第114話 魔吸石捜索
俺たちは村民に事情を説明したうえで、近隣にあるダンジョンへと足を運んでいた。目の前には、ぽっかりと口を開けた洞窟。ダンジョンとしての名前は、まだないらしい。
村人の一人が一度だけ入ったことがあると話していたが、どうやらまだギルドの調査、名付けすらされていない新生のダンジョンのようだった。
当然、中の環境や状態なども全て不明だ。
「……正直、普通の状況であれば絶対に止める。チュートリアラーとしては」
俺はヒロカちゃん、フィズ、イルミナの順で顔を見回す。
これから夜になる時間帯なのだ、魔物が活発化するタイミングでダンジョンに入るなど、自殺行為も甚だしい。
「先生、止めたって無駄です。私は一勇者として、あの村を救うためにできることがあるなら、絶対に行く」
強い意思のこもった目で、俺を射抜くヒロカちゃん。その隣に立つフィズも、負けず劣らずの強い眼差しで頷いた。
「……うん。正直ヒロカちゃんなら絶対に行くよなって思ってた」
「ふふ、先生が私のこと、一番わかってくれてるんですから」
茶目っ気たっぷりに笑うヒロカちゃん。つられて俺も苦笑する。
よし、ここまで来たらやるやらないじゃなく、最善を尽くすことを考えよう。
「フィズ、ちなみにさっきの『魔吸石』ってのはどうやったら手に入る?」
俺は頭を切り替え、フィズに話を振る。
「魔吸石というのは、ダンジョンで稀に発生する、魔元素を吸入する力が強い魔石のことです。紫に近い色をしていますが、大きさは大小様々あります」
身振り手振りを交えて説明してくれるフィズ。
聞いていて、ふと思う。
「ヴィヴィさんが開発した『ギフト石』に、性質としては近いのかな?」
「あ、そうですね。通常の魔石にも魔元素を吸い魔力を溜め込む性質はありますが、魔吸石はそれがより強いものです。もしかしたらギフト石も、その力を応用したものなのかもしれません」
ヴィヴィさんにこの情報を共有すれば、もしかしたらギフト石が量産できるかもしれない。あの石の力のおかげで難敵を退けられたからな、多くて困ることはないだろう。
「どこに発生しやすいとか、魔物が排出することがあるとか、そういう条件はある?」
「魔吸石は、浅い階層の方が発生しやすいとされています」
「ふむ。奥にあるよりは安全か」
当然だが、ダンジョンは入り口に近い方が魔物も少なく安全性が高い。
「手つかずのダンジョンですから、きっと魔吸石があるはずです。ただ、魔毒病の症状によってはかなりの量が必要な場合もあります」
「じゃあ、一つ見つけて終わりってわけにはいかないね」
この際だ、採れるだけ採っておくとしよう。
「それと、魔吸石がダンジョン内の魔元素を吸収しすぎてしまうと、普通の魔石と同質になってしまうので、採取後、すぐにダンジョン外へ出して鮮度を保つ必要もあります」
「じゃあ、掘る係と運搬係に別れた方がいいかも」
話の流れのまま、簡単にチームを割り振った。
洞窟内は魔物も出て危険度が高いので、前衛的な動きができる俺とイルミナが担当することとなった。ヒロカちゃんが運搬係で、フィズが洞窟の外で魔吸石を鑑定する。
「よし、それじゃ『魔石堀り』を薦めるチュートリアラーの、本領発揮といこうか」
「「「おーう!」」」
俺たちは一度円陣を組んで気合を入れてから、ダンジョンへ足を踏み入れた。
◇◇◇
ダンジョン内に入った俺は、まず真っ先に火球と枝を使い、灯りとなる松明を作った。
そしてすぐさま戦闘態勢に入り、ダンジョン内にいた魔物たちを瞬殺した。そうして安全性を確保したうえで、魔吸石を探すのだ。
名もなき洞窟ダンジョンの入口には、コウモリ系統とゴブリン系統の魔物が数体生息していた。決して強力な魔物ではないので、安堵する。
「あった! これは結構大きいぞ!」
魔石堀りをはじめてすぐ、興奮した様子のイルミナが叫ぶ。嬉しそうな声が、暗い洞窟に響き渡った。
いや、気持ちはわかるんだけどさ? 魔物を刺激しちゃうから気を付けようって言ったよね?
「イルミナ、いくら魔物がそこまで強くなかったからって油断するなよ」
「むぅ……いいじゃないか別に。なにが出てこようとも負けはせんぞ」
注意すると、イルミナは不貞腐れたように唇を尖らせた。
まったく、マジでエリートキャラどこいったんだ。
「いよっと」
俺は気持ちを切り替え、壁や地面を村で借りたツルハシで掘っていった。
「あった」
岩肌をゴリゴリと削っていくと、灰色や黒色の通常の魔石の中に、じんわりと紫色に輝く箇所があった。あれが魔吸石だ。
何度かツルハシを振り、石を削り出す。
すでにある程度の量が見つかり、今はヒロカちゃんが洞窟外へ搬出を行っているところ。
と。
「…………ん?」
「……ユーキも聞こえたか」
洞窟の奥から、なにかが響いてきたような気がした。イルミナも感じたのか、ほぼ同時に顔を上げていた。
俺は意識を研ぎ澄ませ、ダンジョンの奥へと続く道――真っ暗闇のそのまた奥へ、視線を向けた。手元に灯りがあると先が見えないので、松明を消す。
目に魔力を集め、夜目を利かせる。
微かに……土煙が立っている?
「…………これ、まさか……」
耳を澄ませていると、徐々に地響きのような音が大きくなっていた。
それは、洞窟型ダンジョンで起こり得る、最悪の事態――。
「《魔物大暴走》か!?」
「っ!?」
一気に全身が、粟立っていた。




