表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/125

第114話 魔吸石捜索

 俺たちは村民に事情を説明したうえで、近隣にあるダンジョンへと足を運んでいた。目の前には、ぽっかりと口を開けた洞窟。ダンジョンとしての名前は、まだないらしい。


 村人の一人が一度だけ入ったことがあると話していたが、どうやらまだギルドの調査、名付けすらされていない新生のダンジョンのようだった。


 当然、中の環境や状態なども全て不明だ。


「……正直、普通の状況であれば絶対に止める。チュートリアラーとしては」


 俺はヒロカちゃん、フィズ、イルミナの順で顔を見回す。

 これから夜になる時間帯なのだ、魔物が活発化するタイミングでダンジョンに入るなど、自殺行為も甚だしい。


「先生、止めたって無駄です。私は一勇者として、あの村を救うためにできることがあるなら、絶対に行く」


 強い意思のこもった目で、俺を射抜くヒロカちゃん。その隣に立つフィズも、負けず劣らずの強い眼差しで頷いた。


「……うん。正直ヒロカちゃんなら絶対に行くよなって思ってた」

「ふふ、先生が私のこと、一番わかってくれてるんですから」


 茶目っ気たっぷりに笑うヒロカちゃん。つられて俺も苦笑する。

 よし、ここまで来たらやるやらないじゃなく、最善を尽くすことを考えよう。


「フィズ、ちなみにさっきの『魔吸石まきゅうせき』ってのはどうやったら手に入る?」


 俺は頭を切り替え、フィズに話を振る。


「魔吸石というのは、ダンジョンで稀に発生する、魔元素を吸入する力が強い魔石のことです。紫に近い色をしていますが、大きさは大小様々あります」


 身振り手振りを交えて説明してくれるフィズ。

 聞いていて、ふと思う。


「ヴィヴィさんが開発した『ギフト石』に、性質としては近いのかな?」

「あ、そうですね。通常の魔石にも魔元素を吸い魔力を溜め込む性質はありますが、魔吸石はそれがより強いものです。もしかしたらギフト石も、その力を応用したものなのかもしれません」


 ヴィヴィさんにこの情報を共有すれば、もしかしたらギフト石が量産できるかもしれない。あの石の力のおかげで難敵を退けられたからな、多くて困ることはないだろう。


「どこに発生しやすいとか、魔物が排出することがあるとか、そういう条件はある?」

「魔吸石は、浅い階層の方が発生しやすいとされています」

「ふむ。奥にあるよりは安全か」


 当然だが、ダンジョンは入り口に近い方が魔物も少なく安全性が高い。


「手つかずのダンジョンですから、きっと魔吸石があるはずです。ただ、魔毒病の症状によってはかなりの量が必要な場合もあります」

「じゃあ、一つ見つけて終わりってわけにはいかないね」


 この際だ、採れるだけ採っておくとしよう。


「それと、魔吸石がダンジョン内の魔元素を吸収しすぎてしまうと、普通の魔石と同質になってしまうので、採取後、すぐにダンジョン外へ出して鮮度を保つ必要もあります」

「じゃあ、掘る係と運搬係に別れた方がいいかも」


 話の流れのまま、簡単にチームを割り振った。

 洞窟内は魔物も出て危険度が高いので、前衛的な動きができる俺とイルミナが担当することとなった。ヒロカちゃんが運搬係で、フィズが洞窟の外で魔吸石を鑑定する。


「よし、それじゃ『魔石堀り』を薦めるチュートリアラーの、本領発揮といこうか」

「「「おーう!」」」


 俺たちは一度円陣を組んで気合を入れてから、ダンジョンへ足を踏み入れた。


◇◇◇


 ダンジョン内に入った俺は、まず真っ先に火球ファイヤボールと枝を使い、灯りとなる松明を作った。

 そしてすぐさま戦闘態勢に入り、ダンジョン内にいた魔物たちを瞬殺した。そうして安全性を確保したうえで、魔吸石を探すのだ。


 名もなき洞窟ダンジョンの入口には、コウモリ系統とゴブリン系統の魔物が数体生息していた。決して強力な魔物ではないので、安堵する。


「あった! これは結構大きいぞ!」


 魔石堀りをはじめてすぐ、興奮した様子のイルミナが叫ぶ。嬉しそうな声が、暗い洞窟に響き渡った。

 いや、気持ちはわかるんだけどさ? 魔物を刺激しちゃうから気を付けようって言ったよね?


「イルミナ、いくら魔物がそこまで強くなかったからって油断するなよ」

「むぅ……いいじゃないか別に。なにが出てこようとも負けはせんぞ」


 注意すると、イルミナは不貞腐れたように唇を尖らせた。

 まったく、マジでエリートキャラどこいったんだ。


「いよっと」


 俺は気持ちを切り替え、壁や地面を村で借りたツルハシで掘っていった。


「あった」


 岩肌をゴリゴリと削っていくと、灰色や黒色の通常の魔石の中に、じんわりと紫色に輝く箇所があった。あれが魔吸石だ。


 何度かツルハシを振り、石を削り出す。


 すでにある程度の量が見つかり、今はヒロカちゃんが洞窟外へ搬出を行っているところ。


 と。


「…………ん?」

「……ユーキも聞こえたか」


 洞窟の奥から、なにかが響いてきたような気がした。イルミナも感じたのか、ほぼ同時に顔を上げていた。


 俺は意識を研ぎ澄ませ、ダンジョンの奥へと続く道――真っ暗闇のそのまた奥へ、視線を向けた。手元に灯りがあると先が見えないので、松明を消す。


 目に魔力を集め、夜目を利かせる。


 微かに……土煙が立っている?


「…………これ、まさか……」


 耳を澄ませていると、徐々に地響きのような音が大きくなっていた。

 それは、洞窟型ダンジョンで起こり得る、最悪の事態――。


「《魔物大暴走スタンピード》か!?」

「っ!?」


 一気に全身が、粟立っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ