳ないと思いつつも、つい好奇心が抑えられずに聞いてしまう。


「あー。えっと、アレは言うなれば疑似的な《暴風乙女》ですね」

「疑似的?」

「ええ。私、あまり効いていないのに、地竜の体表面へダガーで攻撃を繰り返していましたよね?」

「ああ」

「あれで地竜の身体に、私の魔力を刻み付けていって、そこへ雷属性の魔力とギフトを組合わせて流し込んだんです。サンドワームに使った『氷結』の、電流バージョンという感じですかね」


 名もなき村近くのダンジョンで見せた圧倒的な姿が、思い出された。

 俺は相槌を打ちながら、思考を巡らせる。


 ヤツの体表面を切りつけ魔力を刻み、それを媒介にすることで電撃の流れをよくするイメージだろうか?


「さすが先生、その通りです。各所に打ち込んだ魔力を経由させることで、巡りがよくなるんです。しかもギフトと組み合わせれば、魔力消費も大きな電撃を放つより少なくて済む。だから効果範囲も広く取れる、というわけです。ただ、さすがにあの巨体を一撃で仕留める威力と範囲を作るのは大変で、すぐ息が上がっちゃいましたけどね」


 屈託なく笑うヒロカちゃん。

 本人は事もなげだが、魔法とギフトに関するアイデアと、実戦の中での実行力が凄まじい。


「ふぅ。なんにせよ、少し疲れました。私、向こうの部屋で少し横になりますね」


 ヒロカちゃんは額や首の汗を拭いながら、一度大きく息を吐いた。

 さすがに疲れが出たのだろう。


「わかった。もし必要なら、あとでフィズに回復魔法をかけてもらいな。俺から声をかけておくから」

「ありがとうございます」


 これ以上付き合わせては悪いと思い、俺は待機所の外へ出ることにした。

 聖魔樹海ではなく、大陸側の方だ。


「うわ、ちょっと寒いな」


 外へ出ると、すでに陽が落ちつつあり、肌寒い風が吹いていた。

 夜はもう、かなり冷え込むかもしれないな。


◇◇◇


「ユーキ、さっきは御苦労だったな」


 夜になり、俺とイルミナは大陸側の出入口の見張り番をしていた。

 星空の下、二人で焚火を囲んでいる。


「いや、俺は何もしてないって」

「手を出したいところをグッとこらえ、教え子を見守るというのも大切なことだ」

「……かもな」

「それにしてもヒロカ様は……とんでもないな。まさか、あのグラウンドドラゴンを一人で倒してしまうとは。すでにレイアリナ団長と同等レベルに強くなっているんじゃないか?」

「ああ。あの手合わせの頃より、格段に強くなってると思う」


 興奮気味に話すイルミナ。やはり彼女もヒロカちゃんの戦いぶりを見ていたようだ。


「レイアリナ団長も最近は魔法の強化に注力していたから、お二人とも手が付けられない領域にまで強くなっているのだろうな……くそ、私もうかうかしてられん」

「まぁまぁ。そんな焦るなよ」

「いや、私は今回のこの遠征も、自らの糧として強くなる。今はヒロカ様の足元にも及ばないというのは悔しい限りだが……私にはまだまだ、伸び代がある」


 凛々しい表情を浮かべ、拳を握るイルミナ。

 こいつのこういう前向きでへこたれないところは、正直羨ましいと思った。


「……そうだな。俺も、あの子の先生として、もっともっと成長してかなくちゃな」


 イルミナの熱意にほだされ、俺もぽつりと宣言する。


 今俺からヒロカちゃんに教えられることは、もうないのかもしれない。正直、そんな自分が情けないと感じていた。


 しかし、思い直した。

 教えられることがないのなら、教えられるぐらいにまた知識や技術を磨けばいいだけだ。

 要は自分が成長し続ければ、後進へ向けてなにかしら言ってあげられることが、自然と生まれるはずなのだ。


 またもやまさか、イルミナに励まされるとは思いもしなかった。

 今度はだいぶ、彼女を見直した。


「まぁ、焦ってばかりでも仕方ないからな。せっかくの関所での夜だ、ユーキも付き合え」

「…………」


 ……と、見直した途端。

 イルミナはどこかからワインを取り出し、得意げに掲げた。

 うん、準備のときに俺が発見したやつだな。


「……俺の感動を返してくれ」

「む? なにをわけのわからんことを言っている。お互いに生き方や目標が定まったのだ、祝わなければならんだろ!」

「ただの飲むための口実だろ……」


 そんなこんなで。

 俺とイルミナは、夜通しの見張りの間、ひたすらワインを酌み交わすこととなった。


 あぁこれ、絶対酔いが残る気がするなぁ……。



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