第115話 イルミナとの連携
「イルミナ! 気合入れろッ!!」
「い、言われずともっ!!」
ダンジョンに生息する魔物が興奮状態に陥り、大挙して押し寄せる危険現象《魔物大暴走》。その発生が分かった時点で俺とイルミナは、急いで魔力を練り上げた。
「こ、これは一度外に逃げた方が、い、いいのでは!?」
奥から黒い津波のようになって出てくる魔物の群に臆したのか、イルミナが腰を引き気味に言う。
しかし、ここで退くわけにはいかない。
「だめだ! ここで食い止めないとあの村にこいつらが溢れることになる!」
そう、ここでこの魔物たちを漏れなく撃滅しなければ、あの村はこの波に飲み込まれ、蹂躙されてしまうことになる。
本来であればこのような事態を避けるために、ギルドなどの然るべき機関が発見されたダンジョン領域を定期的に調査し、スタンピードが発生しないよう魔物の駆除を冒険者に依頼したりするのだが……最悪のタイミングで、俺たちはダンジョンに入ってしまったと言うわけだ。
が、今は四の五の言っている場合ではない。考え得る最良の結果へ向けて、今できる最善を尽くすのみだ。
俺はまず《魔眼》を発動させ、魔物の先頭集団を睨みつける。
「「「GRYAaaaa!?」」」
「よし!」
魔眼をモロに受けた先頭を走る魔物たちは、訳もわからないまま転倒する。
すると、そこへ後方から走り込んでくる魔物どもが引っ掛かり、続けざまに脚をもつれさせて一斉に態勢を崩していく。
「今だイルミナ! あの折り重なって団子みたいになってるところへ魔法を打ち込め!!」
「心得たッ! ――《火大球》!!」
「「「GgYAAaaaaッ!?」」」
俺の指示に素早く反応し、イルミナがヴィヴィさん直伝のファイアヒュージボールを打ち込む。着弾し、多数の魔物が燃え滓となる。さすがイルミナ、自らをエリートと自負するだけのことはあるな。二日酔いで迷惑千万だった朝とは大違いだ!
俺が魔眼で牽制し、体勢が崩れたところへイルミナが魔法を放つ連携攻撃で、俺たちはスタンピードから距離を保ったまま、魔物の数を削っていく。
「このままいけるぞ! イルミナ、耳に魔力を集めて鼓膜を守れ! できるか!?」
「この私を舐めるな! この数ヶ月、どれだけ鍛錬を積んだと思っている!」
「よし、成果を見せてみろ!」
合図し、俺は腹に力を込める――絶賛特訓中の、言わば《魔声》である。
「――《弾け飛べ》!!」
「「「UggYaaaaッ!!」」」
空間を震わせる叫びに触れ、魔物が言葉通りに数体弾け飛んだ。
まだ完全に会得できたわけではないが、なんとか使えるレベルにはなってきたな。
「イルミナ! 次は魔法で壁を作れるか!?」
「任せておけ!」
俺はイルミナへハンドサインを送り、耳を開放してもらってすぐ、次の魔法の指示を出す。するとイルミナは、瞬く間に大きな魔力を紡ぎ出した。
迅速かつ繊細な魔力操作。イルミナ、これは完全に汚名返上だな!
「思いっきりやっちまえ!」
「見ておけ、ユーキ。私の真の実力を――《大炎壁》!」
掛け声の後、巨大な炎の壁が出現する。
俺の《魔眼》と《魔声》を運よく掻い潜った魔物たちが、それによって一網打尽となる。
すごいな、イルミナ。あんなに大きく分厚い炎を出せるとは、さすがだ。意地っ張りの子供っぽいキャラとのギャップがとんでもない!
「あとは炎の壁から出てくるヤツらを、俺が直接叩く!」
俺はサーベルを抜き、全身強化のスキルを発現させながら突っ込んでいく。ジャイアントバッド、ブルーゴブリン、スライム、バーサクボアらを撃墜していく。
よし、このダンジョンにはそこまで強い魔物はいないようだ。この調子なら、一匹も外へ出すことなく全滅させられる!
「おりゃ! ……はぁ……はぁ……どうだ、そろそろ終わりか!?」
「やるな、ユーキ……見直したぞ」
ひとしきり暴れた俺たちは、さすがに身体に気怠さを感じ、一息つく。奥から溢れるように出てきていた魔物たちは、ほぼ駆逐されて意気消沈していた。
ダンジョンにはまた、ひっそりとした沈黙が戻ってきている。
たまに弱い魔物や小型の生物が、唸りながら出口へ向かう程度だ。
アレらは、目くじらを立てて撃破するほどではない。
「キィ、キィ」
「……?」
だが、途切れることなく、忙しない様子で魔物や生き物が奥から這い出てくる。それが一向に止まる気配がない。
その魔物たちは、スタンピード特有の突発的興奮状態では決してなく……。
というより、まるでなにかから、本能的に逃げているだけのような……?
逃げている――まさか。
「GOORUoooooooo!!」
そこで奥から、地鳴りのような咆哮が身を震わせた。
……嫌な予感が、当たってしまった。
「最悪だ……」
「こ、この鳴き声はなんなんだ、ユーキ!?」
この季節、洞窟型ダンジョンの最奥で稀に発生し、調査や対応の遅れた近隣を壊滅させる、厄介極まりない特定危険指定魔物――
「――《サンドワーム》だ!」
巨大なミミズのようなグロテスクな生物が、暗闇の奥から姿を現した。




